<マカインにて それぞれの強者たち2>
<マカインにて それぞれの強者たち2>
現れた七尾に、ゴマ白髪を掻き上げ弱々しく手を上げた。
そしてボクは決心した。
マスターによる<学園設定>で、明らかに場がどんどん泥沼化している。
今のうちになんとかしとかないと、取り返しの付かない事態になってしまう。
《・・・ソラ、悪いけどマスターに託されたボクの設定を強制変更する。責任はボクが取る》
これは、マスターとボクの関係に決定的な亀裂をもたらす重大な発言だった。
マスターはボクを許してくれるのだろうか。
様々な想いがボクの中を駆け巡り、
最終的に闘志の矢がミッションのプレートを射貫いた。
《実はジグ様が万が一指定された禁忌的発言をなさった場合、
アドミニスター権限の一部をジグ様に譲るとマスターに言われております》
まじか・・
なるほど、マスターはだてに厠でまったりしてるだけではなかったらしい。
もしや、新たに創造したボク(分身)の自主性と判断力を密かに試したかったのか。
マスターにとって、今回のミッションは新しい取り組みであり重要な位置にある。
ならば、是が非でもコンプリートしたいはず。
であれば、暗黒雲と対峙できる強固な組織づくりが、
ボクの行動の最優先事項であるはずだ。
《コホン、ただ今からボクの設定を<学園ストーリーモード>から、
<異世界バトル最終戦闘モード>に変更する。
じじい及び配下のボスキャラ達だがマカインではアバターとして、
これから対峙する勢力の制圧に協力してもらう》
ボクの出で立ちが未だに有名紳士服チェーンで購入した、
新入社員向けスーツを纏っているせいか、
世界救済の歴史的宣言にしてはHRの挨拶風になってしまったのは残念。
《了解いたしました。早速ですが転送体の相川七尾キャラを、
元来のグリストルダンジョン第50階層管理者に変更いたします》
状況を見守るじじいをよそに、
今まで相川七尾として制服で愛嬌を振りまいていたボスキャラは、
鮮やかに元来の精悍なバトルスーツに変容していった。
オパール色に似た複雑な光沢を持つバトルスーツは、
セイブルの特殊な素材で構成されており、
2メートルはあろうかというスーパーモデル並の8頭身プロポーションを、
惜しげもなく浮き彫りにしていた。
鮮やかな赤毛の頭髪はショートボブでまとめあげられ、
豹のような切れ長の目はスカイブルーに輝いている。
腰には細身の長剣を携えており、
いかにも最強のグラディエーター(剣闘士)という風格を備えていた。
彼女は、ボクとじじいの中間の位置に片足をつきボクに顔を向け言葉を放った。
『御方はジグ様でございますね。
ダンジョン第50階層管理者のキャロライン・ビーナスと申します。
以後宜しくお見知りおきを。
実はこちらに転送された際、
妙な格好をさせられたため能力の殆どが封印されるところでした。
非常に危険な状況でした。
しかし、本来の姿に戻して頂き感謝いたします』
『それに関してはワシにも責任がある、許しておくれ。
セイブルではお主らを完全に管理できたはずじゃが、
このマカインでは殆ど能力を封じられているようじゃ。
ダンジョンからメンバーを選び転送依頼をするまでがワシの責務。
よって、それ以外はジグ様の許認可を得ねばならないのじゃ』
じじいは、さながらバトントワラーのように杖を振り回しながら詫びた。
『GJ様、ことの経緯は了解いたしました。
それでは、マカインに召喚された私めのボスはジグ様で宜しいのですね』
鋭い眼光で、キャロラインはじじいに問うた。
『そういうことに・・なろうかのう』
じじいはそう答えながら、見事なハンドリングで杖を手元に着地させる。
『キャロライン、じじいに罪はない。
これも全てお前達セイブルの世界をあの暗黒雲から救うために行っていること。
どうかね、ボクにお前たちの力を貸してくれないか』
ボクは、できるだけ穏やかに言った。
キャロラインたちセイブルのボスキャラを、力任せに掌握するつもりはなかった。
『かつて、二つの勢力が相反し争う最中、
選ばれた勇者同士が敵方のダンジョンから勝利の間をめざすも、双方が途中で全滅してしまいました。
その直後に暗黒雲の勢力が世界全体を包み込み、世界は奪われてしまいました。
その悲劇を、この世界を、あなた様が救ってくださるということは有り難く思います。
であれば、ジグ様に私どもを統括するほどのお力があるのかどうか、
一度私にお示しくださいますでしょうか』
キャロラインは、すっと立ち上がるや右手で長剣に手をかけた。
不敗ダンジョンのボスキャラメンバーゆえ、
全身に只ならぬ妖気を帯びているのがボクにも分かった。
これがダンジョン内の自身のワープゾーンであれば、
その能力は更に跳ね上がっているだろう。
《報告します、キャロライン・ビーナスは、
現在所有の能力全てをジグ様との戦闘に使用するつもりです》
《ちょ、ちょっと待てソラ、ボクは未だ先生モードなんだぞ》
ここで土下座すれば命だけは助かろう、だがそれでは・・・
『面白い、逆に其れがしの実力を計る絶好の機会だ。受けて立とう』
内心とは裏腹にボクはやや立ち位置を後退させ、スーツのポケットからあるものを握りしめた。
今のボクにできることといえば、顔面必中のチョーク投げくらいか。
全身に闘気を漲らせ鬼の一太刀を窺う最強剣士に、いったいどうやって立ち向かえというのか。
『こ、これ、キャロライン、早まるでない、よせ』
そのとき、じじいがボクと彼女の間に慌てて立ち塞がった。
『お戯れを、いかに上級管理者であるGJといえども、
私の前に立ち塞がればどうなるかはおわかりでしょう』
キャロラインは、目前のじじいめがけ長剣を一閃。
ガキィーーーンッ
今まで聞いたこともない金属的な炸裂音が平原に響き渡る。
見れば、じじいの杖とキャロラインの長剣が見事に交錯したまま、
硬直状態に陥っているではないか。
『よせと申してるではないか、キャロライン。
ジグ様は教師モード、せめてチョークを剣に置き換えるまで待つのじゃ』
『笑止、最強のリーダーには、いかなる状況でも最良の対応が求められるはず。
まさか、GJに守って貰うことになろうとは。片腹痛いわ』
キャロラインは、交錯したじじいの杖を振り払おうと、
一気に長剣を捏ねるように回転させ巻き込んだ。
杖はじじいの手を離れくるくる回転しながら空を舞い落ち、
振り上げた長剣はじじいの頭上めがけ落とされた。
シュターンッ
じじいは腰を落とし、
両手でキャロラインの一太刀を挟み込みそれを受け止めた。
奥義、真剣白羽取り!(柳生か
『ぬうう、やるなGJ!』
思わずボクは、じじいの背後で名を叫んだ。
《ジグ様申し訳ありません、成り行きでモードチェンジが遅れました。
ただ今からジグ様のビジネススーツを、
アルティメットコスチュームに換装いたします》
じじいが身体を張ってキャロラインの攻撃を防いでくれている間、
ソラがボクにマスター直伝のバトルスーツを装着完了した。
味方同士でなにやってんだボクたち