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俺と彼女とひまわりと

作者: 若林夏樹

 きっかけは本当に些細なことだった。

 スポーツ推薦で入った高校の部活中、俺は不注意で足を折ってしまい、しばらく入院することになった。

 そんな精神的にも肉体的にも荒れていたときに、彼女に出会った。


            ◇


 市民病院。

 入院してしばらくは俺は病室から出ることもできなかったが、ある程度回復してくると松葉杖で行動できるようになった。

 病室で1日を過ごすのは思っていた以上に大変だった。売店で購入したテレビを見るためのカードも、そろそろ残り時間が少なくなってきた。このままじっとしていたら、肉体的にも精神的にも、それから金銭的にも破滅に向かっていきそうだった。


 病院の1階、正面玄関から外に出て、中庭へと向かっていく。いつも病室から見下ろしていた景色とは何かが違っていた。

 やっぱりいいもんだな・・・・

 何が良かったのかはわからないが、久しぶりに新鮮な空気を吸えたことで気分が良くなったのかもしれない。


 と、そのときだ。いつのまにそこにいたのか、小柄なおばあさんが点滴台と共に立っている。

「いい天気だねぇ」

 そんな和やかなことを言われたもんだから、俺は拍子抜けしてしまった。

「あ、はい。そうですね」


 格好からすると、おばあさんもここの入院患者だろう。細い目と他の顔の作りが、見ている人に柔和な印象を与える。

「おばあちゃんも散歩中?」

 俺が訊ねると、おばあさんは嬉しそうに頷いた。

「そうだよ。こんなに天気がいいからね・・・もったいないじゃないかい」

「そうだね」


 雲1つない青空。そういえば、俺は陸上をやり始めてからずっと下ばかり向いていた気がする。たまには上を見上げるのも悪くないと思った。

 このままのんびり過ごしたい・・・・・

 と、思ったときだ。1つの声が夢を見ていた俺を現実へと引き戻した。


「おばあちゃん!やっぱりここにいたー」

 振り返ると、1人の少女が小走りでこっちに駆け寄ってくるのがわかった。俺は反射的に一歩身を引いた。

「もー・・・これから検査だって看護師さんに言われたでしょー」


 おばあさんの孫だろうか。長い髪を後ろで1つに縛った少女はおばあさんを病院へと連れて行こうとする。

「ああ、そういえばそうだったねぇ・・・」

「ほら、行こう」


 2人が立ち去るとき、孫(らしき人)がこっちに顔を向けた。何か言葉を発するわけでもなく、彼女はぺこっと頭を下げた。俺もつられて頭を下げる。

 すると、彼女が屈託のない表情で笑いかけてきた。

 少し驚いた。今時、あんなに素直に笑える人もいるんだって、俺は心底不思議に思った。


            ◇


 彼女と再会したのはそれから3日後のことだった。


 たぶん最初に気づいたのは俺だと思う。だけど、話したこともないのにいきなり話しかけるのはどうかと思って気づかないフリをすることにした。

 俺は売店でレジに並んでいた。

「あれ・・こんにちは」

 彼女が俺に気づいて気さくに声をかけて、俺の後ろに並んだ。


「こんにちは」

 自然な流れで挨拶を返すと、なぜか彼女はほっとした表情になった。だけど、すぐにそれは笑顔へと変わる。

「こないだ中庭でおばあちゃんと一緒にいましたよね?覚えてませんか?」

「覚えてるよ。家族とか医者とか以外で話したの久しぶりだったし」


 そこまで言うと、「お待たせいたしました」と言う店員の声が聞こえてきた。どうやらもう順番がまわってきたらしい。

 ついてねぇな・・・もうちょっと話していたかったのに。


 初対面相手に変に思われるかもしれないと思ったが、俺は自分のレジを終えて、なんとなく彼女を待つことにした。

「高校生?」

 本当に唐突な質問だったが、他に思いつく言葉もなかった。だけど、彼女は困ったように笑っただけだった。

「こう見えても19歳」


 19歳ってことは・・・俺より1歳年上なわけか、と訳のわからない計算をすると、今度は彼女が俺に訊く番だった。

「そっちは?」

「高3。18歳」

「高校生かー・・・若いね」

「たった1歳しか違わないだろ。そんなに変わんないよ」

「まだ若いからそう言えるんだよ」


 っていうことは年下には興味がないということだろうか。少しだけショックを受けていると、彼女はクスクスと笑った。改めて見るとかわいい。


 突然、彼女は振り返った。

「ねぇ・・・1年って長いと思う?短いと思う?」

 俺は彼女との年齢差を考えた。たった1歳、俺にとってはどうってことない。ここぞとばかりに俺は自分をアピールした。

「短いと思う」


 俺の言葉に、彼女は屈託なくにっこりと笑った。俺もつられて笑う。彼女には人を笑顔にさせる力があるような気がしてきた。

 そういえば俺、入院してから笑ったの初めてだな。

 そんなことを考えるとおかしくなってきた。こんな大事な時期に怪我をし、自暴自棄になっていたのに・・・少しずつ心境が変わってきているのかもしれない。


「俺、中田(けい)っていうんだ」

「私は夏美。よろしくね」

 彼女の名前を知り、俺は今までかかっていたモヤがすっきりとなるのを感じた。彼女がおばあさんのお見舞いに来ている間はもしかしたら会えるかもしれないと淡い期待を抱き始めていた。


            ◇


 それから、俺たちは病院内で見かけると、時々ロビーや中庭で一緒に話すようになった。ほとんど俺が無意識に彼女を捜して見つけるのだが、たまに向こうから話しかけてきてくれて、そのときはとても嬉しかった。

 夏美の笑顔を見ていると安心した。

 俺はずいぶんと彼女に癒されていった。


 そして、俺の退院が決まった。

短編なのに続きになってしまい、すみません;;

続編をそのうち書くかもしれません。

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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