59 訓練開始
「ではこれから、お二人に武芸を教えさせていただきます」
見習いの森の入り口でムーコが言った。
「お願いします」
「よろしくムーコ姉」
オレとナタリはぺこりと頭を下げる。
あれからオレ達は、テントを南区にもあるテント街に移動させ、換金所でムーコとナタリの『退魔師見習い証』を発行してもらった。
ナタリは武器も支給してもらい、それぞれ『瘴気除け』と『ホテイ袋』も身につけている。
ちなみに換金所の職員さんはモニカさんではなく、他の人だった。モニカさんは非番らしい。三人でお礼を伝えるのはまた後日となった。
「まずお二人にそれぞれ身につけていただくのは、『巴乃流・刀術』と『巴乃流・棒術』になります」
巴乃流・刀術と棒術……。
実はナタリが支給してもらった武器は、退魔刀ではない。
2mほどの長さのある、『金剛杖』という鋼鉄製の杖だ。
小柄な女の子には、刀よりも遠心力が使える長い『金剛杖』の方が良いとの事。もちろん退魔刀と同じく、黄泉返りを『呪物化』させる働きがあるらしい。
ムーコと換金所の人のアドバイスもあって、ナタリはそれを使うことにしたのだ。
「巴乃流って……ムーコ姉、それってもしかして──」
「はい。巴乃流は私の祖父が開いた流派です」
そうなんだ……。
「祖父曰く、世界最強の武芸流派だそうですよ」
「世界最強……マジか」
「すごいっ」
オレとナタリが驚く。
「と言っても、世界をまわったことなどない祖父の言うことなので話半分で」
ふふふと笑うムーコ。
そうなのか……。
「ただ私自身、世界最強かどうかはともかく、世界で一番簡単に強くなれる武芸流派ではないかと思っております」
「……世界で一番簡単に?」
「はい。手前味噌で大変恐縮ですが、動きに一切の無駄がないので、他流派の師範代級でしたら、半年も巴乃流で鍛錬すればなんなく倒せます」
「……マジで?」
「はい。私自身、6つの頃に巴乃流武芸術をはじめ、7つの頃には3、4つ他流派の看板をいただきました」
「いただきましたって……道場破りみたいな?」
「そうです。幼さゆえにやんちゃしたものです」
苦笑して、頭をかくムーコ。
「ですからお二人ならば、半年もあればすぐにその領域にいけるかと思います。骸骨程度でしたら、一ヶ月もあれば」
骸骨程度は一ヶ月で……。
「ただそれ故、一応それだけの『力』を持つことで、同時に大きな『責任』が発生します」
「……責任?」
「はい。大きな力を持つと、大抵の事はその力でねじ曲げでしまえるのです。正義に反する行為、道理の通らない行い……つまり、無法の暴力でもまかり通ってしまうので、そうした事には力を使わず、正しいことに使わなくてはならないという『責任』が生じるのです。……フブキくんとナタリちゃんは問題ないと思いますが、見失うとご自身にとっても大変よろしくないので、一応、お伝えさせていただきました」
ムーコが柄にもなく真面目に話した。
責任か……。
でも……。
「無理じゃね?」
「えっ」
オレの率直な感想に、ムーコが戸惑う。
「あっ、責任の話はよく解ったよ。そっちじゃなくて、半年で他流派の師範代を倒せるって方。それは単に、ムーコがすごいからじゃないのか? いくら『巴乃流武芸術』がすごくても、オレがそうなれるとは思えないぞ」
「うん。あたしもそう思う。ムーコ姉がすごいからだよ」
ナタリも同意した。
「い、いえ……そんなことはありませんが」
「無理だよ」
「無理よ」
「うーん……。では、百聞は一見にしかず、案ずるより産むが易しです。まずは実践してお見せ致しましょう」
◇
「良く見ててくださいっ」
そう言って、ムーコが斬りかかってくる骸骨の攻撃を弾き、骸骨が仰け反ったところを──一閃!
「こんな感じですっ。骸骨は刃物を扱う奴でも武芸経験がないのが多く、だいたいは振り下ろしてくる攻撃です。力がないのではじき返し、仰け反ったところに攻撃を入れてしまえばなんなく倒せます!」
ムーコが骸骨の頭を踏みつぶし、オレに退魔刀を返す。
なるほど……。
「もう一体、次は棒術でやるので、見ててくださいっ」
ナタリの金剛杖を借りて、ムーコが2体目の骸骨を迎え撃つ。
ムーコが言ったように奴は刀を上から振り下ろしてくる。
それを弾き返し──ボディに一撃!
バキンっと面白いように砕ける!
そして即、頭を砕く。
「はい。ではどうぞ真似てください」
えっ……。
「いきなり実践?」
「実践に勝る練習はありません。骸骨は刀術・棒術の訓練にはちょうど良い相手です」
にこりと言い切るムーコ。
そうなんだ……。
「……ナタリやるか?」
「フブ兄からどうぞ」
しれっと目をそらすナタリ。
「大丈夫ですよ。骸骨の刀はボロいので、死にはしませんよ。治癒符もありますし」
治癒符は換金所で売っていた。一枚2000ポウ。2枚だけ買った。骸骨によって受ける怪我は、だいたいこれですぐ治せるとのことだ。
でもすぐ治るとは言っても、痛いものは痛い。斬られるのは嫌だ。
…………が、
「わ、わかった」
確かにムーコの言うとおりだ。骸骨は力もないし、人間より走るのも遅い。武芸の訓練にはちょうど良いのかも知れない。
それに、骸骨くらい早いところ倒せるようにならないとダメだ。この世界には2Mゴロツキとか、面山賊とか、物騒な奴が多いのだ。強くならないと二人を守れない。がんばるぜ!




