63 問題
換金所ですぐにムーコが治癒符を買い、オレの肩に貼ってくれた。
「ありがと」
「いえ、私に先に貼っていただいて……すみません」
ムーコが申し訳なさそうに言う。
「そんなの当たり前だろ。気にすんなよ」
「当たり前……ですか」
「? 当たり前だろ?」
金銭的な理由で、治癒符は2枚しか買っていなかった。
怪我の程度が同じなら、女を優先させるのは当然のことだ。むしろそこで驚かれたりする方が心外だ。
「それよか、補充しておこうぜ、治癒符」
「フブキくん……。そうですね、今日はかなり稼げましたし、念のために5、6枚ほど買っておきますか?」
「そうだね。そうしよっか」
現在カウンターでモニカさんが、約30体分の『黒い骨』の査定をしてくれており、それを待っている状態だ。
少し離れたテーブル席で、オレたち三人は休んでいる。
「……門番さん達、ちょっと慌ててたね」
肘をついて何げなしに呟くナタリ。
「……そうだな」
門番さんに報告したら、すぐに門兵増員や近隣住民への注意喚起がなされた。
彼らの慌てぶりから、見習いの森の浅い場所で骸骨50体が出ることが、珍しい事件だとわかる。
西区が落とされたことで、ここらの情勢が過去と変わってきているのだろう。
国が骸骨達に侵略を受けたりする世界だ。数分後にはなにが起こっていても不思議じゃない。当分、『大丈夫だ、安心だ』などと言える状況はないだろう。
だからもう、この世界の住人の知るこれまでのパターン情報などもあまり鵜呑みにせず、あくまで参考程度にとどめるべきだ。自分たちで状況を把握し、考え、生きていかなくては……。
だがそれは、そうすれば良いだけのことで、問題ではない。
問題なのは、今回の戦いでのこと……。
ムーコとナタリの両方が、ほぼ同時にピンチになってしまった事だ。
オレはどちらを先に助けに行くべきか、一瞬迷った。
直後ナタリが噛まれ、反射的にナタリのところへ行ったが、もしムーコも同時に同じくらいの窮地に陥ってしまった場合、オレはどうすればいいんだろう……?
今回は結果的に、ムーコが自力で窮地を凌いだから良かったものの、次もそうであるとは限らない。今後、また同じような状況になることは十分にありえる。
そんな時、オレはどうすればいい……?
二人をちゃんと守りたいのに、オレにはそれが出来ない。
オレに……少年マンガの主人公みたいな、なにか超人的な力でもあればいいのに…………。
そういやガキの頃、スーパーサイヤ人になりたいって本気で思ってたっけ。クラスの嫌ないじめっ子を圧倒的な力でぶっ飛ばして、いじめられっ子を助けたいって考えてた……。
でも現実は、やめなよの一言を呟くのがやっとで、実際なにも出来なかった。自分が標的になるのが怖くて、いじめられてる友達を助けられなかったのだ。
情けなくて悔しい、過去の苦い記憶。
……………………………………。
ふーっとオレは息を吐く。
切り替え切り替え。
現実的に考えて……、二人を同時に助けることは出来ない。
ならば──。
オレは立ち上がって、換金所内の壁面に設置されている板状の掲示板を見に行く。掲示板は3枚あり、『退魔師会からのお知らせ』やら『新しい支給品一覧』などの用紙が貼られている。そういった物も順に見ていく。
そして………………あった。
──『退魔師仲間募集掲示板』
これだっ。
一番右の掲示板にあった。
あとは──
「ムーコ、ナタリ」
「はい」
「ん?」
「仲間をつくりたいと思うんだけど、どう思う?」
オレはすぐテーブル席に戻って、二人に相談してみる。
「えっ」
「仲間……ですか?」
「うん。骸骨狩りを一緒にやってくれる仲間、なんだけど……」
オレの提案にただ驚くナタリと、微妙な表情をするムーコ。
あれ? ……ムーコの反応がいまいちなのが意外。
「えっと……今回の骸骨50体、結果的に助かったけどかなり危なかったじゃん?」
「……そうですね」
「あれって単純に骸骨が多すぎただけだと思うんだ。だから仲間を増やせばもっと余裕をもって対処出来るんじゃないかと……。だから、仲間をつくりたいと思う」
思えば、すれ違う退魔師さん達は、大体5~6人で活動しているのが多い。
「いいんじゃない?」
オレの提案にナタリが賛成した。
「そう?」
「うん。ちゃんとした人なら、助かりそうだし」
「そうだな……。ムーコはどう思う?」
「わ、私は……、その…………」
珍しくムーコが言い淀む。
「どうした? 気が進まないならもちろん無理にとは言わないけど……」
「あ、いえ…………。わ、私も……今回のことで、仲間が必要だというのは分かりますし、お二人がそう言うのでしたら……」
「そう?」
「はい……。あ、ちなみにどうやって仲間をつくるおつもりですか?」
「あ、それはあれ。さっきオレが見てた掲示板。……見てみない?」
オレは先ほど見つけた、『退魔師仲間募集掲示板』の前へ二人を連れて行く。
「なるほど……退魔師さんが仲間を募集しているのですね」
「そうみたい」
「ふーん。結構たくさんあるわね。なんかいいのあるかな?」
大きな掲示板に合計7、8枚くらい貼ってあるだろうか……。
オレは募集要項のところだけを、簡単に見ていく。
──【4級以上の退魔師、1名募集中。】
──【前衛で戦ってくれる5級以上の退魔師、求む。】
──【弓矢使いの退魔師、2名募集中。】
うーん……。当てはまるのがない。
っていうか、『退魔師見習い』のオレたちじゃ、駄目なのかも……。
もうちょっと見てみる。
──【大柄で前衛で戦ってくれる強い男、求む。】
違うな。
──【面山賊を討伐出来る者募集。男女問わない。】
これも違う。無理。
──【面山賊を討伐したことのある者、求む。】
だから無理だっての。
──【美しい女性限定。戦わなくても良い、たくさん求む。】
…………。
なんだこれは。
戦わなくて良いって、なにするんだ? 出会い系か?
たくさん求む、て。なんだコイツ、面白れぇな。
あ、これで終わりか。全部見てしまった。
うーん……。いいのがない。
「ないね」
「……そうですね」
二人も一通り見たようだ。
「査定が終わったわ」
モニカさんがこっちに来た。
「あ、ありがとうございます」
「ん? 仲間を増やしたいの?」
掲示板をちらっと見てモニカさんが聞いてくる。
「あ、はい。……どうしようかと思いまして」
「そうなんだ。うーん……。今はキミ達に合う募集はないかなー」
「そうみたいですね……。やっぱり『見習い』だと難しいですか?」
「んー、そんなこともないけど、ここ数日で結構減っちゃったからね。ちょっと前までは3倍くらいあって、どんどんチーム結成してたんだけど……」
「そうなんですか……」
「うん。仲間集めは結構急ぎ? 良かったらキミ達も募集してみる?」
「え? いいんですか?」
「もちろんよ」
「……どうする?」
オレはナタリとムーコに尋ねると、二人ともちょっと躊躇った。
「あ、別に今すぐじゃなくていいわよ。用紙を渡しておくから、募集要項とか条件とか、いろいろ考えて、また後で好きなときに貼ってくれればいいから」
「そうですか」
オレがそう答えると、
「では、一旦頂いて帰りましょうか」
とムーコが続けた。
「そうね。あたし今日はもう休みたい」
ナタリも疲れた様子だ。
そうだな。
今日はたくさん走って疲れた。
「わかりました。じゃあ用紙をお願いします」
「はい。あ、じゃあ先にこれ。『黒い骨』32本分の金額ね」
「ありがとうございます」
オレたちはお金を受け取り、その後『仲間募集用紙』をもらって、家路についた。




