<マカインにて - 敵か味方か5>
<マカインにて - 敵か味方か5>
三人をとり囲むバリアは、地上を離れると球体に変形し、
これによりディフェンスラインの死角は解消された。
上空のどす黒い雲の渦は、三人が接近してくるのを察知したのか、
渦の中心を徐々に窪ませながら球体のバリアを迎え撃つ構え。
バリアを含め、丸ごと渦の中に飲み込もうとしている。
『おいおい、あちらさんは誘ってるようだぜ。
望むところだ。ガツンとやってやる!
仮に噴霧機が駄目でもな』
タルカスは、噴霧機のノズルを確認しながら、
OUTとINの切替スイッチを不安そうにパチパチと幾度も切り替えた。
そもそもタルカスは、家電のリモコン操作などが苦手なタイプだった。
『せっかくのお招きだ。
虎穴に入らずんばなんとやら・・』
先頭のハイラインは、渦の中心にある窪みに進路を定めた。
ここまま中心に突入することは最も危険な選択である。
だが同時に、中心部に小麦粉を散布するのが最も効果的な方法でもある。
相手を飲み込もうとするものと、相手に深く切り込もうとするもの、
図らずも互いの意図が合致し、バリアの球体は渦の中心に消えていった。
ゴウン ゴウン ズラッシュ ズラッシュ
暗黒雲は渦の威力を更に増しながら、
形状を鋭角的な深海鮫の歯のように研ぎ澄まし、
ハイラインたちのバリアを粉砕せんと囓り始めた。
しかし、入れ歯のじいさんが堅焼きせんべいに苦戦するように、
全く歯が立たない。
『この位置から眺めると、なかなかの絶景だな、おい』
相変わらず、スイッチの位置を気にしながらタルカスが嘯く。
確かにここから見える渦の内観は、
クラーケンに襲われた難破船にいるような地獄の様相であった。
『いいかタルカス、間違ってもこのスイッチを逆に作動させるな。
小麦粉の噴射に関してはバリアを張ったまま外部に散布できるが、
万が一噴霧器が吸引モードを開始した場合、
我々のバリアに相当な損傷が発生してしまう。
吸引モードは、この忌々しい暗黒雲が完全に白化し無害化してからだ』
ハイラインは、改めて散布開始前に念押しした。
『私のほうは準備完了、いつでも作戦を開始できる』
ヴェルキアは、ハイラインによる作戦開始の合図を待つ構え。
ガガガ ゴゴゴ ウイン ウイン
渦の刃は、あらゆる角度からバリアを食い破ろうとしている。
『ハイラインよ、お前は相当な心配性だな。
俺様がそんな間違いをしでかすはずがないじゃ・・』
ポチッ
ハイラインの言葉にいらつくタルカスの指先が、
噴霧機の切り替えスイッチに偶然引っかかり、
吸引モードに入ってしまった。
慌てたタルカスは、更に作動スイッチをきっちりと押してしまった。
ブ、ブォォォォォ
噴霧器のノズルが生き物のように暴れながら、
エキストラバリアの内壁に吸い付き、
本来いかなる攻撃も寄せ付けぬ、
堅牢なるエネルギー障壁に小さな穴を開けた。
ハイラインは瞬時にタルカスの噴霧器をストップさせたが、
既にバリアには致命的な損傷が発生していた。
ガッ ガッ ガッ
荒れ狂う渦の牙がバリアの亀裂に幾度も食い込み、
バリア内部に侵入せんとしている。
これまで牙の攻撃は完全に阻止していた障壁であったが、
噴霧機の吸引モードは想像以上に強烈だった。
『バリアはもう持たない、間もなく崩壊する。
こうなればバリア無しでも噴霧を開始するぞ』
ヴェルキア、ハイライン、タルカスのダンジョン守護者にとって、
本当の実力を試されるときがやってきた。
『やっちまった、本当にすまないと思ってる』
タルカスは存亡の危機にも関わらず、嬉しそうな口調で噴霧器を構えた。
普通に作戦を遂行していれば楽勝の展開だった。
だがそれではタルカスの本望ではなかろう。
ダンジョン守護者による小麦粉の全開噴射と同時に、
バリアの亀裂から渦の牙が襲いかかった。
『いくぞ、プランA+B』
ダンジョン守護者による死闘が遂に始まった。




