ミッション<SH-1176>
Descartesの備忘録
・プロローグ
ごくたまに、それも至極たまに猛烈にやる気が出るときがある。
理由は定かで無い。
《時空調整担当》
もし私に名刺のようなものがあれば、そのような肩書きが書いてあるだろう。
もちろん、名刺などは存在しない。
名刺とは、自分を相手方に紹介するために、
職業,住所,氏名,電話番号などを小型の名札に記入したもの。
だが、自分には相手と呼べる存在がいない。
例え相手がいなくても、自分は自分であるということだけはわかる。
実に奥深いものである。
「担当」を一任したのは、他ならぬこの私自身。
相手か・・・
道草はやめよう。
ベタ付かないように薄力粉を表面に付着させ、無限に幾重にも重ねてある餃子の皮を想像してみたまえ。
だいたい皆、似たようなビジュアルが脳裏に浮かぶはずだ。
ひとつの世界は、私にとってそれぞれ餃子の皮1枚ほどのものでしかない。
しかし中の存在にしてみれば、世界は広大で神秘に満ちあふれているだろう。
餃子の皮同士だが、概ね付着してる薄力粉のおかげで大人しく重なっている。よって、互いが引っ付くことはない。だがごく希に、粉が湿り皮同士が癒着しそうになるときがある。
私の出番はそんなとき。
餃子の皮同士を強引に引きはがし、僅かな隙間に新しい粉を振りかけてやるのである。
「調整」とは、そのような一連の作業をあらわす。
今回のミッション<SH-1176>も、
いつもと変わらぬ(癒着しつつあるふたつの次元世界を分離する)作業であった。
しかし、さてどうしたものか。
私が調整を担当してからこれまでずっと、
癒着した皮を外から強引に引きはがし薄力粉を間にちゃちゃっとふりかけ済ませていたわけだ。
その結果、恐らくそれぞれの世界に存在していたはずの生命や物質は尽くがらがらぽんに粉砕され、
抗うこと無く須く初期化されていく。
そのことに、私がなにがしかの感情を持つことはない。
だが、悠久に続く同じ作業にはウンザリしつつあるのも事実。
私のやる気は、私の中で好奇心を芽生えさせた。
それは初めて、私をある行動に駆り立てたのである。
初期化される運命の2つの世界、初期化前はいったいどうなっているのか。
これまで気にしたこともなかったが、一旦気になると矢も立ても堪らない。
これは行くしかない、そうだ、行くぞ。それがやる気の源であるならば。
仮に私が何らかの価値をそこに見出すとすれば、退屈しのぎにはなるかもしれない。
《癒着しつつあるふたつの世界を初期化せず剥離する》
面倒であれば止めれば良いだけのこと(ぉぃ
これはミッション<SH-1176>に於ける私の備忘録である。