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悪役育成プログラム またの名を…

 


「どういうことだ、シリル」


 我らがコック長 シリル・ベールの登場である。この時、俺は少しも驚かなかった。あの日のこいつの分かりやすい態度故じゃない。


 なぜなら、こいつはいつもこいつの嗅覚は一般的に無臭と言われるもの、それが毒であっても嗅ぎ分ける事ができるからだ。



「シリル、お前何やってるんだ」


 シリルは無表情だった。


「なんのことっすかね。それより坊っちゃん、体調はいかがっすか」


 俺も感情を伏せ、淡々と言葉を返す。


「体調はだいぶ回復してきたよ。でも、其処じゃない。本当にお前、何してるんだ」


「だから、なんのことっすか」


「聞いてたなら分かるだろ、毒だよ。なんで、そんなことをしたんだ」


「俺っすか?」


「まあ、入れたのはお前じゃないかもしれないが、少なくともお前は同じ部屋に居たんだ。獣属の血を引くお前が分からない訳無いだろう」


「それもそっすね」


 さっきのロザリーと一緒だ。子供に言えない秘密を、相手を傷つける可能性を持った真実をシリルは抱えているんだろう。表情が隠しきれていない。


「なあ、なんで毒なんだ」


「どういう…ことっすか」


「お前は普段から俺らにこの世に俺の嗅ぎ分けられないものはない、例えそれが料理に入っていてもだ!って豪語して、何が入ってるか当てるゲームして無双してただろ。それで、今回の毒は分かりませんなんてこありえないって誰が考えても犯人分かるだろが。そもそも、毒も見分けられるとも言ってたしな」


 俺は一呼吸おいて、ゆっくりと言葉を出した。


「で、なんで毒なんだ。お前の剣の実力ならもっと確実にバレないよにできただろうに」


「…それは」


 シリルが左上を向きながら、続ける。


「剣だったらそれこそ俺だってバレるじゃないっすか。だって俺ですよ?」


「毒でバレたんだから、今更だろ」


「でも…」


「否定しないんだな。毒、入れたこと。その否定はもう良いのか」


 俺は事実を冷静に紡ぐ。すると、シリルが頭を抱えうずくまりながら、叫んだ。


「…っあ、はああ。もう、俺は元々筋肉で考えるんであって、頭を使うのは俺の領分じゃねえんっすよ!」


「だろうなあ、だからなんで毒なんだって聞いたんだろ」


 俺が冷静に返すと、恨めしそうな視線を向けてきた。なんだよ、なんかあるってのか。


「坊っちゃんこそ気づいてます?普段よりもめっちゃしっかりしてるっすよ、言葉。隠さなくていいんすか。いつも隠してるっすよね」


 あ、すっかり忘れてた。


 俺は話せるようになってからというもの、天才少年で済むように申し訳ない程度に幼い言葉や言い方を心がけていたのだ。ただ、バレてしまったからには仕方ない。


「それは、あれだ。毒で倒れて覚醒したんだ」


「ロザリーに対してはいつも通りだったじゃないすか」


「シリルに会って覚醒したんだよ」


 シリルは再び、頭をガシガシとしながら唸り声を上げていた。しかし、その症状が収まった後、静かに言った。


「坊っちゃんは俺が怖くないんですか。…恨めしくないんですか」



 怖い、恨めしいね。



「少なくとも、怖くはない。恨めしくなるかはお前のこの後の話次第だな」


「なんで、そんないつも道りなんですか……」


 シリルは俯き、拳を握る。声が震えている。


「俺は…殺そうとしたんですよ」


 俺は、窓の外を見た。今日はいい天気だ。いつもならシリルに剣技を習っているところだろう。


「そうだな、お前は確かに俺を殺そうとした。それは事実だ」


 シリルは俯いたまま。


「…でも、俺はお前の意思だとは思っていない」


 シリルが顔を上げた。ひどくうろたえた顔をしている。


「俺を本当に殺そうとするなら、そもそも確実な剣を使うだろうし、バレないために毒を使ったと言うなら、俺が寝込んでいる間に毒を仕込むことも出来た筈だ。第一、己の意思で暗殺を試みるようなやつはそんな顔はしない。もしも、それら全部が嘘ならお前はとんだ役者だよ」


「…坊っちゃん」


「なあ、シリル。真実を教えてくれないか。お前が思っている以上に子供じゃないよ」


 俺にとっても一つの賭けだった。現時点では、シリルが嘘をついている可能性がなくなっているわけではない。けど、今の非力な俺には信じるということしかできないし、もしシリルが本気で俺を殺そうとしたなら俺は逃れることはできない。そして、もう一つ。色々と言ったが、これが本当の理由だ。理屈じゃない。俺は、信じたかったんだ。この世に来て、俺に一番親身になってくれた父さんのようなシリルを信じたかったんだ。


 長い沈黙の後、シリルはこの家に受け継がれている恐ろしい伝統を話してくれた。


 この家は


 まず、皇太子は幼少5つになるまで別邸で暮らすことになる。

 この時、クラウド家からは、よりすぐりの剣士、魔法師、家宰の三名が送られ。幼少から、知力、魔法、剣術を教え込み、王に相応しい能力を備えさせる。また、母方からは母の連れてきた一名のみが入ることを許される。この人数の少なさは、昔、この家の財宝、または暗殺報酬欲しさに事件が絶えなかったことが起因しているらしい。


 そして、二歳五ヶ月、丁度今の俺の年になるとクラウド家の洗練を受けることになる。毒受の儀式と呼ばれ、二歳五ヶ月を迎えた子供の飯に毒を仕込むのだ。家側のノリとしては、縄文人がイベントごとに歯を抜くと言ったのと同じらしいが、比べ物にならないレベルで物騒だ。え、なんでそんなことしてんの。俺、確か皇太子だったよね。え?皇太子って割と大事大事に育てられるもんじゃないの。ノリで毒仕込んでんじゃねえよ。死ぬわ!というのが俺の最初の感想である。実際、多くの皇太子がこの儀式のせいで命を落としているんだとか。冗談じゃねえよ、なんだよそのデスゲーム。


 この儀式(デスゲーム)において、求められるのは運、及び屈強さなのらしい。


 話を聞く限り、俺は完全な運に全振りタイプだ。毒の発症後の発見が早かったこと

 母の連れてきた侍女であるロザリーが薬草学に精通しており、即座に的確な治療を施してくれたこと、

 あの時毒を仕込まれていたあさりのスープを少ししか飲まなかったことで、毒の摂取量が少なったことが一命を取り留める一因となったらしい。良かった、年甲斐もなくあの時あさりのスープこぼして!


 ちなみに屈強の代表例は俺の父である アドルファスなのらしい。父は、毒を一般的に致死量飲んだ上、全く治療を受けなかったのにも関わらず、高度な魔力操作と強靭な肉体によってこの儀式を乗り越えたそうだ。この時の高度な魔力操作も己の身を護るため幼少の父が無意識に行ったことらしい。所謂チートと言うやつだ。


 これは俺の勝手な見解だが、この儀式は、現国王アドルファス・クラウドのようなチート的存在が誕生するまで、皇太子を選別すると言った目的があるように思える。俺は全くの運で生き残ってしまったから、実に不安である。


 シリルいわく、他の儀式ははその儀式はを担当するものにしか伝えられていないそうだが、他にも色々とあるらしい。儀式は毒系だけでなく、剣技やその他の知識を利用しなくては乗り越えられないようになっているらしい。

 

 また、本来は皇太子の混乱を防ぐため、儀式については話さないようにと言われているそうだが、俺はことを理解出来るほどに成熟しているため、話さないほうが返って、誤解を生むと判断したらしい(まあ、その後言ったもうごまかしきれなかったというのと坊っちゃんに誤解されるのが耐えられなかったというのが大半を占める気がするが…)


 しかし、この情報により、ゲリラ的かつ防ぎようのない儀式はこれだけだ。今度からは詳しい内容はわからずとも、これから理不尽すぎる儀式があるということは分かっている。これだけでも、大きな進歩だ。今回の件だって事前にこの儀式が行われる事がわかっていたら、毒に関する知識ももっと入れて、より的確に対処もできた筈だ。


 俺はこの理不尽な悪役育成プログラム、またの名を失敗は全て死のデスゲームに屈する訳には行かない。俺は最高の悪役になるんだ!絶対に死にたくない!本気で!


 死にたくないんだあああああああああ!!!!!!!!!!!!



 ps  シリルとは普通に仲直り?をした。「坊っちゃん、ごべんなざああああい」と大泣きしていて、全  

     く俺のそばを離れようとしないので、マリーに「坊っちゃんは本調子では無いのよ!」と酷く叱ら 

     れていた。俺が寝込んでいる間、みんながかわりばんこに一日中面倒を見てくれていたらしい。



     どうやら俺は思っていた以上に、愛されているのかもしれない



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