77 ムーコの決断
目が覚めるとムーコが涙を流していた。
「ムーコ、おなかの怪我……痛いのか?」
「いえ……お腹はだいじょうぶです」
彼女は涙を拭い、上体を起こす。
確かにお腹は大丈夫なようだ。
それならどうして……。
というか此処は?
見上げるとテント内だと解る。オレ達の結界テントだ。
いつものように右にムーコ、左にナタリと並んで眠っていたようだ。
「あれ……? オレ……どうなったんだっけ」
頭が働かない。
オレも起きようとするが、身体に力が入らない……。
◇
ムーコから現状を聞いた。
どうやらオレが面山賊を相手に立ち向かったあと、助けが来たらしい。退魔師さん達があっという間に面山賊達を倒し、窮地だったオレを助けてくれたそうだ。だがオレはすぐに気を失ってしまい、今は『見習いの森』のなかで、ナタリが持ってきてくれたテントで休んでいるところとの事。
周囲には同じように退魔師さん達がテントで休み、守っていてくれている。
「そうか……」
みんなに助けてもらったのか……。
となりのナタリを見ると、すーすーと寝息を立てている。
ナタリにも心配をかけてしまったかも知れない。
「フブキくん。お身体の調子はどうですか?」
「身体……」
なんだか気怠い……。身体を起こすことが出来ない。
頭もぼーとする……。
「明日になれば……動けると思う」
「そうですか……」
ムーコが辛そうな表情をする。
「だいじょうぶだよ……」
オレがそう言うと、首を横に振るムーコ。
「ごめんなさい……。私が取り決めを破って面山賊相手に飛び出してしまったから……」
「それは……子供を守るため……だったじゃんか」
「でも、お二人を守ると言っておきながらあんな危険な目に遭わせてしまい、フブキくんにはこんなにも無茶を……」
ムーコ……。
「しかも、助けに来てくれたフブキくんに対して怒るだなんて……私は」
「それは……ムーコはオレを心配してくれたからだろ……」
「でも……っ」
ムーコの頬に涙が流れた。
「だいじょうぶだよ。……ムーコのおかげで、子供は助かった。オレも生きている……。何も問題ない」
「フブキくん……」
ぽろぽろと泣くムーコ。
ムーコ、がんばってるのに……。ムーコのおかげで、オレとナタリはこの世界で生きていられてる程なのに…………。泣く必要なんてない。
「でも……なんで逃げてくれなかったんですか?」
「……なんで?」
「面山賊は、武器も仲間も出来てない状態で手を出すべき相手ではなかったんです。それなのに……なんで」
「……仲間だから」
「仲間……」
「仲間だろ……。同じ境遇の……助け合える仲間」
ぐすっと、ムーコが鼻をすする。
「でも……フブキくん、死んじゃうところでしたよ? 死んだらお仕舞いじゃないですか?」
「おしまいじゃ……ないよ」
「えっ?」
「ムーコが……生き残ってくれたら……おしまいじゃ……ない」
彼女が生き残れば……ナタリと二人でやっていけるだろう。
オレの人生にも、意味が持てる。
「フブキくん……それは……」
ムーコが驚いている。
なんだ……?
「フブキくん……それは、仲間の『範疇』を越えていると思います」
仲間の……範疇?
どういう意味だ? ……だめだ頭が回らない。わからない。
なんて答えれば……。
ムーコを見ても、俯きがちで表情も読めない。
しばらく沈黙が続いた。
「フブキくんにお願いがあります」
ふいにムーコが口を開く。
「ん、なに……?」
「私、強くなります」
「…………ムーコは、強いよ」
彼女は首を横に振る。
「もっと、です。もっともっと強くなって……強くなります。……ですから──」
そこでムーコがオレを見る。
「私をフブキくんの、『側仕え』にしてくださいませんか?」
……そば……づかえ? そばづかえって……なんだ? ……だめだ。頭が回らない。眠い……。よくわからないけど……ムーコが言うことならなんでも…………。
「……いいよ」
「ありがとうございます」
眠りに落ちる寸前、ムーコのうれしそうな微笑みを見た。




