67 烈風の薙刀
「ど、どんな効果があるんですか?」
「うむ。一言で言うと『烈風を生み出す効果』がある」
烈風を生み出す効果……。
名前のまんまだった。
「ま、口で言うより、試した方が早いじゃろう。お嬢ちゃん、少し離れた所からこの兄ちゃんめがけて、軽く薙刀を振るってみるといい」
「えっ」
ムーコが躊躇う。
「もちろん、薙刀は当てなくて良い」
「でも……」
「大丈夫じゃ。烈風といってもしょせんは風。それで怪我はせん」
おじいさんがなんでもなさそうに言う。
うーむ……。
「心配なら、兄ちゃんはこれをもっておれ。これでもどのくらいの風圧かは、体験出来るじゃろう」
そう言っておじいさんがカウンターの後ろから持ってきたのは、高さ1・5メートル、幅50センチ程の鉄板だ。一方の面に取っ手がついているので、そこを持つようだ。
なるほど……。
これなら万が一にも問題なさそうだ。
「いいよムーコ。やってみよう」
オレは、おじいさんとナタリから離れたところに立ち、鉄板を持って構える。
「だ、だいじょうぶですかね」
「いいよ。鉄板ぶ厚いし……風だけみたいだし」
「うむ。風がでるだけじゃ。斬れるわけではないから安心して良い」
「わ、わかりました」
そう言ってムーコも、ナタリとおじいさんのそばから離れ、オレと5メートル程の間合いをとる。
そして、オレに向かって薙刀を構え──
「やっ!」
と一振り。
──ズブワァーーーーーーーーーーーーーーッ!!
「ぐふっ……!」
オレは店の壁に激突した。
ありえない程の爆風。鉄板と壁にサンドイッチされる。
痛ぇ……っ。
風がやみ、鉄板が倒れる
あまりの衝撃にうずくまるオレ。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですかフブキくんっ!?」
「だ、だいじょうぶ……けほっ」
「ちょっと、おじーサマ! なにが『安心していい』よ! フブ兄吹っ飛んじゃったじゃない!」
ナタリがおじいさんに怒る。
「い……いや、こんなハズじゃ……」
おじいさんも想定外だったらしい。狼狽えまくっている。
「あ、も、もしかしてお嬢ちゃん、かなりの腕前なのでは……?」
「え?」
「ほ、宝具ってのは……使い手によって、その威力が左右されるのじゃ」
「そうなんですか?」
「うむ……。じゃが並の退魔師でも、軽く振っただけであれほどの烈風はでないんじゃが……」
おじいさんが呟く……。
「ちょっとあたしも振ってみる。いい? おじーサマ」
「そ、それは構わんが……」
おじいさんが心配そうにナタリを見る。
「大丈夫、あたしは武芸始めたばかりだから」
そう言ってナタリがムーコから薙刀を受けとり、オレに向かって構える。
…………もう一度オレが構えるわけね。
鉄板を持って構えると、ナタリの「いくね……」の合図とともに──
「やっ」
──ブワッ!!
「ぐっ!!」
強力な風が出た。だが、さっきよりはずっと弱い風。
オレはどうにかその場で踏みとどまれた。
「なるほど……」
ナタリが納得した。
どうやら、おじいさんの言うとおりのようだ。
おじいさんの想像以上にムーコの腕が良かったから、オレは壁に吹っ飛ばされたようだ。
「でも、はじめは人にじゃなく、壁とかで試せば良かったんじゃないの?」
「そ、そうじゃの。すまんかった」
ナタリの言葉に、おじいさんが謝る。
うむ……。
オレもナタリの意見に賛成だが、なら2回目だって壁で良かったのでは……?
「お主もすまんかった。ワシの認識不足で痛い思いをさせてしまったの」
おじいさんがオレにも謝ってくる。
「いえ、大丈夫です。お気にせず」
わざとじゃないなら、仕方がない。
オレも武器屋の人だからと、いきなり信用しすぎたのもいけない。
「それにしてもお嬢ちゃん、相当な腕前じゃの。いくら3級宝具でも、軽い一振りであそこまで付加効果を出すとは……。どうかの……安くするから、その薙刀買わんかの?」
おじいさんが交渉を始めた。
「武器屋をやっている者として、もちろん無料とは言えぬ。じゃが、やはり良い武器は良い使い手に使ってもらいたい。そうじゃな、180から30引いて、150で譲るがどうじゃ?」
おぉ、いきなり30万まけてくれた。
……だが、
「あの……」
ムーコが口を開く。断るのだろう。
いくら値引きしてくれても150万ポウ。
到底、足りない。
「あの……フブキくん」
「……ん?」
「これ、欲しいです」
ムーコが烈風の薙刀をぎゅっと抱いて言った。
◇
「あーあ、結局無理だったね」
武器屋を出て、ナタリが言った。
あれからオレ達は、薙刀の売買で交渉したのだが、当たり前なことに手持ちが少なすぎて無理だった。
オレ達の現在の所持金は2万ポウ。
ムーコの自前の薙刀が、査定で30万ポウ。
合計32万ポウ。
とても足りない。
おじいさんも、売るのをあきらめたのだろう。小さくため息をついていた。
だが、ムーコは欲しがった。
そんな彼女の為にナタリが口を開く。
──「おじーサマ。さっき、おじーサマの不注意で、フブ兄怪我しちゃったよね」
……それから色々あって、180万ポウの烈風の薙刀を100万なら売ってやるとまで言わせた。
「100万。あと70万くらいか」
前を歩くナタリが、軽く言う。
こいつ、やはり金持ち生まれだな……。
「なんとかしたいです」
ムーコも言う。
相当、あの薙刀がお気に召したようだ。
「骸骨一体200ポウとして……えーと……」
「3500体ね。3500体狩れば戦利品込みで70万いくわ」
考えるムーコに、ナタリが素早く計算し答えた。
「3500体……。フブキくん、明日骸骨3500体狩りましょう」
ムーコがぎゅっと手を握りしめる。
「いや無理だろ」
地道に稼ぐしか……ないだろ。




