89 不可抗力的な……
「身体拭きたい」
夕食後、テント内で一休みしてるとナタリが言った。
「あーオレも」
実は昨日も、寝る前に水筒の水を使って3人身体を拭いた。
今日なんかは昨日以上に過酷な道のりで、身体がべとべとだ。
本当ならシャワーでも浴びてさっぱりしたい。
だが今は水筒にたくさん入っているとはいえ、水は貴重だ。ふんだんには使えない。
水を浸した手拭いで、身体を拭くだけで我慢するしかない。
沢でも見つけられれば良かったんだが……。
「今思えばジド国の銭湯ってありがたかったな」
「うん。シーラ国にはあるかな?」
「あるだろ? ジド国より小さいらしいけど、それでも3分の2くらいの大きさはあるらしいし」
「そか。楽しみだね」
オレは手拭いと桶と水筒を持って、テントの外へ出る。
当たり前だが、ナタリとムーコが身体を拭くときオレは外だ。
外に出て、黄泉返りを警戒しながら身体を拭うのだ。
「フブ兄のぞいちゃだめだよ」
「のぞかねーよ」
アホなことを言うナタリを適当にあしらう。
これで覗く奴いたら勇者だろ。
バカ相手にしてないで、さっさと洗おう。もし面山賊とかが来たら面倒だ。
ちなみに先ほど面山賊とバトったところから、少しだけテントを移動した。
なんでも奴らは縄張り意識が強く、活動範囲が結構決まっているらしい。出るところには出るが、出ないところにはそうそう出ない。こないだ面山賊から助けてくれたザッシオさん達が、そう言っていた。
だから遠目からでもすぐ見つかる草原地帯は避けて、少し戻った木々が生い茂り出すポイントにテントを設置しなおしたのだ。
念のため──少しでも見つかりにくくする為に。
オレは上半身裸になり、水を浸した手拭いで拭いていく。
汗くさいとあいつらに悪いし、オレ自身も不快だ。
しっかり拭う。
……。
…………。
ふと気配に気づく。
ナタリがテントから顔を出してオレを見ていた。
「フブ兄……いい身体になってきたね」
ふふっと笑うナタリ。
「てめっ。覗くなっつってお前が覗いてんじゃねーよっ」
「男でしょ。……気になるの?」
「なるわ!」
なるんだよ。オレみたいに身体に自信がない奴は……。
武芸教わり出してから引き締まってきているとはいえ、まだだらしない身体だ。腹もまだ少しぷにってる。くそっ。
っていうかお前もさっさと身体を拭け。お前らが終わんないとオレ、テントに入れねーんだぞ。
オレはナタリから見えないテントの側面に移動して、身体を拭く。
下半身も、上半身ほどでなくとも汗ってる。軽くでいいから拭いたい。
ズボンを足下におろして、手拭いを水に浸して気づく。
この視線……。
またかっ! ──と思いテント入口の方を見るが、ナタリはいない。
気のせいか?
そのまま何気なく周りを見回すと──
「……っ!」
面山賊!
それが1体!
いや、2……3体!
こっちに走ってきている!
すでに30メートル程!
やばい!
オレはズボンをあげて退魔刀を抜く。
が、ベルトをしっかりしめてなくてズボンが落ちる。ちょ。
「む、ムーコ! 面山賊だ!」
オレは敵襲を二人に知らせる。
が、見れば面山賊は全部で6体ほどに!
──っ! 無理だ!
オレは桶も手拭いもそのままにテントのなかへ──
「あっ」
出てこようとしたムーコにぶつかり、そのままテントに転がり込む。
「ご、ごめんっ」
起きあがると目の前には裸のナタリ。
「あ……う……あ…………で、でていけフブ兄ーーーーーーーーー!」
「い、いや無理! 無理無理無理っ! 面山賊! たくさん!」
「えっち! えっちえっちえっち! へんたーーーーーーーーーーーーーい!!」
ナタリが水筒とかいろいろ投げてくる。
「いたい! やめて! マジ無理!」
「無理じゃない! あっち向いて! ていうかムーコ姉押し倒してる!」
「あ、ああ! ごめんムーコ!」
オレはムーコの上から退いて後ろを向く。
耳を澄ませば、テント周りを面山賊が囲む足音。
そして──ぐいんぐいんと奴らの攻撃をはじく、結界テントの音。
怖ぇ……。
「何体ですかフブキくん」
ムーコが起きあがる。
彼女はすでに服を着ていた。寝間着姿だ。
「6体……いや7体かも」
「テントを飛び出して戦うには、少し面倒ですね」
「ああ……このままやり過ごそう」
「そうですね」
さっき結界テントを試せたのが良かった。
怖いけども、なんとか落ち着いていられる……。




