75 決意
「大丈夫か、ムーコ」
「フブキくん……すごいです」
ムーコが呆然と言った。
「まぐれだ。もうできん」
オレはムーコの横にへたりこむ。
「今、治癒符を貼る。怪我みせて」
「フブキくんからさきに」
「いいから見せて」
オレがそう言うとムーコが腹部を出す。
そこにぺたっと治癒符を貼る。
よし。これでだいじょうぶだろう。
しばらくは動けないだろうが、死にはしない。
よかった。
「フブキくんも……お顔が」
「ああ……」
三体目を倒したとき、頬を斬られたようだ。
血が垂れてくる。
これも治癒符を貼るか……。
「あ、私が……」
ムーコがオレから治癒符をとって、顔に貼ってくれる。
「ありがとう」
「いえ……」
そう答え、俯くムーコ。
「すぐナタリが、誰か助けを連れてきてくれると思う」
「……そうですか」
「……たぶん、ダンディーさんとか門番の人かな」
「………………はい」
ムーコの反応が悪い。俯いたままだ。
……大丈夫かな。
血を流しすぎたのだろうか……。
「あの……どうして逃げてくれなかったんですか?」
ムーコが言った。
「どうしてって……」
「言ったじゃないですか、もう無茶はしないと」
問いつめるように言ってくるムーコ。
確かにそうは言ったけども……。
「フブキくん、死んでましたよ? フブキくんの武芸はまだ面山賊に及びません。勝てたのは捨て身で戦った上での、運です。サイコロで同じ目が、たまたま三回連続出たようなものです。あれじゃ…………次は死んじゃいます」
「まぁ……そうだよな」
「そうだよなって……自分がどんな無茶をしたのか、わかってるんですかっ!?」
ムーコが珍しく声を荒らげた。
「……わかってるよ」
「でしたら、どうして──」
言いかけてムーコが固まる。
「そ、そんな……」
サーっと青くなるムーコ。
ムーコの視線の先。
新たに面山賊が30……いや、40体以上!
奴らがやってくる。
「マジかよ……」
これは…………死んだな。
現実的に無理だ。
オレの人生はここで終わる。
そしてムーコも。
…………ムーコも?
「フブキくん、今ならまだ間に合います。逃げて下さい」
……逃げる?
それはない。女の子おいて逃げるくらいなら死んだ方がマシだ。
そして、死ぬのなら……。
どうせ、死ぬのなら────────。
オレは面山賊を迎え撃つべく立ち上がる。
2本の刀を手に、奴らを見据える。
ムーコを……死なせたくない。
「ふ、フブキくんっ……?」
「……ムーコ、ごめんな。ムーコが最初に骸骨狩りを誘ってくれたときに、すぐ退魔師を始めていれば、こんなことにはならなかったかも知れない」
「そ、そんなこと……っ」
「一緒に戦うって約束したのに、結局助けてもらってばかりでごめん」
「フブキくん……」
「短い間だったけど、いろいろありがとな。……楽しかったよ」
おかしな縁だった。
ほんの一ヶ月前か?
子猫にエサをやりに神社へ向かったら、こんな世界に来ちまった。
でも……最期にいい仲間が出来た。
ムーコの表情が悲しみにゆがむ。
オレが何を言っても逃げてくれないと、悟ったのだろう。
そしてその先の死も……。
ああ……最後くらい笑顔を見たかったな。
こいつは普段ぼーっとした顔をしていることが多いからか、たまに見せる笑顔がとてもいいんだよな。あれ、こっちまで嬉しくなるのに……。
もう見られないのか、あの笑顔。
それはやだな……。
あーあ。万に一つもないのかな、ここから助かる可能性。
…………ないな。
ナタリが助けを連れてきてくれるのを期待するが、辺りを見回しても面山賊の他になにも見あたらない。間に合わない。
けど、ムーコだけなら……。
きっと助けはあと数分でくる。
それまで、オレが時間を稼げれば……。
──いま、ムーコを死なせない為に、オレが出来ること。
防御はなしだ。一瞬でももたつけば畳みかけられる。すべて先手。殺すことだけを、奴らを破壊する為だけに身体を動かせ。
前に……でろ。
前に!
オレが駆け出すと同時にムーコが何かを叫んだ。
けれどもう、なにも頭に入ってこなかった。




