<マカインにて - 聖騎士No.10>
<マカインにて - 聖騎士No.10>
『あーあ、なんで俺だけ門番なんだよう』
ヤットコ大森林の入り口からややしばらく歩いたところにある、
ぽっかり開いた森の広場の構築物。
ここは、少し前にジグ達が侵入したマカインダンジョンの入り口である。
マカインの聖騎士No.10マキャラートは、
手持ち無沙汰に愛用の<風神剣>を磨きながら、誰にとも無く呟いた。
『門番てーのは、あれだよな。完全に脇役がやる仕事じゃねーか。
そいでもって、大概はセリフを吐く暇も無くバッサリヤラれるんだよ』
マキャラートは片手で愛剣を振り上げ、気だるそうに振り降ろした。
すると、剣先から空気の渦が勢い良く巻き上がり、
広場を囲む大木を数十本一気になぎ倒した。
『うわ、やっちまった、環境保護団体に叱られるわ、自分』
話しのネタは自分でつくり、そしてツッこむ。
話し相手がいないのは、
元来話し好きのマキャラートにとって罰ゲームに近い状況だ。
このような警護ならば、師団長クラスでも十分賄えるはず。
なにゆえ<MONBURN type01>を従え、
門番をやるハメになってしまったのか。
マキャラートは愛剣を鞘に納め、少し前の記憶を呼び戻した。
マキャラートが所属するデイリング帝国の首都ステアルザスは、
マカインに存在する国のなかで、最も繁栄した国家の都であった。
デイリング帝国に君臨する国王オクタデリヌスの身辺を警護するのが、
聖騎士と呼ばれる10名の能力者たちである。
10名の能力者は、デイリング帝国軍のなかから精鋭を集めた国王親衛隊の、
更に卓越した能力の戦士がNo付けで選ばれていた。
あの日、マカインの上空に時空の歪みが発生し、
荒れ狂う黒雲の渦がマカインの大部分を覆い尽くした。
暗黒雲の勢力は、そこに済む様々な国の住民達を貪欲に捕食し、
血の最後の一滴まで飲み干そうとした。
突然の来襲に世紀末の様相を呈したマカインの住民は、
互いに助け合いながら抵抗を試みたが、
何れも圧倒的な力の差に屈した。
その中で、マカインのデイリング帝国王オクタデリヌスだけは、
配下の聖騎士たちに守られながら、
王の一族と首都ステアルザスに住む一部の国民そして僅かに生き残った他国の民を伴い、
ヤットコ大森林のなかに急造されたダンジョンの奥深くまで避難した。
その後暗黒雲の手先が幾度もダンジョンを攻略せんと挑み続けてきたが、
これまで一度も侵入に成功したものはいなかった。
特に国王の身辺を警護するNo.1からNo.10.の聖騎士は、
暗黒雲の勢力に匹敵する能力者の集まりであり、
加えて国王のオクタデリヌスも、
聖騎士以上の能力者であると国民の間で囁かれていた。
ダンジョンという特異な環境下で、
暗黒雲の略奪者たちの進撃は困難を極めていた。
そのような状況下、マキャラートが現在居るD-1ゲートを、
難なく通過する集団が現れたという情報が、
ダンジョン最深部に位置する臨時王宮に伝えられた。
報告を受けた国王オクタデリヌスは、
フェイズ-4という最高レベルの警戒モードを発令し、
ジグ達一行が到着する予定のD-2ゲートの防衛に、
No.1オストレッサ、No.2ゼドギア、No.3ドミギア、
No.4ベアバルトル、No.7ギャリスというマカイン最強の5聖騎士を派遣した。
『なのに、なんで俺だけ門番なんだよぅ』
自分の物思いに、思わず答えてしまうマキャラート。
咳をしても一人、そこまで風流な状況ではないにせよ、
自分が国王軍の主力として扱われなかったことは明白であり、
<MONBURN type01>に雑談機能が備わっていないことを踏まえれば、
マキャラートの境地に同情の余地があっても良かろう。
そのときである
ブーン
微かな金属製の羽音とともに、広場の端に三匹の蜂のようなものが、
木々の小枝を縫うように飛びながらゆっくりと現れた。
言わずと知れた、ハイラインが斥候のため放った特殊合金製スズメバチである。
『ん?』
マキャラートは、突然の来訪者にゆっくり目を細めた。
『こりゃたまげた、お客さんかねぇ、それとも・・・』
見るからに自然界の蜂ではなさそうである。
しかし今のところ、攻撃してくる気配は感じない。
マキャラートは念のため、
背後で待機する<MONBURN type01>10体を、
<STAY>から<バトルモード>に切り替えた。
<MONBURN type01>の起動音が、広場に鳴り響く。
『どれ、挨拶代わりに・・』
マキャラートは腰の<風神剣>を抜くや、
特殊合金製スズメバチに向かい片手で軽く剣を振り降ろした。
すると、剣先から3つの小さな空気の渦が飛び出し、
それらは真っ直ぐハチ目がけ襲いかかった。
ブブゥーン ブンッ ブンッ
特殊合金製スズメバチは、
それぞれマキャラートの空気の渦に一瞬巻き込まれそうになるが、
渦の流れる方向に逆らうことなく一回りするや、
そのまま渦の外に投げ出されるように離脱した。
見事スカされた3つの渦は、森の大木を2~3本なぎ倒してから消えた。
『舐めやがって、俺様のヤル気がモリモリ上がってきても知らねーからな』
マキャラートは、退屈しのぎのターゲットが現れたこともあり、
怒りと喜びが交錯した表情で、
あざ笑うように飛び回る特殊合金製スズメバチに向かっていった。
『俺は、ハエ叩きも得意なんだよ、このやろー』




