94 地図に載ってない村
村に着いた。
ダンディーさんに貰った地図には載っていない村。
20世帯ほどしかない小さな集落だった。
すぐに村長の家へ招かれ、そこで宴会がひらかれる。
料理は山の幸がふんだんに使われているようで、丸2日間も携帯食ばかりだったオレ達にとってとてもうれしいご馳走だ。
さっそくオレ達は料理をいただく。
もぐもぐいただく。
……おいしい。
村長らは、オレ達の退魔師としての話を聞きたがった。
まぁオレ達は若造の3人組だ。
村を守れる退魔師なのか、心配なのだろう。
食事をしながら、4級退魔師だということと、一応マレビトで、一ヶ月前にこの世界へ来たばかりということも伝える。
世間知らずなところで不安にならても仕方ない。逆に正直に打ち明け、いろいろ教えて貰いたい。
「なるほど。フブキ殿は、マレビト様でしたか。しかし、この世界へ来て一月ばかりで退魔師になられるとは……」
「すばらしい才能ですな」
「まったくじゃの」
「いえいえ……」
村長や村の偉そうな人たち相手に、オレが受け答えをする。
「4級というのもすばらしいの」
「そうじゃの。多くの退魔師は6級。よくて5級止まりじゃ。お若いのに大したものじゃ」
「ほだの」
「いえいえ……」
彼らがやたらと賞賛してくる。
だが照れくさいことはない。
なぜなら、それらは全てムーコのおかげだからだ。
社交的にオレが「いえいえ」と受け答えているだけ。だって当の本人ムーコは、食べ物に夢中で一向に話に応えるそぶりを見せない。こういう役目ならばとナタリも見るが、彼女は村の(偉そうでない)おっちゃんやおばちゃんたちと、楽しそうに盛り上がっている。
「4級というと、ジド国では『面山賊・頭』相当の退治が必要と聞いとりますが……」
「あ、そうですね」
「おお! あの面山賊・頭を!」
「これはすごい!」
「あ、いえ…………『頭』については、こちらのムーコが2体とも倒しました」
「おおっ!」
「そうなのですかっ!?」
「女性でありながらなんとも!」
オレは一人もぐもぐと食ってばかりのムーコにも会話をさせようと、話をふってやった。お前も少しは対応してくれ。
さっきからオレばっかりが彼らの相手をしている。正直オレは、人と話すのが上手じゃないのだ。半分は「いえいえ」しか言えてないのだ。
しかしムーコはこちらを見ても、もぐもぐを止めない。ていうか頬がリスみたいになっている。なにお前。お前の武芸者道には『はしたない』って言葉はないの?
しかもあろうことか『なんでしょうか?』って表情まで浮かべている。まったく話を聞いてなかったようだ。
「ムーコが『面山賊・頭』を倒したのを教えたら、驚かれているんだ」
オレがムーコにそう説明してやる。
すると……
「ふぶぐぐんぞびゃづがえどちでどうぜんのごとをしたみゃれれす」
「なに言ってっかわかんねぇよ」
「もぐもぐ。ごくり。……フブキくんの側仕えとして、当然のことをしたまでです」
きりっとした顔でそんなことを言うムーコ。
「おおっ……!」
「側仕え!」
「ということは、フブキ殿はムーコ殿の主様なのですか?」
「あっ……いや」
「ま、まさかどこかのお殿様では」
「そういえばどことなく貫禄が──」
「言葉少なにも、風格が」
いや、そんなもんないだろっ。言葉少ないのもただ人と話すのが苦手なだけだからっ。
ていうかムーコ。側仕えにしてくれって言ったの、面山賊を倒した後じゃねーか。なんだこいつ。もう食べることに戻ってる。なにこれお前のいう側仕えってそんなんでいいの? ムーコのおじいさん、この子だいじょうぶ!?
「面山賊・頭を2体退治するムーコ殿。そしてそんなすごいムーコ殿がお仕えするフブキ殿。これはただ者ではありますまい」
「んだんだ」
「はい。フブキくんはいずれ、一国一城の主となるお方です」
「おぉ~!」
「これはこれは……っ」
「そこまでのお方とは存ぜず、こんな小さな村にお越しいただき誠にありがたく……」
「至極恐悦でございます……っ」
「ありがたや、ありがたや」
村の偉い人たちの態度がまた変わった。
歳のいったおばあちゃんなんか拝んでくるほどだ。
い、いいのか? これで村を守れなかったら立場ないぞ?
しかしムーコは全く動じず、ひたすら食べる。
こいつ……そんなに腹が減っていたのか。
仕方ない。村はがんばって守ろう。
オレも腹をくくって食べることにした。




