妖精に夢を見る
「まあ、こんなところです。許してというのも一般的にはおかしな話ですがおねがいします。勇者ーさま。名前お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「………」さっきまでの騒がしさが嘘のような静寂が訪れる。
どどどうしよう、まずい。正確に何がまずいかわ分からないがまずい。文字で会話できると試してみたが指が信じられないほど揺れて書くってレベルじゃなかった。まじ許さねえ。
「ふ、藤田様です。勇者藤田さま。」静寂を破ったのは巫女の少し上ずった声だった
「お、おう。中々硬派な御方だな。」
「私としても、騒がしい方とお聞きしていたんですが………」即席の演劇のようなぎこちないしゃべり方でやり取りを終えた彼らは、俺に視線を向けてくる。
どうする事も出来なかった俺は無表情を貫き通し、その様子を見ていた兄貴が口を開いてくれた。
「なあ、んな事はどうでもいいからこいつは殴るのか、殴らないのか、結局どっちなんだよ。」
「殴らないだね、殴ろうとするのもやめてほしいけど。俺も感心しないとは言ったが別にやろうとしていることが間違ってるとは思っていない。方法が問題なだけだ。それで依頼を受けた。」
「だが勇者様が手伝うていうなら話が変わるかも知れない。幸い長期滞在する訳でも無さそうだし、もし妖精を確保できたなら…お金を払う以外入国に大した制限のないこの国。その子の罪を不問にできる。」
「おねがいします勇者様」真剣な顔で真っ直ぐ目を覗き込んでくる。
文字が無理でも、はいかいいえで答えられるなら問題はない。そう思い首を縦に振ろうとした時だった。
「あ、ありがとうございます」そう満面の笑みでいってきた。
くそう、別に信者にまで感染しなくたっていいじゃないか。
「よし、じゃあ妖精のいる場所について教えよう。」俺たちは席に座り彼とあの男たちに詳しく話を聞いた。
結構広い森ではあるが俺が見せた力でも大丈夫なのだとか。一般人よりは強いとのこと。その森の中で魔物の寄り付かない場所を進めとそう言われた。
ありがとう、とは言えないか
おれは席をたち深々と頭を下げる。巫女も同じく頭を下げ俺達は酒場を後にした。建物の作る影が無くなった真っ昼間の道を右に曲がる、森へ向かうため。
藤田たちがいなくなった酒場は静けさはないもの不思議と寂しさに包まれていた。
「あ~俺の、俺のドラゴンスレイヤーが」出入口の方に目一杯手を伸ばした後に諦めたように下を向いていた。
「酷いですよムニエルさん」
「だってしょうがないだろう、あいつら武器を買う金なんて持ってないんだ。」
「それならそのお金もあげちゃえばいいじゃないですか。」
「このばっ…考えなし。無料で情報教えたんだ、それ以上するわけにはいかねえだろ?」
「それよりお前ら飯にしないか?」
この言葉を聞いて兄貴も顔を上げるが、何か思ったのかまた元に戻ってしまう。
「最近バイトで雇った奴がもうすぐ来るんだ、だから外で食べられるぞ!な!?」
その言葉を聞きすぐさま出入口に向かう二人。その二人をマイペースなスピードで追うマニエル姿はどこか楽しそうに映る。
酒場を出たところで右を見るマニエルだったが、藤田はいなかった。
殴って気絶てのは流石にヤバイが仕事をしてるのに傷つけられたんだ、そのあといつも喧嘩を仲裁するのりでヤっちゃったけど。多少のうそは許してもらうぜ。
魔物の寄り付かない場所、見つけるのは簡単だ。でもあいつはここらの人間じゃ倒せない。頼んだぞ勇者様、じゃねえと安心してこいつらを冒険に出せないんだ。まあ、本物かは分からねえけど。でもその時は見栄を張った事を後悔して【死】だろうな。
酒場編終了です。ここから明確な原作の改変になりますね。まあその前からだいぶはっちゃけていましたが。