<セイブルにて その1>
<セイブルにて その1>
『おやおやおや・・・』
ボクはセイブルに到着したはず。
思ったのと違うぞ、これは・・
それなりの期待とは裏腹に、そこにあるのは黄金色の淡い光に輝く細長い通路のみ。
ただの<一本道>があるだけだった。
ジグが今立っているところは、おそらく道の始まりの地点なのだろう。
なぜなら、ジグの背側には壁しかなかったからだ。
ここに立つ者は、否応なく前のほうに進むしかなかった。
ジグの立つ空間の地面は水平だが、
高さ5メートル幅5メートルほどある蒲鉾形の大きなパイプの中といったところ。
地面にあたるところはほぼ真っ平らだったので、
歩く分にはまったく不自由ない。
一体どうなってる?
ジグは自問した。
同時にそれは、マスターに搭載して貰ったソラへの問いかけとなる。
《恐れ入りますが、ただいまこの世界の詳しい情報を分析収集中です。
分析終了後、分かったことからご報告致します》
抑揚の無い、無機質な声がジグのなかで響いた。
《オーケイ、ソラ。ただこの通路らしきものの外部はどうなってるんだ。
ボクとしては、一旦通路の外に出たいんだが》
この地点は、ひょっとして大きな施設の内部かもしれない。
そんな推測がジグにはあった。
であるならば、誰かに出会う前に一旦施設の外部に移動し、
誰にも見つからないようにこの世界の詳細を調べたい。
だがソラの答えは、ジグにとって衝撃的なものだった。
《通路の外は何もございません。セイブルはここだけです》
正直なところ、例えば大森林を前にした草燃ゆる平原だとか、
難攻不落な城壁に囲まれた都市国家の門前だとか、
ドラマチックなスタートを予想していたジグだった。
しかし、波乱の幕開けに思わず唸った。
『どういうことだこれは・・』
セイブルとマカインの癒着が想定よりも早く進行し、
世界の崩壊はかなり進んでいるということなのか。
ジグは、ここから始まるドラマチックな展開をまったく期待出来ず、
サッとばかりに右手を振りかざすや、
両腕をクロスさせマスターにゲームオーバーのサインを出すべく身構えた。
だがそのとき、道の向こうに何者かが突然現れ、
杖を突きながら慌ててジグの足下にヨタヨタと駆け寄ったではないか。
『お待ちくだされ、殿ぉぉ!』