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76 フブキくんは最初から



 思えば、フブキくんという人は、最初から優しい人でした。


 神社で骸骨に襲われ尻餅をついた私を、すぐに助けに入ってくれたフブキくん。

 腰を抜かして立てなくなってしまったナタリちゃんを、おしっこがぬれるのもお構いなしにおんぶしてあげたフブキくん。


 当たり前のように、ごく自然に他人ひとを助ける人だった。


 そして村で、ならず者の大男たちに頭を下げるフブキくん。

 私が手を出せば、簡単にかたがつく相手。

 正直、止められたときはフブキくんを邪魔に思った。


 こんな人達、すぐに叩きのめせるのに……。


 でもまぁ、ならず者は本当にろくでもない人達。どうせすぐに私の出番はくる。

 フブキくんが音をあげれば、私が倒しておしまい。

 そう思っていた。


 けれど、フブキくんはなかなかひかない。

 あれだけの体格差、そうとうに堪えているはず。

 なのにひかない。


 殴られても殴られても、常に大男とナタリちゃんの間に自分を置き、暴力のすべてを自身で受け止めている。


 なぜそこまで……?


 すぐに疑問はとけた。フブキくんの考えが解った。

 彼はおそらく、私じゃ大男達に勝てないと思っている。

 少なくとも危ないと思っている。

 もし──そんな私が手をだしたら?


 大男達は本気で私に攻撃してくるだろう。

 そうなったらフブキくんは、自身のみならず私やナタリちゃんにも危害が及んでしまうと考えている。


 そして、また別の可能性も考えているかもしれない。

 もし、万が一、私が大男達を倒してしまったら。


 当然、恨みを買うことになる。報復を受けるかも知れない。

 内容は逆恨みもいいところですが、復讐の相手が私であるとは限らない。むしろ、か弱いナタリちゃんが狙われる可能性が高い。



 知らない世界で、もしナタリちゃんがそんなことになったら──。



 そう考えているのだ、フブキくんは……。

 だから相手を怒らせないように、穏便に済ませようと、ひたすら痛みに耐えて…………。


 それに気づくと、私は自らが恥ずかしくなった。

 同時にフブキくんを尊敬した。


 あんなに殴られて……お身体もさほど鍛えていない武芸経験のない人。

 その痛みは尋常ではないだろう……。

 今すぐにでも助けたい。


 でも、手を出せばフブキくんの耐えてきた事が無駄になる。

 私も耐えるべきだ。

 がんばって自身を律した。


 だが結局はナタリちゃんが殴られ、私がカッとなって台無しにしてしまいましたが……。


 でも、フブキくんは私を責めなかった。

 仕方なかったと、むしろ助かったと、私の武芸を誉めてくれた。


 うれしかった。

 素敵な人だなと思った。

 ご縁ある限りは、この人の力になろう。

 そう思った。



 それからいろいろな事があった。 


 神隠し。

 元の世界に戻る方法がなく、この世界で生きていくしかないとなる。

 突然なんの前触れもなく出会った私たちは、この日、同じ境遇の仲間──助け合える仲間となった。



 仕事と借家探し。

 武芸者なのに、女だからと門前払い。借家も見つからない。

 お役に立てなかった。



 何かお役に立ちたくて、フブキくんに按摩あんまをした翌朝。

 フブキくんが、ナタリちゃんの布団を掛け直してあげていた。

 やはりお優しい。

 亡き祖父を思い出す。


 

 テント購入。

 お二人が貴重な所持品を売って購入した。

 私はまたお役に立てなかったが、二人は私がテント情報を持ってきてくれたおかげだからと言ってくれる。



 テントで寝そべるナタリちゃん。

 いつの間にか、彼女は何の遠慮もなくフブキくんと話すようになっていた。お気持ちはよくわかる。フブキくんには、私たちを安心させるなにかがある。



 骸骨の大襲撃。

 武芸者として、私がお二人を守らねばと本気になった。

 けれど、ナタリちゃんが骸骨に噛まれ、私も瘴気とやらで倒れる。

 情けなく涙するも、お二人は私のおかげで助かったと言ってくれる。



 それからフブキくん一人が骸骨狩りをし、ナタリちゃんが私の看病をしてくれた数日間。

 武芸経験のないフブキくんにとってとても危なく、怖かったことと思う。それでも私とナタリちゃんの為にどうにかお金を工面して、『発熱うどん』を食べさせてくれた。


 私より回復の早かったナタリちゃん。

 彼女も体調が万全ではないはずなのに、寝たきりの私に朝昼晩と、血行促進の按摩をしてくれる。身体がだるく、とても辛かったから有り難かった。

 回復し、迷惑をかけたと頭を下げる私に、二人からムーコのおかげで助かったのだからと改めてお礼を言われ、また泣いた。



 その後は、フブキくんとナタリちゃんに武芸を教えながら、骸骨狩りをして生活をする日々。

 楽しかった。

 いつしか、突然の出会いだったものが、当たり前となり、かけがえのないものとなる。



 私は一人っ子だったからわからないが、兄妹とはこういうものなのかも知れない。

 ずっとこのまま、三人でいたいと思うようになった。



 でも大切なものは、ほんの些細なことで失うこともある。

 何人もそういう人を見てきたし、私自身、幼い頃に小さな戦で両親を亡くしている身。


 だから守りたかった。

 ──骸骨だろうと面山賊だろうと、私の全部で守ってみせる!


 三人並んでテントで眠りにつくとき、そう秘かに誓いもした。

 なのに……。


 

 なのに────────────────────────。



 今、たくさんの面山賊を相手に、フブキくんが戦っている。

 傷だらけになりながらも、面山賊を倒していくフブキくん。

 信じられないことに、すでに6体は倒しただろうか。

 凄まじいまでの気迫。


 けれど、面山賊はまだ30体以上。

 このままじゃフブキくんが死んじゃう。

 たとえ全ての面山賊を倒すことが出来ても、あんな戦い方ではフブキくんが死んじゃう。


 なのに、私の身体は動かない。

 手にも足にも、まったく力が入らない。

 涙だけがポロポロと流れ落ちる。



 およそ10体もの面山賊を斬り伏せたフブキくん。

 そこで彼は背中を刺された。

 致命傷。


 だが倒れかかるも、フブキくんは踏ん張り斬り返す。

 何故そこまで?

 決まっている。

 フブキくんは、私を生かそうとしてくれている。


 彼の戦い方は、自身が生き残ろうとする戦い方じゃない。

 怪我を代償に、面山賊を一体ずつ倒していく戦法。

 格上に勝つための、捨て身の戦い。


 もうやめて……。

 もうやめてください。

 フブキくんを傷つけないでください。

 彼は優しい人なんです。


 黄泉返りが人を襲う存在と知った上でも、本当に倒して良いのか、相手のことを考えてしまうくらい優しい人なんです。

 そんな人は死んじゃだめなのです。


 かみさま、どうか彼を助けて下さい。

 私はどうなってもいいです。

 かみさま。

 かみさま、かみさま、かみさま~~~~~~~~~~~~~~~っ!!



 ──どっ!



 とつぜん、フブキくんの背後の面山賊が倒れた。


 ……なにが起きたのでしょう?


 今度は、フブキくんの左側にいた面山賊がふらりと倒れる。

 まさか……かみさま!?

 祈りが通じたのですか!?


「へーい! 今日も絶好調のザッシオ様が助けに来たぜーーーーぃ!」


 違った。かみさまじゃなかった。確か……


「ザッシオさん……」

「ん? オレを知っているのかボインちゃん! 聞いたかおい! オレも有名になったもんだぜ!」

「アホか! 俺たちのテントを買ってくれた子たちだ!」


 ノリノリのザッシオさんに、美形の男の人が答える。


「あ、どおりで見た気がするわけだ!」

「怪我の手当をするわ」


 えっちな服装のおねーさんも居た。

 フブキくんがちょっとドキドキしてた人。

 彼女が、私の怪我に治癒符を貼っていく。


 周りをみると、他にも沢山の退魔師さん達。

 次々と面山賊に襲いかかっていく。


「あの、フブキくんを……」

「まかせておいて」


 私の声に、換金所のおねーさん、モニカさんが答えてくれた。




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