藤田の世界
時は未来、VRMMO真っ盛り。技術は進み、家で出来ないことなどそれこそ例外的な時代に数日前から形成されてきた長蛇の列の最初の方にその少年はいた。
「暑い」
流行の最先端を追うこの都市は、一昔前の最高峰であるあべのカルパス並みのビルをちらほら見るそんな場所
「なのに、何故ここはこんなに日が当たるんだよー‼」
理由はわかっている。近くに公園があるのだ。
自然を見ると癒されるだ、子供にはそういう場が必要だとか思い込みなんだよ。ナンデオクジョウニタテネーンダヨ、そんなの映像でいいんだよ!!
何故そんな事がわかるって?俺が子供だからだよ!
そう胸に手を当て誇らしげげな表情で、しかし心の中でしか言えなかったのは現在引きこもり中の高校生、藤田くんであった。
どうやらこの前のセリフで周りの視線が痛いらしい。
まあ良い、この列に並ぶ人のむさ苦しい熱気や、日に日に強くなったなぜか有り難くない冷気を持った視線に何一つ文句を言わないのには理由がある。
原点回帰というのかはわからないが、今日ゲームセンターという場で遂にフルダイブ型のVRゲーム【レメゲトン・オンライン】が一般公開されるのだ。
全く、ネットでの入場券販売では人数制限がないのは有り難かったがわざわざ並ばせる必要はなかったのでは、運営は何を考えているのだ、そんな事を考えていると…
「開店です。」
ポケットに入れていたスマホが僅かに揺れ耳元のイヤホンから聞こえてくる。
途端、周りの空気が一変する
顔をあげ、背筋を張り、列を再度揃える。その目には覚悟が宿っており、その一団は1種のデモ団体かと思わせる気迫を纏っていた。
「オタクの夜明けじゃ~‼」
先頭に立っていた男が叫ぶ。
この列にはそうでないものいただろうしかし、そこに居た皆が一様に賛同の意を叫ぶ。少し前から異様にテンションの高い俺も例外ではなかった。
遂に扉が開かれる
誰一人として走らない、数日前から並ぶ先頭組にはさながら団体競技を勝ち残ったチームのような友情があった。
目をつぶり拳を強く握りしめるもの、
上を向き涙を落とさぬようにするもの、
手で拭っても溢れる涙を止められないもの、
ここまで大変だったのだ。
一人だけ職質をされ消えて行った中村
「ここは俺に任せて先にいけ!」
熱中症で救急車に運ばれて行った田中
「俺は…もうだめだ…だがお前らは…おめらは!!………」
友情の名の元に買い出しに行った松本
「これは…貸しだからな…お前ら全員で…ぜってえ返しに来いよ!」
彼らの尊い犠牲を無駄にしてはならない。
みんないいやつだった、待っていろよ俺らはこれから世界を変えるんだ!
このゲームのチケットはなかなかに高いので、お金をちゃんと稼いでたり、何か理由がありそして時間がある人たちが並んでいます。
なのでどこか自信があるんですよね、言うなればオタ貴族。