84 決断を下す!
「……あっ。いや、でもオレたちには結界テントがある。これがあれば行けるのでは?」
結界テントは、今オレが背負っている。
面山賊に襲われた翌日、ザッシオさんに結界テントは常に持ち運びした方が良いと言われたのだ。
結界テントは黄泉返りに対して『絶対』であり、そこへ逃げ込めば面山賊の時のピンチも、無事にやり過ごすことが出来たのだと言う。少なくとも普段テントをテント街に設置したまま狩りをする退魔師たちも、少し遠出するときは必ず持ち歩くらしい。
ザッシオさんからそうアドバイスを受け、畳んでもそれなりに大きい結界テントを持ち運ぶ為に、『テント用のホテイ袋』を買ったのだ。
また山村に行く前に、三人がそれぞれ分けて荷物を持てるよう、登山用のリュックも買った。
いわば、最低限の山歩き装備はあった。
だが食料が心許ない。
一日分の食料と、山村の人たちから土産でもらった干し肉と、クコの実(一袋)だけだ。
これだけだともって二日。
北の国まで最速でも二日かかるとダンディーに言われていた。
二日……。
ギリギリである。
案内なしでギリギリの日程。
どうすべきか…………。
「結界テント。確かにすばらしいですが、黄泉返りに襲撃されたら設置している暇はないかも知れません。間に合えば良いのですが……」
ムーコがぽつりと言った。
あっ……。たしかにそうだ。骸骨くらいなら逃げながら設置出来るが、面山賊あたりだとその余裕は微妙だ。相手の人数による。そしてそれ以上に素早い黄泉返りの場合、テント設置どころではないかも知れない。
安全を優先するなら南……か。
気合いで合流さえすれば、山村の人たちは力になってくれるだろう。
でも……
「ナタリはどうしたい?」
「あ、あたしは………………できれば北に行きたい」
……だよな。こいつは家族のもとに帰りたがっていた。
南行ったら『元の世界に帰る』から大きく遠のく。
「あっ、けど……無理そうならいい……」
ナタリ……。周りのことも考える奴である。
「……ムーコは?」
「私はフブキくんが決めた方で」
にこりと、そう答えるムーコ。
なんかムーコは『側仕え』宣言をしてから、なんでもオレの意に沿う感じである。
仕えるとはそういうことなのか……?
でも、三人組でムーコがオレの決断と同じと言ったら、多数決的にはオレの決定だけが総意となる。ナタリがかわいそうじゃね?
──って違うか。
ムーコ……こいつは信じてやがるんだ。
たとえばオレが南を選べば、『オレが三人の安全の為にそう判断した』と考える。そしてその上で全力を尽くす。
逆にオレが北を選んでも、『ナタリの為に、仲間の為にリスクをとって決断した』と考える。そしてこれまたその上で、こいつは全力を尽くす。
うん……。武士の鏡のような奴だ。男気あふれまくりである。
でもその分、オレにプレッシャーがかかるんだけどな……。
もし南へ行って村の人と合流できず、こいつらをのたれ死なせてしまったら……。
もし北へ行って未知の黄泉返りに襲われ、殺されるようなことにでもなったら……。
難しい判断である。
なんでオレが……。
あっ、リーダーか。そいや退魔師でチーム登録したとき、二人にチームリーダーを頼まれ引き受けたっけ……。いや、でもまさかこんな決断を迫られる羽目になるとは……。
見ればムーコとナタリが、オレの決断を待っている気がする。
っていうか、待っているのか……。
うー……。決めなければ、か……。
男らしく決断を……。
男らしく……。
…………。
……………………。
いや、男らしくとかどーでもいいわ。
最善を尽くせ。そういう判断をしろ。
…………。
……………………。
……………………………………。
「北だな。北国シーラを目指す!」
オレは決断を下す。
「今日はもう遅いからここらでキャンプ。明日はジド国を迂回して北の山に入ろう!」
オレの言葉にナタリが目を丸くする。
「フブ兄……いいの?」
「ああ。どっちにしても大変なら、せめて前を向いた行動をしようっ。いくぜムーコ! ナタリ!」
「はいっ!」
「……うんっ!」
チームとしての意志決定を下すという不慣れもあり、若干へんなテンションのオレ。だがそんなオレにも二人は元気よく応えてくれる。
くそっ。たとえこの判断がマズいものだったとしても、気合いと根性で良い判断だったと言えるものにしてやるっ!
やってやるぜっ! なめんなよ!
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