91 涼しい山道
翌朝。
朝食をとり、日の出とともに出発。
3時間ほどで草原地帯を抜け、辺りは巨大な杉の木地帯となる。
「うわっ」
背後でナタリが滑って転んだ。
「だいじょうぶかナタリ」
「うん」
起きあがって土を払うナタリ。どうやら怪我はなさそうだ。
「結構滑りやすいなこれ」
「うん。油断した」
ごろっと転がる石に、苔むした足場。
どこからか湧き水でも出ているのか、ところどころ湿っていて滑りやすい。
まぁ昨日の湿地帯や、急斜面よりずっとマシか……。
巨木のおかげか草木は少なく、苔やシダ植物がたまに茂っている程度。
濡れているところさえ気をつければ、さくさく登っていける。
「涼しいね」
ナタリがつぶやく。
「ああ、標高も高くなってきたし基本日陰だからな」
「こーゆーとこばかりなら山歩きも悪くない」
「だな」
昨日と違っておしゃべりする余裕もでる。
良いことだ。
前方を見ると、20メートル程先でムーコが立ち止まっている。
そろそろ休憩かな。
「フブキくん、あれを……」
ムーコに追いつくと、彼女はそばの窪地を示す。
そこに潰れた人間の死体があった。
◇
なんだこれは……。
「こちらにも」
ムーコが別の場所を示すと、そちらにも同じように潰れた死体。
酷い……。顔を背けたくなる。
死体は地面にめり込んでいた。
まるで、何か重いもので圧し潰されたように見える。
……黄泉返りの仕業か?
ふと、頭上が陰った。
なんだ?
「フブキくん!」
ムーコがオレを突き飛ばし──転がる。
瞬間、
──ドオォォォォン!!!!
何だ!? 何が落ちてきた!?
起きあがって見ると、そこには巨大な足!
足があった!
……わらじを履いている。
見上げると、出所は闇となっており、膝下までしか見えない。
足だけの化け物だ!
足がすうっとあがり、闇に吸い込まれる。そしてその闇が移動。
またオレの頭上に!
「避けて下さいっ!」
「うぉっ!」
ズドォォォォォォン!!!
また踏んできた!
何だコイツ!
なんて衝撃! なんて震動!
また足がすうっと上がる。
そしてそこに残る巨大な足跡。
踏まれたら──死ぬ。
「だ、だいじょうぶ!?」
ナタリが後方で叫ぶ。
「離れてろナタリ!」
オレは退魔刀を抜く。
黄泉返りなら退魔刀が効くハズだ!
──またオレの頭上に闇が来る。
くっ。オレばっかり!
だが、足が落ちてくるまでわずかにタイムラグがある!
避けるだけなら、やれる!
「ムーコ! オレが避けたら攻撃頼む!」
「はいっ!」
ムーコが薙刀を構える。
──来るっ!
ズドォォォォォン!!!!
なんとか避ける!
そこをムーコが薙払う!
──ズパァン!!
ムーコの攻撃が当たった瞬間、巨大な足は黒煙となって消えた。
…………。
………………あれ?
倒した?
見るとそこには、小さな『わらじ』が一足。
それをムーコがつまみ上げる。
「倒したようです」
「マジか……」
意外と弱い? いや、でも……
完全に初見殺しじゃねーか!
知らなきゃ普通死ぬだろ!?
ていうか、ムーコに突き飛ばしてもらってなかったら、オレは間違いなく死んでた。
洒落にならん。
……やばいな。想像以上に未知の黄泉返りというのは厄介だ。
いくら結界テントがあっても、これじゃ命が持たん。
早く安全なところへ……北国シーラに行きたい。
シーラには、ジド国と同じように結界が張られていると聞いた。
国のなかにいれば、こんな危険な目に遭わずに済むのだ。
「だ、だいじょうぶフブ兄? ムーコ姉?」
「ああ……大丈夫だ。怪我はない」
ナタリがオレ達のところへ来て、窪地の死体やら状況などを認識する。
窪みって、今の奴の足跡なんだな……。
あいつに踏みつけられて、この人たちは死んだんだ……。
「今のなに? 知らない奴だよね?」
「ああ、完全に未知の黄泉返りだ」
山の黄泉返りについては、情報が少ない。
山村の人たちやダンディーさんから多少話は聞いたが、そもそも黄泉返りがこの世界に溢れ出したのが半年前。
分からないことの方が多い。
オレ達は今の奴を『わらじ足』と名付け、移動を再開する。
頭上に注意。
陰ったら注意。




