83 原因
どうしてこうなった。
いや、原因は一目瞭然だ。
眼下に広がる真っ黒で大きな闇。そのなかで時折、黄泉返りの群が蠢いているのが見える。
そしてその中心。
学校の校舎ほどもあろうかと思える巨大な黒蛇が、輪ゴムのように丸まり眠っている。
あり得ないほど大きな蛇。
あれがジド国を落としたのは明らかだった。
四日前。
つまり『烈風の薙刀』を試した翌日のこと。
面山賊から助けた子供のことでお礼がしたいと、オレたちを訪ねてきた人たちがいた。
彼らとその子供は、このジド国の南方──つまり『見習いの森』を抜けた先にある山の向こう側で生活する人たちで、そこにオレ達を招待したいとのこと。
小さな山村ではあるが、めいっぱい歓迎するのでどうか来てくれないかと言われた。
当然戸惑った。
村までの道のりはそれなりに険しく、辿り着くのに丸1日かかるという。ほとんど登山のようなものだ。オレやムーコはともかく、ナタリにその道のりは厳しい気がする。
それに村の人たち──3人のうち一人は女性ではあるが、残りの二人は腕力のある大人の男だ。おまけに武装までしている。いきなりそんな人たちと山の中をともに行動するのは、少し怖い気がした。
だが詳しく話を聞くと、彼らはモニカさんと古くからの知り合いであり、信頼できる人たちだと分かる。また、当のナタリが行きたがっていたので、村へ行くことを了承したのだ。
それから四日。
村でおもてなし(主に三日三晩の宴会)を受け、途中まで見送ってもらい、ようやくジド国が見下ろせる丘へ出られたらこの有様である。
ジド国を燃やし続けたであろう火の手は消えており、今は黒い闇からわずかに煙が立ちのぼるばかり。
正直目の前の状況が信じられず、戸惑いを隠せない。
「どうするフブ兄……」
ナタリが不安そうに聞いてくる。
どう答えたものか……。
あれは、たぶんだけど祟り神。『退魔師の昇級条件表』に記載されていた、祟神とかだろう。当たり前だが、オレたちにどうこうできる存在じゃない。
「どこか別のところに行くしかないな……」
当たり前のことを答えるしかできない。
もうあそこへは帰れない。あそこはもはや死者の国。
何千何万とうごめく黄泉返りの群が、そこに生きている者がいないことを物語っている。
「山村に戻るか、北へ行くか……ですね」
ムーコが言った。
北というのは、ジド国の北方に位置する山を3つほど超えた先にある、シーラという国のことだ。
4級退魔師になった翌日、ダンディーさんから元の世界に戻れる可能性があると言われ、その手がかりはジド国の北方にあるシーラ国にあるという。
──元の世界に戻りたいのなら、まずはシーラを目指すと良い。
そう言われ、地図を貰ったのだ。
地図にはシーラ国までの道のりがかかれており、途中いくつかの村や集落などが記されている。
正直オレは元の世界に帰れなくても構わないが、戻りたいというナタリに協力するなら北……シーラ国、ということになるだろうか。
だが同時に北は、強い黄泉返りが多いとも言う。
ジド国周辺では見られない、変わった奴らが沢山いるのだとか……。
どうするか……。
「山村に戻ったとしても、彼らと会えるとは限らないな……」
「そうですね」
山村の人たちはオレ達の出発と同時に、逆方向の南へと旅だった。
移住するのだそうだ。
面山賊の被害が多くなり、より安全な、南の山をいくつも越えた先にある小さな国へ行くのだと言っていた。
なんてタイミングで……。
いや、元々もっと早くに移住する予定だったらしい。子供を助けたオレ達に礼を尽くすために、出発を遅らせていたのだ。
むしろ……不幸中の幸いか。
彼らのおかげで、難を逃れたと言える。
もし山村に行ってなかったら……。
もしジド国にいたら、オレ達はどうなっていたかわからない。
……モニカさんやダンディーさん。
ジド国で出会った人たちは、無事どこかへ逃げることが出来たのだろうか……。
今となっては知る由もない。
………………。
「北かな……。南へ行っても山村の人たちに追いつけるとは思えないし、その先の道がわからない」
地図はジド国を最南端として描かれていた。
「そうですね。南の山は標高も高く山頂が白んでいました。私たちの装備では越えられないでしょう。逆に目の前の北の山は幾分低いです。……ただ、黄泉返りの脅威が、どれ程かは判りませんが」
そうだった。
黄泉返り。
奴らさえいなければ北で確定なのだが、その脅威が未知数で判断に迷うのだ。
「……あっ。いや、でもオレたちには結界テントがある。これがあれば行けるのでは?」




