6 伝言
「頼み?」
「村の門番にここの状況を伝えてほしい。『ヒスイ神社で面山賊が出た。生き残りはビャクだけ』──そう伝えてくれ」
ヒスイ神社ってのはここの事だろう。
「……わかりました」
「頼むぜ。後は村の奴らを頼りに、お前等はそれぞれ身の振り方を考えればいい」
「……ビャクさんは?」
「俺はここに残らなきゃならねぇ」
そんな……。
てっきり一緒に行って貰えるものだと思っていた。
「心配するな……『面山賊』は村とは逆方向へ行った。お前等はまず遭遇しねぇ」
「そ、そうなんですか……?」
「ああ、たぶんな」
たぶんなって……。
それからビャクさんは、先ほど紐で纏めていた白い皿のようなものを懐から出し、オレに寄越した。
「これは……!」
見てびっくりした。
お面だ。面山賊が着けていたお面……だろうか。一番上のには『賊』という文字が書かれている。それが三枚。
「奴らを倒すと面だけ残る。村の『換金所』に持っていきゃ金になる」
「お金に?」
「ああ、駄賃代わりだ。持ってけ」
「……ありがとうございます」
一応、礼を述べる。
「よし。じゃあ早速行ってくれ。道は鳥居を出て突き当たりを右、そこからは一本道だ。歩いて行っても小一時間ほどで着く」
「わかりました。けど……もし面山賊とか骸骨の奴が来たら、どうすればいいですか?」
「全力で逃げるか、一人が戦って足止めしろ。その間に他が村までたどり着けばいい……」
「そんな……」
「誰か一人でも、たどり着くことが重要なんだ。詳しく説明してる暇はねぇが、これはお前等の為でもある」
オレたちの……為? でも例えそうだとしても、そんな誰かの犠牲が前提で動く事なんて、出来る訳が…………。
「それに、お前等はまるっきり戦えないわけじゃないだろ」
「いや……骸骨でも厳しかったです。お面の奴相手じゃすぐに……」
「お前じゃない、そっちの女だ」
ビャクさんが着物女を顎で示した。
彼女は目を見張っていた。
「えっ……戦える、の?」
オレは着物女に聞いた。
「私は……」
「戦えるだろう? 骸骨の刀を柱にぶつけさせて無効化しやがった」
「えっ……あれは偶然じゃ……」
オレはビャクさんを見る。
「いや、意図的に誘導した動きだ。隠してるつもりか知れねぇが、俺の目はごまかされねぇ」
「……そうなの?」
「……はい。でも、私は祖父に武芸を教わってはいましたが、『魔性の類』を相手に戦ったことはありません」
なぜか少し恥ずかしそうに着物女が答えた。
そうなのか。
「ま、少しなら足止め出来るだろ」
ビャクさんが言った。
そうなのか。でも、それって彼女を犠牲にしてでも村へたどり着けって事? やはりそんなことは……。
「村へ行くのはオレ一人じゃ駄目なの?」
「……駄目だ。ここの事は、確実に伝えて貰わなきゃならねぇ。その為にも頭数はいる。さっきも言ったが、これはお前等の為でもある。今後の──お前等の安全にかかわる事だ」
はっきりとビャクさんが言う。
「──が、足手まといがいても困るってのはあるか」
そう言って、ビャクさんは白金少女に目を向ける。
彼女は足手まといってか。……まぁ、可哀相だけどそうかも知れない。
「……この子は、ここに残るのと、いま村へ行くのと、どっちが安全ですか?」
オレはビャクさんに尋ねる。
「お前……」
彼は何か言いたげだったが、ため息をついて口を閉ざした。
そして、答えてくれる。
「そうだな……。どっちも安全とは言えねぇが、ここらでヤバいのは『面山賊』だ。奴の狙いはこの神社だから、村へ向かう方が幾分マシだろうな。……どうしてもここに残りたいと言うのなら守ってはやるが、命の保証はできねぇな。スーツの男も殺されちまったし」
そうか……。
「お前等二人が行くのなら、その女はどっちでもいい。お前等で決めろ」
ビャクさんがそう言った。
「どうする?」
オレはすぐに白金少女に聞く。
「……! あ、あたしは……えっと………………」
言葉は続かない。決めかねるのだろう。
確かにこんな変な状況、なかなかついていけれない。
「彼は村へ向かう方がまだ安全だと言った。オレはそのアドバイスは信じられると思う」
よけいなお世話かも知れないが、オレは自分の思うことを言った。
彼はたぶん信じられる。
それに──彼女を初めて見たとき、三つ四つ年下かと思ったが、たぶんそれ以上に幼い。おそらく12~13歳くらいだろう。なんだが、ほうっておけない感じがする。
「で、でも……あたし足遅いし、きっと一番最初に……」
彼女は今にも泣きそうに答えた。なるほど。そう考えるよな。
「──そうはさせませんよ」
着物女が言った。
「私は武芸をやっていた者として、戦えない者を見捨て、自分だけ逃げるような真似など致しません」
「…………」
白金少女が、真偽を問うように着物女を見上げる。
「絶対です」
着物女がはっきりと笑顔で答える。
かっこいいなこの子。初めて女の子をかっこいいと思った。さっぱりしてて清々しい。
「……オレも格闘技の経験とかないけど、キミを置いて逃げたりはしないよ。……一応、男だし」
着物女の格好良さの後じゃ締まらないが、ここで何も言わないわけにはいかない。ため息ついて答える。
「……ありがとう」
白金少女は涙ぐんで言う。
そして、オレたちは三人で、村へ向かうこととなった。




