<マカインにて それぞれの強者たち3>
<マカインにて それぞれの強者たち3>
『この手をお離しください、さもなくば・・』
キャロラインの全身から怒りのオーラが漂い、
バトルは更に危険な段階に入ったようだ。
この状態のまま、じじいの体力が持つとは到底思えない。
ボクに残された時間はほんの僅かしかないようだ。
《ジグ様のアルティメット設定を完了しました。
コードネーム<ジグ・ストレイカー>
攻撃・防御能力につきましては<アルティメット>ですので、
そういうことです》
いやいやいや、全然わからないから。
ボクの仕様については、誕生時の<教師モード>しかインプットされていない。
江戸山区立未来ヶ丘中学校の校則とか、同僚の先生の名前とか、
文科省の学習指導要領とかそういうジャンルについては自信があった。
しかし、相手が生殺与奪の権利を持つような緊急時を、
いったいどうやって切り抜けろというのか。
鼻をほじりながら厠でくつろぐマスターの姿が、ぼんやりと脳裏に浮かんだ。
ボクの身長は、キャロラインと同等といったところ。
体格では彼女より一回り大きく、
コバルト色に輝く一体型のバトルスーツが全身をぴったりと覆っている。
とまあ、格好は良くなったし全身に漲るパワーはとても頼りになりそうだが、
実践的な使い勝手はまったく不明。
ひょっとして・・
《ソラ、と、トリセツってないのかなぁ》
《・・ご冗談を、ジグ様は思い通りにバトルコマンド宣言を願います。
私めが リアルタイムで実行するのみです》
《あ、そう、そういうことか・・知らんけど》
じじいは既に限界に近い、
もしも真っ二つになったら大騒ぎだし、キャロラインだって困るだろうに。
この状況では、じじいを救済しボクがキャロラインを制圧すべき。
ええいままよ、適当にイクしかない。
《ソラ、バトルコマンド<宮本武蔵>》
剣豪と言えば脊髄反射でその名がひらめく。
たちまちボクの腰に脇差し、大小の日本刀が装備された。
教師時代は剣術などまったくのしろうとだったが、
剣豪宮本武蔵の名ぐらいは知っていた。
有名なのは二刀流ってやつだっけ。
そんな考えが浮かぶなか、
既にボクの身体が勝手に動き両手で素早く抜刀していた。
そして電光石火の早さでキャロラインの剣を十字に挟み込んだ。
『じじい今だ、そこからすぐ離れろ!』
ボクの一喝でじじいは刃を挟んだ両手を離し、よろけるように倒れる。
『殿、かたじけない』
じじいはそのまま四つん這いになり、飛ばされた杖を取りに場を離れる。
ボクは、じじいの安全を確認したのち、
キャロラインが見せた杖に対する巻き込み技と同等以上の圧倒的なスキルで、
彼女の持ち手を振り切り平原の彼方へ飛ばしてやった。
『ば、ばかな、我が剣を・・』
今まで勝利を確信していたキャロラインだが、
剣を失った両手をみつめ呆然と立ちすくむ。
『キャロライン剣を拾ってこい、このまま待ってやる』
傍目には剣豪武蔵ばりのどっしりとした立ち姿だったが、
実はそんなに余裕はない。
いやいやいや、ここで終了でしょ自分。
もしも続投希望だとかなりまずいよ、まずい、うん。
だが、そんなボクの焦りは杞憂に終わったようだ。
『ふっ、初めてだわ、得意の巻き込み技を逆に喰らったのは。
実は、まだこの両腕が痺れているのよ。
どうやらジグ様の剣技は、セイブルには存在しないレベルらしいわね。
悟りの剣とでも称しましょうか』
グリストルダンジョン第50階層ボスキャラ、
剣聖キャロライン・ビーナスはゆっくりボクに近づく。
そして、真摯な眼差しでボクを見つめながら片膝をつき跪いた。
『私は、ジグ様を守護者として、
ここに永遠の忠誠を捧げます』
改めて見ると、
スタイルはもちろん顔立ちもスーパーモデル以上の美人だわこれ。
一時はどうなるかと思ったけど、とにかく良かった良かった。
『キャロラインよ、そなたをボクの敬愛する配下であると認めよう』
芝居がかった言動に少しだけ恥ずかしさを感じたが、
ボクはボクのやるべき役割を果たした。
『殿、さすがは世界の救世主、アッパレなお手前でございました』
いつの間にか、じじいが杖を回収しボクの側に笑顔で立っていた。
これでようやく、マカインでの活動を始められるぞ。
じじいとキャロライン、当面は3人居れば事足りそうだし、
今のところ危害を与えられそうな動きもない。
『じじい、仮にあのとき真っ二つになっても、
実は直ぐに元に戻れたんだろう?』
ボクは、平原のある一方向を眺めながらそう尋ねた。
『その件に関しましては、ご想像にお任せいたしまする』
意外と食えないじじいだ、肝心なところははぐらかすんだな。
『まあいい、それでは飛ばされた剣でも探しますか、
確かあっちのほうだったはず』
ボクは、飛ばされた方向を指さした。




