第二話シェリーの父親。
「いったい何処にいるんだシェリー。」
魂はいつも君を捜している。
僕が捜しているのは、君への強い愛の絆なんだ。
シェリー、僕は一人でいることに少し疲れてしまった。
寂しいのは僕の心?
それとも君の心?
見下ろせば町の灯りさえ淋しく感じる。
部屋の観葉植物だって粗末に見えるよ。
さまよう魂は誰のもの。
シェリー、君がいなくなってしまってから、
自分と向き合う時間が多くなった。
毎日通うコンビニエンス・ストアーにさえもシェリーの姿はない。
この町でシェリーを捜してもシェリーの姿はない。
部屋にシェリーがいないのに、温もりだけは感じてる。
シェリー、時々君が見えなくなるんだ。
心のどこかで君を捜しているんだシェリー。
こんな夜、見せかけの手のひらの中で僕は眠っている。
ねえ、シェリー愛してくれないか?
シェリー、僕を嫌いになれるのかい。
こんな日は、心が粉々になる。
涙の理由を捜しているんだシェリー。
あれからもう4日も連絡がない。
シェリー僕らの部屋はずいぶんと広くなったよ。
二人じゃ狭かった部屋も、一人じゃ広すぎる。
晴れた日には、
僕の白いGIANT社製のMTBに乗って、
二人で行った思い出の場所を巡っている。
どこへ行っても君との思いでばかり想い出す。
海が好きだった君が港を歩く。
僕は波止場に腰掛けて恋のゆくえを捜している。
行き交う船。引いては寄せる波の音を聞いている。
あの夏、この波止場を二人で歩いた。
この場所に腰掛、シェリーと二人で夜明けまで船を見ていた。
僕が始めてシェリーの実家に行った時、
彼女の実家の飼い犬に追いかけられた。
実家のリビングに真夏だというのに置いてあったクリスマス・ツリー。
シェリーはそれを見て「どう?」って訊いた。
僕はすぐに「いいね!」って答えた。
「他に言いようがないからって、適当なこと言わないで」
そう言ってシェリーは少し怒った。
その顔がとても可愛らしくて、思わず僕は笑った。
実際、片付ける暇がなかったと言っていた。
「クリスマスには早いけど、植木だと思えば凄くいい。」僕は言った。
「秋になると、冬にまた出すからこのままでいいやって思うの。」シェリーは言った。
あの時の二人がとてもおかしくて、
想い出して僕は笑ってしまった。
今僕が立っている、僕の目の前にシェリーの実家がある。
青い屋根。赤レンガの壁。
シェリーの家はアメリカ風の2階建。
白のMTBを玄関の前に停める。
玄関のチャイムを鳴らすとシェリーの父親が現われた。
あの犬は今日はでてこない。
僕はシェリーの父親に招かれ、家の中に入った。
シェリーの母親は今日は留守だ。
二人でソファーに座り、日本の経済について少し話した。
シェリーの父親は経済学者だ。
今は2020年。
日本は中国に経済で抜かれてしまった。
そんな話だ。
シェリーの父親は言った。
「今日は、シェリーは一緒じゃないのか?」
「ええ、今日彼女は仕事が忙しくて一緒に来れませんでした。」僕は答えた。
「そう。」
少し残念そうにするシェリーの父親。
彼が手にした木製のタバコパイプに火をつけた。
部屋には白い煙が上がる。
「うまくやってるのかい。」
白い髪をオールバックにしたシェリーの父親は髪を触り尋ねた。
「はい。彼女といるだけで凄く幸せです。」そう言った。
僕は彼女の父親にシェリーが出て行ったことを言わなかった。
彼女の父親と握手し、シェリーの実家を出た。
僕は再び、MTBに乗る。
想い出の旅を続ける。
シェリーの父親は、どうやら彼女が僕の家を出て行ったことを知らない。
また振り出しに戻った。
まあいい。
僕とシェリーの想い出はここだけじゃない。
僕は、MTBに乗って通りを突き進んだ。