第一話その朝突然シェリーは消えた・・・。
いつものように僕は目を覚ました。
その朝突然、シェリーは消えた。
朝僕が起きたら、すでにベッドはもぬけのから。
不思議に思って部屋を調べてみると、
彼女の周辺の荷物だけが見当たらない。
いったいシェリーは何処へ消えてしまったんだ。
テーブルの上には僕に宛てた彼女のメッセージが残されていた。
そのメモ書きには、“さようなら”の文字。
ただそれだけ。
3年もシェリーと一緒に住んでいるのに“さようなら”それだけだ。
シェリーはきのうの夜、僕に何も言ってなかった。
僕たちは別れ話だってした事がない。
シェリーと出会って、すぐに一緒に暮らした。
今までケンカなど一度もした事がなかった。
ところで僕は、寝覚めがすごく悪い。
朝は一杯のコーヒーを飲むまでは、落ち着かないんだ。
挽いた豆をコーヒーメーカーに入れ、コーヒーを沸かす。
沸いたブレンド・コーヒーをマグカップに注ぐ。
僕は一杯の命ともいえる、ブレンド・コーヒーを一口飲む。
マグカップを手に持ってキッチンのテーブルに腰掛ける。
一本のタバコに火をつけ、ぼけーっと部屋の窓越しに外を見る。
彼女の名前はシェリー。
本名は古谷詩織。
シェリーというのはニックネームだ。
彼女の父親がシェリーと名付けた。
そして僕の名前は、小林聖。
昨夜寝ている間に彼女に逃げられた。
おそらく世界で一番、不幸で間抜けな男だ。
僕がどうしてシェリーに捨てられたのか考えてみる。
刑事コロンボのように、小さな事にこだわってみよう。
その1、まず僕が、シェリーが大好きなフルーツが大の苦手。
フルーツが食べられないこと。
その2、優柔不断な僕の性格。
いつだって出掛ける時は、行く先を決めるのはシェリーだった。
僕が着てゆく服だってシェリーが選んでくれた。
その3、僕はけっして怒らない。
ケンカになってもシェリーがキャンキャン騒ぐだけで、
僕は冷静にその波が頭の上を通り抜けるのをゆっくりと待つ。
波が治まるのを待つだけだ。
いつだって僕らは頭をクールにしておかないといけない。
その4からは、「だめだ。」
何もみつからない。
「いったいどうしてしまったんだろう。」僕はそう言って途方に暮れた。
歯を磨こうと、洗面台で歯磨き粉のチューブを捻る。
洗面台の鏡に紅いルージュで書かれた“捜さないで”の文字に気づいた。
“捜さないで”と言われれば、捜すのが人というもの。
携帯電話で友人から知人までシェリーの行方を知らないか訊いてみた。
もちろん彼女の携帯にだって掛けてみた。彼女は携帯に出ない。
結局彼女の居場所を知る者は誰もいない。
曇った気持ちをかなぐり捨てて、真昼の町を捜し回った。
鏡に残したルージュの言葉が頭に残る…。