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79 同心



 夜。


 今日は一日中、買い物をしまくった。

 なにせ350万ポウ。しかも『宝具3割引き』である。


 まず最初に、当初の目的だったムーコの新しい薙刀──『烈風れっぷう薙刀なぎなた』を買った。

 店主てんしゅ値引きで180万から100万になっていたところへ、更に3割引き適用となり、70万ポウでの購入だ。


 次にテントでの生活道具や、調理道具などを一式。

 そして最後に、それぞれ着替えや寝間着ねまき、防具なども買った。

 みんな、お金が入ったら買おうねと決めていたアイテムたちである。


「ね、ね。見て見てこの寝間着かわいくない?」

「ああ、かわいいぞ」

「でしょでしょ? いいなーと思ってたんだこれ。テント内のランプでも、よく映える色合いだし」

「そうだな。いい感じだ」

「ふふふふふ。ねっ。この髪留めも良くない?」

「ああ、良く似合ってるぞ。いい色だ」

「えへへへへ」


 テント内でナタリの相手を適当にしながら、オレはモニカさんから発行して貰った2つのものを確認する。


 ──一つは『退魔師証』。

 なんでもとある(・・・)宝具で作られているらしく、偽装不可能なものらしい。見た目はなんの変哲もない、金属製のカードだ。



ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー 

【4級退魔師証/ジド国──南換金所支部】

名前:氷上フブキ

職業:刀使い

チーム名:未定

チームリーダー:氷上フブキ

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー



 チームリーダー……。

 ムーコとナタリにお願いされたから引き受けた。

 まぁ、リーダーと言ってもただの代表役だ。チームとしては、これまで通り三人仲良くやっていけばいいだけの話。


 問題はチーム名だ。

 退魔師会では、登録している退魔師に『黄泉返り討伐の依頼』をすることもあるらしく、都合上、チーム名を決めてほしいとの事。昼間はなにも浮かばなかったので、また後で決めて『換金所』に報告することになっている。


 どうすっかな……。

 とりあえずモニカさんから貰った、もう一方のものを見る。

 四級以上・・・・()退魔師・・・となった(・・・・)にだけに(・・・・)しく(・・)公開・・される(・・・)という、『退魔師の昇級条件と、各級の特典表』だ。



ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー


■退魔師の昇級条件と、各級の特典表(※昇級条件は一度でも満たせば良い)


【一級退魔師】──(非公開)──特別報酬

【二級退魔師】──(『祟神』の討伐および封印)──特別報酬

【三級退魔師】──(『地厄』級の討伐および封印)──特別報酬

【四級退魔師】──(『面山賊・頭』級の黄泉返り討伐者)──『宝具3割引き』


ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー



 ちなみに上位の級認定者には、それ以下の級の特典全てが含まれている。

 つまり四級のオレたちは『五級の宿舎利用権』や『六級の治癒符(月10枚)』を受け取れるのだそうだ。


 治癒符はありがたく受け取ったが、『宿舎利用』はやめておいた。いまオレたちが利用すれば、骸骨30体狩って入っていた人がすぐに出て行かなくてはならなくなる。オレたちには結界テントがあるのだ。宿舎は困っている誰かが使えばいい。それに大金をだして三人で手にいれたテント。みんなが気に入っているのもある。


 それよりも……。


「三級認定条件の討伐対象。『地厄じやく』って読むのか? なんだろうなこれ……」

「うーん。厄年やくどし厄除やくよけ、厄払やくばらい……。なんかいい感じはしないよねー。討伐対象なんだから当然だろうけど……」


 ナタリがヘアゴムをくわえ、髪をとかしながら答えてくれる。


「二級の『祟神さいしん』ってのも気になる。たたがみのことか? 神様級の敵ってことか?」


 昨日戦っためん山賊さんぞくだってめちゃくちゃ怖いのに、さらに上の上の存在のことを考えるとさすがにまいる。


 そして極めつけが一級の『非公開』。

 なんだよ非公開って……っ。

 神様クラスより上位の扱い!? なんだよそれ!


 しかもその非公開の理由をモニカさんに聞いたら、『それらはどう言った存在なのかを、()だけでも(・・・・)()せる(・・)可能性が出てしまうらしく、いたずらに知られてはいけない』との事。当然、名すら極秘情報で、モニカさん自身も知らないのだそうだ。


 なんかもう、なんと言っていいかわからない……。


「どのような敵でも、私がお守り致します」


 ムーコが言った。

 ずっと黙って新しい薙刀──『烈風れっぷう薙刀なぎなた』を手入れしていたムーコ。


 彼女を見ると、

「なにかご用があれば、私に申しつけてください。私はフブキくんの『側仕そばづかえ』ですから」


 そう言って、にこりと微笑まれた。

 少し、どきりとする。


「ねぇ……そばづかえって、なに?」


 ナタリが疑問を口にする。


 ──『側仕そばづかえ』。

 なんでも、ムーコの故郷にある武家・・()()主従契約・・・・()()()、自らの主人と認めた人に仕える側が契約を申し入れ、その身を主人の為に役立てるお役目だそうだ。基本的に主人に絶対服従で、主人からの見返りはとくになし。ただひたすら心に決めた主人に『忠義』を尽くすのみ。


 明らかに従う側に利点のない契約だが、自身が心から信じられる主人に尽くす事にこそに、意義があるのだとか……。


「具体的には、主人のおそばつかえると同時に、その身をお守りするお役目です」


 ムーコがそうまとめる。


「そ、そうなんだ……」


 ナタリが不思議そうに反応する。


「ってことは、フブにいが……ムーコ姉の主人ってこと?」

「そうです。フブキくんは仲間の為に自らの命を落とすこともいとわない、誠に男気溢れるお方。いずれ一国を治める、良き『名君めいくん』となるでしょう。私は微力ながらそのお手伝いをしたいと思ったのです」

「えっ……オレは別に、なにも治めるつもりはないけど……」

「えっ!?」


 なんだよ『えっ!?』って……。たまに思うが、ムーコとは育った国というか文化が大きく異なる気がする……。


「なんと無欲なお方。ますますお仕えしたく思いますっ」


 ムーコ……。


「……でもムーコ姉は、『同心どうしん』っていう見回りのお仕事をしたかったんじゃないの?」

「はい……。ですがこの世界に来てしまった以上、見回みまわぐみはありませんし、同心業どうしんぎょうも、岡っ引きという同じ上役に仕えるお役目ですからね。せっかくお仕えするのなら、自身が心から尊敬出来るお方の方が、良いに決まっています。その点、フブキくんはお会いした当初からお力になりたいと思わせるお方でしたし、今回のことで……それはもう」


 これまたにこりと、嬉しそうにそう答えるムーコ。


「そ、そうなんだ……」

「はいっ」

「……フブにいも、それは了承済みなわけ?」

「まぁ……色々あって」


 実は今朝その内容を聞いて、やっぱそういうのは遠慮しようかとムーコに伝えたのだが、「なにか不備があったでしょうか?」とか「すぐに改めますのでどうかそれは──」と、めちゃくちゃ狼狽うろたえられた。


 一度心に堅く誓ったものを、なしにすることは出来ないそうだ。むしろお守りできなければ、自害するほどの決意とのこと。まさかこんな頼みとは思わなかったが、仮にもオレは一度引き受けた立場。男としてもうなにも言えなかった。


 まぁ、ムーコが力になってくれるというのなら、こっちもムーコの力になるだけ。仲間として、以前より協力関係が強くなったものとして考えればいい。文化の違いだ、柔軟に対応しようと思う。


 …………。

 一つ案が浮かんだ。


「チーム名……『同心どうしん』にしようか」

「えっ」

「ムーコは、見回り組の『同心』になるのが夢だったんだろ? 退魔師も似たようなもんだ。現にムーコは、面山賊から子供を助けた。人助けという意味じゃ『同心』と同じだ。だからチーム『同心』。──夢叶えとこうぜ」


 側仕そばづかえとかはともかく、女の子にこうも信頼されたら応えたくもなる。


「チーム『同心』……」


 ムーコがつぶやく。


「あー……。そういうのじゃダメだったか?」


 夢を叶えたとは言えないだろうか……。


「い、いえっ……。それはうれしい……のですが──」


 ムーコがもじもじしてる。

 確かにうれしいっぽい。


「で、でも……良いのですか? その、同心って私の個人的なものですし……」


 戸惑いを口にするムーコ。


「あたしは別にいいよー。『同心』ってなんかちょっと渋くてかっこいいじゃん」


 即ナタリが反応した。


「ナタリちゃん……」


 ナタリ……。

 気のきく優しい奴である。


「よし、んじゃオレ達は今からチーム『同心』な」

「フブキくん……。はいっ!」

「いえーいっ」


 ナタリがノリ良く両手をあげる。

 ムーコはうれしそうだった。



   ◇



 翌朝。

 換金所でチーム名『同心どうしん』を登録してたら、居合わせたダンディーさんから話があると言われ、以前お昼を共に食べたお店に移動する。


「フブキ、ムーコちゃん、ナタリちゃん。君らに言っておかねばならんことがある」


 ダンディーさんは席につくなり、いきなり話を切り出してきた。

 なんか真面目な雰囲気だ。

 どうしたんだろう……。


「えっと……なんですか?」

「実はな──」


 深く息を吐いて、ダンディーさんが言う。



「君たちマレビトが、元の世界に戻れる可能性が──つだけあるんだ(・・・・・・・)





(2章完)



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