追いかけっこ 羊と狼
羊は階段を上っていく。
狼に追いかけられながら上っていく。
どこかに逃げ込めるか分からないけれど。
どこかで途切れているかもしれないけれど。
たんたんたん。
たたたたた。
階段の脇には美味しそうな草が生えている。
「おーい、羊よ羊。わきには草がはえているぞ」
狼がそんな事を言ったけれど、羊はそれでもわき目をふらずに上っていく。
やがて階段の終わりにたどり着いた羊は、振り返って狼に尋ねた。
「君はこの結末が分かっていたのかい?」
狼は首を振った。
実は追い詰められていたのは狼の方だった。
可哀そうなのは狼の方だった。
出口はあった。
美味しそうな草もそこにはあった。
でも、一回しか通れないボロボロの橋の先にあった。
飢えた狼を見て羊はさよならを告げた。
頬がこけていて、骨まで見えてしまいそうな、そんな狼に。
結末を知ってしまえば、最初から最後まで狼が不利だったのだ。