96 ムーコとの関係
「何かあれば、なんでもお申し付け下さい。私はフブキくんの側仕えですからっ」
そう言って、改めてオレとの関係性を主張してくるムーコ。
その表情には、若干焦りのようなものが見えた。
こ、これは…………。
もしかすると、オレがまだ一度もムーコを側仕えとして扱ってないからかも知れない……。
うう、む……。
側仕え……か。
ムーコ曰く、自らの主人と認めた人に仕える側が契約を申し入れ、その身を主人の為に役立てるお役目。たしか基本的に主人に絶対服従で、主人からの見返りはとくになし。ただひたすら心に決めた主人に『忠義』を尽くすのみという……。明らかに従う側に利点のない関係だが、自身が心から信じられる主人に尽くす事にこそに、意義があるのだとか……。
うむ……。
これで何も頼まないのは……以前と同じままの扱いをするのは、ムーコの覚悟に対して失礼か。
仮にも一度引き受けた身。
ちゃんと側仕えとして扱うことも、大事なのかも知れない。
でも……。
側仕えとして扱うってどんなだ? 側仕えって家来ってことだろ?
家来なんかもったことのないオレには、どうして良いのかわからな
い…………。
……あ。あれか! 『暴れん坊将軍』の上様みたく振る舞えばいいのか!? 『じぃ、後は任せた』、とか『忠介、頼むぞ』みたいなアレか!
うん……。なんかちょっと解った気がした。
なるほど……。
「わかった。じゃあこれからは色々と頼むぞムーコ」
オレが試しにそう応えると、彼女は「はいっ」と答え、安堵した様子を見せた。
うん……。これで良かったようだ。
期待に応えられたようでなにより。
まぁ、一応オレはチームリーダーで男だしな。どのみち、ある程度は色々決定を下したり頼んだりする必要も出てくる。そういうのにも少しは慣れないとな……。それにいつかは仲間も増えるかもしれないし、協力的な仲間がいるのは、チームで動いていく上でとても助かることだ。ムーコの気持ちに感謝である。
…………。
でも、オレが何か頼んだことで、ムーコが怪我をしたらやだな……。
オレが決めたことで、こいつが危ない目にあったら嫌だ。
どうすれば……。
…………………………。
「ムーコ。新しい黄泉返りだけど、お前が手に負えないって思ったらすぐに教えてくれ。撤退する」
「わかりました」
「オレじゃ、本当に危険かどうかの判断も危ういから、頼む」
「了解です」
「……」
「…………」
「……あ、あとムーコが怪我するのはナシな。一応、退魔師だから多少の怪我は許容するけど、大怪我はナシ。だから……無茶はしないでくれ。……いい?」
命令──というよりは伺うように聞いてみる。
そんなオレに、ムーコは「はいっ」と嬉しそうに答えた。
……よし。
これでこいつは無茶しないでくれるだろう。
これならいい……。
………………。
それにしてもムーコ。疑問も挟まず、すぐ了解していったな……。
オレが村を見捨てたりするのかとか、不安に思わないのだろうか……。
「あ……、あともう一つ。村人よりもムーコとナタリの安全優先で」
「はい」
もちろんそんなことはムーコも心得ているだろうが、こいつは夢中になると周りが見えなくなることがある。ナタリを守ることはともかく、いざという時、村人の命を救うために自身の命を投げ出しかねない。本当に大切なものを守るためには、優先順位をしっかりさせておくことが大事だ。
「あっ、いた」
ナタリが家から出てきた。
「どしたナタリ」
「なんか気づいたらいなかったから」
「ああ、少し食休みしてた」
「村の人たち気にしてるよ?」
「そか……。じゃあ戻るか」
「はい」
もう少しムーコと話したいことがあったが、また後にする。
今すぐどーのって話でもないだろう。
「……あ、ナタリ。一時的にこの村を守る方向で動くけどいいか?」
「もちろん」
まるで当然のことのように、あっさり即答するナタリ。
ふむ。なんかちまちま自分達の安全を考える己が小さく見えるぜ……。
オレ達は宴会の席に戻る。
村人たちは楽しそうに話し、ナタリがアホな受け答えをする。
場は笑いにつつまれる。
うん……。悪い感じはしない。
きっと気のせいだろう。
──漠然とだけど、この村は居心地が悪い。
そう思ったのは、オレが人付き合いが苦手だからかも知れない。
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