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言わぬが花のダンディズム

作者: 尾手メシ

 語れないものを語る。


 言語化できないものを言語化するのが小説である、らしい。語れるのなら「語れないもの」じゃないじゃないかと言うのは野暮というもの。D'ont think,feelの精神が大事である。


 語れないものは一旦脇に置いておいて、よく創作のテーマに据えられるものといえば愛や悲しみ。しかし、テーマになっているからといって登場人物に直接的な言葉で語らせるのも、やっぱり野暮というものである。面と向かって「愛しています」と言ったり、涙を流しながら「悲しいです」と言うのは、いかにも情緒に欠けるというものだ。

 ハンフリー・ボガートが格好良いのは「君の瞳に乾杯」とグラスを掲げたからで、「君、かわうぃーね」では何とも締まらない。


 格好良いといえば、伊東静雄の「水中花」である。学校の講義でこれが出た時、文学の先生は「ただただ格好良いだけの詩」だと教えてくれた。当時は何のことかよく分からなかったのだが。

 六月の昼と夜の間の生命に溢れる庭と女々しい男を対比させて、そこに水中花を投げ入れるのだ。そうすることで二つが混じり合って、最後の「我が水無月のなどかくは美しき」へと結実するのである。そこに立ち現れるのは伊東静雄の美学であり、沢田研二や矢沢永吉にも通底する昭和の男のダンディズムであり、阿久悠の言葉を借りれば、「男のやせ我慢」ということなのだろう。


 すっかり死語になってしまった感のあるダンディズムだが、その本質がやせ我慢であるなら、これは「語れないもの」というよりは「語らないほうが良いもの」であろう。なにせ「男のやせ我慢」であるのだ、指摘するだけ野暮というもの、言わぬが花である。武士は情を知るものと心得るべし。男は黙って背中で語る、というのも時代遅れではあるけれど。


 さて、武士ではない私は、もう少しダンディズムについて語っていこう。

 ダンディズムとはそれだけで存在するものではなく、その根底には男と女という性対比がある。「女とは違う男の理想像」という文脈でダンディズムは消費されてきた。SDGsの現代においては、なるほど、時代遅れになるはずである。しかし、昭和の時代において、ダンディズムを共通認識にすることで男同士で価値観を共有していたことは確かである。

 ダンディズムが時代遅れとなったことで、現代では、男はいわゆる「男らしさ」からは開放されてきているけれども、それが即座に幸福へと繋がっていくかというと、これはまた別問題である。

 「男らしさ」という頸木から解き放たれた一方で、目指すべき目標もまた見失ってしまった。右往左往する迷子の男の悲哀がここにある。まさに「自由の刑に処せられている」のだ。

 こうなってくると、「語れないもの」とうのが、がぜん力を持ってくるのではないだろうか。今こそ「語れないものを語る」べき時だ。男として独立するダンディズムが必要である。


 脇に置いておいたものを、ここでいそいそと出してきてみたわけだけれども、語る前には一息入れて落ち着いてから。何故なら、「語れないもの」には「語るべきでないもの」もあるからだ。

 私たちは言葉を操る少し賢いサルだけれども、やっぱりサルなので完璧に言葉を操ることは出来ない。安易に言葉にすることで取りこぼしてしまうものもあるのだ。

 だから「語れないものを語る」ために、詩や物語りや歌を通して遠回しに語るのである。急がば回れではないけれど、慎重に吟味しながら大胆にやり取りするのだ。私が取り込んだ物語りは、元の物語りから変質してしまっているけれど、だからこそ私の物語りになっていくのである。


 「紅の豚」でポルコ・ロッソに憧れる時、それは宮崎駿が生みだしたポルコとは変質してしまっているけれど、私のポルコが殴り合っているのだ。その瞬間、私の中には豚の形をしたダンディズムが存在しているのである。伊東静雄が水中花を挟んで世界と対面したように、私はポルコを挟んでダンディズムと対面したのだ。

 私のポルコ・ロッソはエンドロールと共に飛び去ってしまったけれど、空に引かれた飛行機雲に名残を見る。それが、新たな物語りへと繋がっていくのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幼女作家「かっこ悪いのがかっこいい」 [一言] ダンディズムって、なろう系では流行ってないんだよな。なんでだろうと思ったら、スタイリッシュになりすぎているんだと思う。だいたい、チートとかを…
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