反撃されました
ハイ・エントなる精霊が登場しております。
エントの上位クラスです。
とにかくデカイ存在です!
炎上を続ける森の精霊の群れから、一本の木が分離した。それは、今まで気が付かなかったのが不思議なぐらい、大きな大きな森の精霊だった。
背の高さは森の天井を担うかのように高く、横にもかなり太い。他の森の精霊の二倍、三倍はありそうだった。あとで聞いた話だが、そのような個体を、神木の精霊と呼ぶそうだ。
「うああああ!! 大きい!!」
神木の精霊が迫ってくると、七メートルの背丈を誇る僕達でも、自然と見上げるようになる。幹の部分に顔があった。その表情は怒りに満ちている。真夜中の森で、このような人面と遭遇してしまったら、泡を吹いて卒倒してしまうだろう。
口の部分が動いて雷が轟くような音がした。それは初めて聞く神木の精霊の声だった。
「やってくれたな第十三書記よ! 神木の森を焼いた代償は高くつくぞ!」
「五月蝿いわ、アホ! へぶし! ちょっと待てや、はくしょん! はっ、はっ……、はくしっ! こ、これはアカン! お前が近づいてきたらクシャミが止まらん!」
「がっはっは! 俺様の花粉で息もできんだろう? ほれほれ粉じゃ、もっと舞え舞え、舞い上がれ!」
神木の精霊の枝や葉が揺れて、はっきりと目に分かる程の粉が舞った。その嵐でカティアは掻き消されてしまいそうだ。
「うぐぅ。おのれぇマール! どこにおるんや? 出てこい! このでかい神木の精霊を引っ込めろ! へっくし!」
「ここじゃ、ここ! 馬鹿弟子が! 師匠には敬語を使わんか!」
もう一つの声が聞こえると、雪崩のように覆い被さってくる木から、何かが飛び出した。それは、白い外套を着た老人だった。森の精霊どもの契約主、第十書記のマールだと思われた。
カティアは暗い空に浮かぶ白い影を睨んだ。
「はっくしっ! だ、誰が師匠や! お前に教わった事なんかないで! 偉そうに吠えるなや!」
「なんじゃと!? 穴堀り娘がぐれよって! 意味のある文字を書けるようにしてやったろうが! ワシの味方をせんと何をしておる!?」
「玉座に行くに決まってるやろ!」
「かぁ~! お前が玉座に行ったら、バースの大地が滅茶苦茶になるわい! 馬鹿な事は止めて、我が軍門に降れ」
「いややジジイ! お前とは趣味も理想も合わんのや!」
「お、おのれ、馬鹿弟子が! お前の領地ごと没収じゃ!」
マールが着地する。と同時にゴム毬のように勢い良く跳ねた。七十を越えていそうな老人が、する動きじゃない。
「この元気なジジイは私に任せて、お前らは、あのでっかいのを何とかしろ――!」
カティアが僕達を振り向いて言った。ちょうどカティアの頭上ギリギリを、神木の精霊の腕が通過しようとしているところだった。そのやたらと太い腕は、巨人の姿をしている僕達を狙っていた。
ド――ン、と大地を震わす音がした。
巨人が両手を前に突き出して、攻撃を止めた音だ。少し遅れて突風が通り過ぎた。咄嗟に防御姿勢をとったのは、先生と六股君だ。稲妻のような反射神経で巨人を操ったのだ。
「ひえ! 死んだかと思った!! 凄いよ二人は――!」
驚きと興奮。そして、助けてくれた二人への賛辞。もう嬉しくて、金品をプレゼントしたって構わない。
荒れ狂う花粉の中、間一髪で神木の精霊の攻撃を止めたのだが――。
「きゃあああ!」
――ああ、しまった。
オハナさんが、死ぬ目にあって酷く取り乱した。激しい動悸が伝わってくる。
先生が、たまらず怒鳴った。
「オハナさん落ち着いて! 私と六股君で捕まえています。大丈夫だから、今の内に攻撃してください! く、靴下君もオハナさんのカバーを頼む! へぶし!」
「えっ――! こ、攻撃ってどうやるんですか!?」
僕が戸惑うと、六股君の声がした。
「さっき、やったっしょ! 思い出して靴下君! はくしっ!」
――て、言われてもさ!
僕達の脳には、既にマニュアルはインストールされているんだ。だから動くはずだ。意志を強く持ち、力を注ぎ込めば巨人は答えてくれるはず。
――うおおお! お願いだ、オハナさんも協力してください!
「わ、私だって、娘にまた、会いたいんだから!! ああ、もう! ご飯ちゃんと食べてるかな!! くしゅん!」
僕の意識にオハナさんが呼応すると、オハナさんの正気が戻ってきた。
そうだ、そうだ。こんな所で殺られたら、会いたい人に会えなくなる。自分達が居た場所に帰れなくなる。命令されて戦っているだけだ。勝手に戦争が始まったんだ。だけど、だけど……。
――負けたら、何もかも終わりだ!