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小説『シェリーの伝言』   作者: 一乗寺浩詩
2/6

第二話シェリーの父親。

「いったい何処にいるんだシェリー。」

魂はいつも君を捜している。

僕が捜しているのは、君への強い愛の絆なんだ。

シェリー、僕は一人でいることに少し疲れてしまった。



寂しいのは僕の心?


それとも君の心?


見下ろせば町の灯りさえ淋しく感じる。



部屋の観葉植物だって粗末に見えるよ。

さまよう魂は誰のもの。

シェリー、君がいなくなってしまってから、

自分と向き合う時間が多くなった。



毎日通うコンビニエンス・ストアーにさえもシェリーの姿はない。

この町でシェリーを捜してもシェリーの姿はない。



部屋にシェリーがいないのに、温もりだけは感じてる。


シェリー、時々君が見えなくなるんだ。

心のどこかで君を捜しているんだシェリー。

こんな夜、見せかけの手のひらの中で僕は眠っている。



ねえ、シェリー愛してくれないか?

シェリー、僕を嫌いになれるのかい。

こんな日は、心が粉々になる。

涙の理由を捜しているんだシェリー。



あれからもう4日も連絡がない。

シェリー僕らの部屋はずいぶんと広くなったよ。

二人じゃ狭かった部屋も、一人じゃ広すぎる。

晴れた日には、

僕の白いGIANT社製のMTBマウンテンバイクに乗って、

二人で行った思い出の場所を巡っている。



どこへ行っても君との思いでばかり想い出す。

海が好きだった君が港を歩く。

僕は波止場に腰掛けて恋のゆくえを捜している。

行き交う船。引いては寄せる波の音を聞いている。



あの夏、この波止場を二人で歩いた。

この場所に腰掛、シェリーと二人で夜明けまで船を見ていた。

僕が始めてシェリーの実家に行った時、

彼女の実家の飼い犬に追いかけられた。



実家のリビングに真夏だというのに置いてあったクリスマス・ツリー。



シェリーはそれを見て「どう?」って訊いた。

僕はすぐに「いいね!」って答えた。



「他に言いようがないからって、適当なこと言わないで」

そう言ってシェリーは少し怒った。



その顔がとても可愛らしくて、思わず僕は笑った。

実際、片付ける暇がなかったと言っていた。



「クリスマスには早いけど、植木だと思えば凄くいい。」僕は言った。


「秋になると、冬にまた出すからこのままでいいやって思うの。」シェリーは言った。

あの時の二人がとてもおかしくて、



想い出して僕は笑ってしまった。

今僕が立っている、僕の目の前にシェリーの実家がある。

青い屋根。赤レンガの壁。

シェリーの家はアメリカ風の2階建。



白のMTBを玄関の前に停める。

玄関のチャイムを鳴らすとシェリーの父親が現われた。

あの犬は今日はでてこない。

僕はシェリーの父親に招かれ、家の中に入った。



シェリーの母親は今日は留守だ。

二人でソファーに座り、日本の経済について少し話した。

シェリーの父親は経済学者だ。

今は2020年。


日本は中国に経済で抜かれてしまった。


そんな話だ。

シェリーの父親は言った。


「今日は、シェリーは一緒じゃないのか?」


「ええ、今日彼女は仕事が忙しくて一緒に来れませんでした。」僕は答えた。


「そう。」

少し残念そうにするシェリーの父親。



彼が手にした木製のタバコパイプに火をつけた。

部屋には白い煙が上がる。



「うまくやってるのかい。」

白い髪をオールバックにしたシェリーの父親は髪を触り尋ねた。



「はい。彼女といるだけで凄く幸せです。」そう言った。



僕は彼女の父親にシェリーが出て行ったことを言わなかった。



彼女の父親と握手し、シェリーの実家を出た。



僕は再び、MTBに乗る。

想い出の旅を続ける。



シェリーの父親は、どうやら彼女が僕の家を出て行ったことを知らない。

また振り出しに戻った。



まあいい。

僕とシェリーの想い出はここだけじゃない。



僕は、MTBに乗って通りを突き進んだ。





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