58 ナタリの決意
「フブ兄ほい」
ナタリがうどんをオレに寄越した。
節約の為……というより、金銭に余裕がなく二人で半分こしていたのだ。
だが、うどんがまだ7割ほど残っている。
「ナタリあんまり食べてないじゃん。足りるのか?」
「十分。怪我も体調も良くなったし、特に動いてもないしね。フブ兄いっぱい食べて」
「そ、そうか……じゃあもらう」
受け取ってまずスープを少し飲む。
身体が温まる。
「あのさ、あたしも退魔師やるよ」
「ぶふぉっ!」
スープを吹き出してしまった。
げほげほと、むせる。
「……汚いわね、フブ兄」
「い、いや……だってお前、」
「あたしも考えてた。戦えなきゃ、生きていけないかなって……」
──っ。
「で、でも……聞いてなかったのか? もう骸骨だけじゃないんだぞ。面山賊も出るかも知れないんだぞ」
「聞いてたよ。でも、だからと言ってびくびく逃げ回ってても同じでしょ? こんな、国が侵略を受けるくらいなら尚更じゃない」
「そ、それはそうかもだけど……」
ナタリも退魔師を?
こんな小柄で華奢な奴が、武芸をやれるのだろうか……。
オレはちらりとムーコをうかがう。
「私は良いと思いますよ?」
首をかしげて、そう答えるムーコ。
「いや、でもこんな小柄で華奢なやつに……」
「フブ兄だって小柄で華奢じゃん」
な、なにおう……。
「武芸は力だけではありません。むしろ力なくとも、暴力に屈しない為の技術こそが武芸ですよ」
ムーコが微笑んで言った。
「で、でもさ……」
「ま、ムーコ姉がいいって言ってくれたからあたしもやるね、フブ兄」
「マジか……」
「マジよ」
……うーむ。
まさかムーコが賛成するとは思わなかった……。だが確かにムーコの言うとおりかも知れない。
力なくとも、暴力に屈しない為の技術こそが武芸──か。それがオレにあれば、2Mゴロツキの時も別の解決策がとれたのかも知れないな……。
「そいや、噛まれた怪我、大丈夫なのか?」
「ん。もう治った。ほら」
ナタリが首もとを見せてくる。
ホントだ。キレイさっぱり治ってる。傷跡もない。
良かった……。ていうかコイツ、もう治癒符剥がしたのか。オレ、こういうのなかなか剥がせないんだよな。
「ふふふ。フブキくんはナタリちゃんが心配なんですね」
「えっ。そうなのそうなの?」
「……んだよ。心配しちゃ悪いかよ」
「えへへー。悪くないよ悪くないよ」
ニマニマとするナタリ。なんだこいつ。うれしそうにしちゃってからに……。
「あっ、そうだ。じゃあ、いい情報があるよ」
オレは換金所で貰った紙を、ポケットから出して二人に見せる。
『退魔師会について』の用紙と、『退魔師の各級認定条件と、得られる特典&支給品表』だ。
「ほらこれ。『退魔師見習い』として仮登録すれば、退魔刀とかくれるってさ」
「ホントに!?」
「ホントに」
ナタリは骸骨の襲撃時に、屋敷のおばあちゃんに貰った刀を落としてしまっている。探しに行こうにも西区は閉鎖され、黄泉返りの支配下だ。無料で支給して貰えるのは有り難い。
モニカさんに聞いたところ、退魔刀で黄泉返りにダメージを与えると、大体3分程度復元を抑えられるらしい。石では20秒ほどで復元してしたから、頭と身体を破壊しないと呪物化しない骸骨相手には、退魔刀は必須と言えるのだ。
「ふむふむ、退魔師に級があるんですね」
「へぇ~、その級ごとに色んな物が貰えるんだ……」
ムーコとナタリが用紙を見て、それぞれ感想を漏らす。
「あれっ!? 退魔師の条件が、骸骨500体になっていますっ! しかも宿舎利用も面山賊が討伐出来る者って……」
ムーコが驚いていった。
「ああ。こないだの骸骨の大襲撃で、退魔師を始める人が増えて変わったんだって」
「そうなんですか……」
「ごめんな……これもオレの決断が出遅れたせいで」
「い。いえいえ、そのようなことは……っ」
「ねぇ、フブ兄。これ既に骸骨30体倒して退魔師になった人はどうなるの?」
ナタリが、オレがモニカさんに聞いたことと同じことを聞いた。
「えっと……」
しばらくは借りていられるけど、面山賊討伐者が宿舎を申請するたびに入れ替わりで立ち退きとなること。また階級も骸骨500体を倒せなきゃ、『見習い』扱いになることを伝える。
「じゃあ、テントを買っておいて良かったんじゃない?」
「まぁ……結果的にはな。ムーコとナタリのおかげだ」
「フブキくんのおかげでもあります」
「オレ? オレは対して役だってない気が……」
「フブキくんがギリギリまで骸骨狩りはやめて、宿探しを選んだからこそです」
「んー、それはやっぱり結果論だし、そもそもムーコがテント情報を持ってきてくれたからこそのことで……役立っているとは──」
「いえいえ。名君ほど、時の流れをも味方につけるものです」
な、何言ってんだこいつ。名君て……。
なんかムーコは人を持ち上げすぎではないだろうか。
それにやはり、ムーコが骸骨狩りを提案した時にすぐ始めていれば、換金所で『瘴気除け』をもらい、今回のようなことにはならなかったのだ。テントだって、もしかしたら別の流れで買うことになっていた可能性もある。
うん……今回の事はオレのミスだ。平和ボケなところがあったのかも知れない。
まぁ、それをまた言ったところで、ムーコに『そんなことはありません』と気を使われてしまうだけなので言わないけど……。
「じゃあ、みんなのおかげと言うことで……」
「はいっ」
まぁ、オレだけ大きく足を引っ張ってしまったが、今後がんばって挽回するとしよう。
こいつら守って、生きてくために──。
(つづく)




