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プロローグ 『死の要請』

 指先で触れたのはキーボードのエンターキー。それを一度押せば、仕事に一区切りつく。

 何度も押され、そこだけ他に比べて薄汚れたエンターキーから指を離し、彼は椅子ごと後ろへと下がった。


 その際、手前に置いてあった書類に手を伸ばし、そのまま目で読み流すのは、もはや彼の一つの癖と言えるだろう。


「あら、トーマスはどうしたのかしら?」


 彼が書類――もとい資料に目を通していたところ、彼女も仕事が終わったのか、こちらに歩み寄りながらそう問うてきた。


「さぁ? 大方着れる服が無くなって遅刻でもしているんだろうよ」


 ジョークとキーボードの音、飛び交う会話に窓から流れ込む外からの喧騒は、ここが大都市であること。その中でも特に人が行き交う場所。そしてもうすぐ時計が正午を伝えることを先に表していた。


 体内時計も正確だ。ゆるりと腹が、何も無い胃袋に怒りを覚え始めているのを感じる。

 しかし残念なことに、この仕事場での昼食は一時からのため、すぐには腹の叫びに答えてやることは出来ない。


 ここ、アメリカのニューヨークという大都市にどっしりと構えられたオフィスで、彼はそんなことを考えながら、仕事仲間にジョークを飛ばしていた。


「はぁ、なら今のうちに電話でもしてあげて、神様に祈る時間でもあげないとね」


「ああ、そいつがいいさベティ。だがそれなら生憎俺は無宗派なものでな。祈る神もいないもんだから遅刻し放題だ」


 ベティと呼ばれた美しい金髪を編み束ねた女性は、男の言葉に口笛を鳴らし、降参とばかりに笑いながら手を上げる。


「確かに、セイヤの故郷は神様だらけだものね。楽しむんなら無宗教じゃないと。あっちじゃもうすぐハロウィンだっけ?」


「ああ、そのはずだな。有難いことにここなら無駄な出費を抑えることが出来そうだ」


 セイヤと呼ばれた男は、手に持っていた紙を机に置き、座りながら大きく伸びをしてスマホで調べ事を始めた。内容は日本の時間についてだ。

 日本とアメリカの時差はおおよそ13時間ほど。現在の時刻がもうすぐ正午になりそうだということは、


「どうやら良い子は寝る時間、らしいな。これじゃ今日はソラに電話をかけられないな」


「あら、もう彼も十六でしょう? 親バカにもほどがあるわよ」


「あいつはいつだってガキさ……っと」


 スマホをポケットにしまい、会話に弾みをかけようとしたところで、セイヤは窓越しに見える小太りな男性を見つけた。


 小太りと言っても、清潔感がない訳では無い。むしろ身だしなみには気を使っているのがありありと見える服装だった。腹の肉のせいでその全てが台無しに思えるが。


 そんな男が汗だくになり、オフィスのドアを思い切り開いてきたのだ。

 当然、オフィスの社員全員が彼を注視するのだが、彼はそんなことお構い無しにこちらに近づき、セイヤの腕を掴む。


「お、おいおいトーマス。ヒーローの登場にしてはやけに切羽詰まった顔だな。腹でも下したか?」


「悪いけどちょっと来てくれ」


 噂の人、トーマスにジョークを無視され、ぐいっと腕を引っ張られてはセイヤはそれに従うしかない。同僚の視線に耐えながら、セイヤは席を立つ。


「ちょっと、トーマス。どうしたの一体」


「セイヤだけに用があるんじゃないんだ。ベティも一緒に来てくれ」


 そう言って今度はベティにも席を外すよう促す。

 ただならぬ表情にベティは伝えたい内容を大方察知し、社長の方へと視線を向ける。

 どうやら伝えたいことは同じらしく、頷かれるとベティも頷き返し、トーマスについて行く姿勢を見せた。


 そうして三人はそれぞれ視線に耐えながら、オフィスから出たのだった。



 仕事場を出て、少し離れた所。ここにいるのは三人のみ。秘密の話にはうってつけだ。


「おいおいトーマス。どうしたんだ? 今が秋だからって、まだ気温が下がったわけじゃないぞ?」


「天気予報を見るのは歯を磨くのと同じくらいの日課さ。汗だくだからって安心してくれよ……ってそうじゃない聞いてくれ!」


 ハンカチで汗を拭き、体良くセイヤのジョークにノリツッコミをしながらも、トーマスは本題に引き戻す。


「……社長もお咎めなしだったし、私たち三人だけの話。ほぼ予想はついてるけどね」


 腕を組み、その豊満な胸を腕に預けてベティはため息混じりにそう言う。

 セイヤもベティのこの言葉に、普段の調子を戻してトーマスの言葉を待った。


「……日本からの支援要請が来た。出現場所は東京の端。Sランクの『吸血鬼』だ」


 ―――――――


 吸血鬼――英語ではヴァンパイアと呼ばれるそれは、所謂御伽噺や伝説上の生物とされている。

 創作上の生き物としては『ドラキュラ』『カーミラ』などの作品があがり、耳にしたことは多いだろう。


 実際、多数のゲームやマンガ、小説に起用されているのは事実である。


 紅い目に鋭い牙、人々を魅了する美しい姿など、想像により生み出された吸血鬼の外見は様々だった。


 あるいは可愛らしい、カッコイイなど、時が経つにつれ、吸血鬼は少年少女の間で伝説上としてさらに根強い認知を得ている。


 ――本物の吸血鬼は、もっと恐ろしく残忍だとも知らずに――

という訳で新連載。ゆるーりと時間がある時に始めていこうと思います。


登場人物のセリフは一応全て日本語にします。作者の学歴がないのがバレるので汗

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