<マカインにて 始まりの平原>
<マカインにて 始まりの平原>
ソラの転送と同時に、じじいとボクは丈のやや低い植物が点在する平原に立っていた。
マカインの始まりは、セイブルよりかなり良好。
いかにも旅の始まりといったスタートじゃないか。
目前には豊かな大森林。
ここから見た森の中央付近に、ひと一人やっとという感じのけもの道を確認。
道は緩やかな蛇行をみせながら、森の中に消えていた。
ボクのあたまの中では、牧歌的ないかにも平和そうな音楽がながれ出している。
マカインに自然があったという事実だけで、ボクは少し安心した。
ならば、この世界を司る知的生命体を探そうか。
果たして、はなしが分かる連中若しくは生命体は存在するのか。
いるとすれば、暗黒雲による勢力がどのように世界を浸食しているのかを確認しなければばらない。
『殿、ここはマカインの何れかと思われますが、さて・・』
ボクの思考をじじいが遮った。
平原から大森林にかけてのパノラマをゆっくり見渡しながら、
マカインの世界を観察しているようだった。
最初に出会ったときは、身体を支えるため杖に頼らざるを得ないよぼよぼの風体だったが、
気がつけば堂々とした風格を纏い、白銀の杖は大いなる力を秘めた神器の輝きを帯びていた。
恐らくマスターが・・
《ジグ様、マカイン到着を確認いたしました。
ここは、ヤットコ大森林の入り口です。道を辿れば森の中央にヤットコ村があります》
ソラは、既に近郊の地形的リサーチを終えたらしい。
早速情報をいくつかボクに報告し始めた。
わかった、ソラ、とにかくこの世界の手がかりを探ろうじゃないか。
『じじい、ソラからの報告によれば、ボクらは間違いなくマカインにいるようだ。
その小道から森の中に入ろうと思う、一緒についてこい』
ボクは、ヤットコ大森林の入り口を指さした。
『御意、しかしその前に、ワシの使える能力について殿に少し説明しとかなければなりますまい』
じじいは、ゆっくりとした口調でボクに語りかけた。
『ダンジョンのボスキャラについて、
ソラ様のお力をお借りすれば、指定の者をこちらに転送することが可能。
この後、ワシ等にどのような状況が訪れるかわかりませぬが、
殿のご要望にお応えできれば本望ですじゃ』
あれだけヨタヨタしてたじじいが、
マスターのリフレッシュで、本来の容姿に返り咲いたもよう。
まあ、足手まといになるよりは余程良い。
『こんな平和なスタートで、じじいの配下が必要なのかちょっと疑問だけど、
暗黒雲の勢力がどこまで接近しているかわからないしなぁ』
ボクは、入り口に向かって歩きかけた足を一旦止めた。
『ワシの召還能力が、殿をお助けできる時が必ず来ると信じております。
しからば、この広々とした場所で自慢の配下と一度対面するのが得策かと』
じじいは、自分の顎髭を片手でゆっくり摩りながら頷いた。
『よし分かった、これまでずっとじじいと二人きりだったしな。
ここはひとつ、自慢の配下とやらをこっちの世界に呼び出して場を賑やかにするか』
攻略者がセイブルのダンジョン入り口から奥に進むと、
10階層毎にボスキャラの居るゾーンに強制ワープする罠が存在する。
攻略者は、殲滅するため待機しているボスキャラと対峙しなければ前に進めない。
だが異世界の平原に呼び出された場合、果たしてちゃんと能力を発揮できるのか。
色々試しておくのも良いだろう。
《ジグ様、ボスキャラ召喚について、分かる範囲でご説明申し上げます。
グリストルとパネレンタの両ダンジョンから同時にボスキャラを召喚することは、
今のところできません。理由は、本来敵同士だからです。
それぞれの階層ボスキャラが何体存在するのか、詳細は私にもわかりませんが、
じじいなら承知かと》
《なるほど、その辺りはじじいにご教授願おうか》
《ジル様、加えて、一度にマカインに召喚できるのは3体です。
4体以上はディメンションパワーを維持できません。
マカインで同時に存在できる人数については不明です》
ふむふむ、ある程度メンバーの陣容を把握できたら、
状況に応じたフォーメーションを考えるべきかもしれないな。
色々わからないことがあるけど、いざとなればソラにその辺りの分析を頼ろう。
『じじい、とりあえずお前の配下を誰かひとり呼び出してくれ』
一度にドドッとこられても対応がアレなので、まずはお手並み拝見といこうじゃないか。
『御意、それではソラ様、ひとり召還いたしますのでバックアップをよろぴく』
よろぴくって・・
じじいは、両脚をやや広げ立ったまま目を瞑ると、白銀の杖を右手で振り上げた。
《ただいまから、セイブルに於けるディメンションフォースを一部特殊解放し、
個体転送を実施いたします》
ソラの宣言に呼応するかのようにボクたちと大森林の間の空間が歪み始め、
じじいの配下が一体現れた。