57 ムーコの決意
中央区に戻り、昼ごはん用にと『発熱うどん(ゆで卵付き:800ポウ)』を二つ買う。
それを持ってテントに戻ると、ムーコが起きていた。
「ムーコ、起きてだいじょうぶか?」
「はい。おかげさまですっかり良くなりました」
元気に微笑むムーコ。
よかった……。
なかなか良くならなくて心配だったが、どうやら回復したっぽい。
だが、ふとムーコが浮かない表情をする。
どこかまだ、調子が良くないのだろうか?
「どうしたの?」
「いえ……まさかフブキくんが、一人で骸骨狩りに行っていたなんて…………」
ムーコが落ち込んで言う。
ちらりとナタリを見ると、ちょっと困った感じで肩をすくめた。
どうやら元気になったムーコは、布団代や毎日の食事代に考えがまわってナタリに尋ねたようだ。
まぁ所持金が少なかったのは、テント購入後にみんなで確認している。
当然のことだろう。
「ごめんな、隠してて。でもうまいことやってるから安心してくれ」
「いえ……。私がしっかり休めるようにとのお心遣いでしょう。謝ることなど……むしろ、大変ご迷惑をおかけしました」
そう言ってぺこりと頭を下げるムーコ。
「迷惑だなんて言うなよ。仲間だろ?」
「仲間……」
「そうよムーコ姉」
「ですが……」
「前にも言ったけど、ムーコのおかげでオレたち助かったんだ」
「うん。ムーコ姉のおかげでたくさん助かった」
「だから、ありがとなムーコ」
「ありがとうムーコ姉」
オレとナタリは畳みかけるようにお礼を言った。
ずっと、ちゃんとお礼を言いたいと思っていたのだ。
「フブキくん……ナタリちゃん……」
ぽろりと涙を流すムーコ。
病み上がりで、少しメンタルが不安定になってるのかな。
「ムーコ、うどん。冷めないうちに食べようぜ。ほら」
オレがムーコに『発熱うどん(ゆで卵付き)』を手渡す。
「あ、はい。いただきます」
「ナタリも。ほい」
「ありがとフブ兄」
◇
「なんでも骸骨には、瘴気という毒があったようで……」
うどんをすすりながらムーコが言った。
ナタリに聞いたのだろう。ナタリとはだいたい情報を共有していた。
「ああ、黄泉返りはみんな纏っているらしい。とくに骸骨の骨を砕くときにたくさん飛び散るんだって」
オレは換金所のおねーさんから聞いたことを話し、対処方法である『瘴気除けのお守り』を懐から出して見せた。
「なるほど……そうでしたか。こういうものが……」
「うん、骸骨狩りをするのなら、換金所で無料で貰えるみたい。ごめんな。ムーコが骸骨狩りに誘ってくれた時にすぐ行っていれば、こんな事にならなかったのに……」
低体温時のムーコは、かなりしんどそうだった。
マジで申し訳ない気持ちになる……。
「えっ……いえっ、それは私が油断したからです。ぶ、武芸者として、魔性の類を相手に想定すべきことでしたっ」
え……そ、そうなのか? なんか無理がある気がするが……。
気を使ってくれているのだろうか……。
「そ、それはそうと、フブキくんはやっぱり退魔師になるのですか?」
ムーコが話を変えた。
優しい奴だ。
「うん。戦えるようになりたいからね……」
二人を守れるようになりたい。もうあんな情けない思いはしたくない。
「言いそびれちゃったけど、草履を買ったときに『国の外壁づくり』の仕事を紹介されたんだ」
オレは骸骨の襲撃前に、靴屋で仕事を紹介して貰えたことを話す。
「国の……外壁づくり、ですか?」
「うん。ほら、中央区にある大きな壁。ああいうのを黄泉返り対策に、他の区にも造る工事みたい……。男手なら誰でもいいそうで、たぶん採用される感じだった」
「そうなんですか……」
「うん。けど、こないだの骸骨の大襲撃で西区が落ちたから、その話自体どうなったかはわからないんだけど……どのみちそれじゃ駄目だと思い知ったよ」
襲撃中に骸骨に斬られてか、亡くなっている人を何人か見た。
「生きていくには、お金を稼げるだけじゃ足りない……。戦えなきゃいけないんだ……」
──この世界じゃ戦えない者は生きていけない。
ビャクさんの言っていた事を、今更ながらに理解する。
そして、それは骸骨を倒せるだけじゃ駄目かも知れない。
面山賊と戦えるくらいじゃないと……。
オレは換金所でモニカさんから聞いた、西区にも面山賊が現れていた事、そしていま骸骨狩りをしている見習いの森にも、今後面山賊が出る恐れが高まった事を話す。
「そうですか……面山賊が……」
「ああ……。それでもムーコは骸骨狩りをやる?」
前にムーコが骸骨狩りを誘ってくれた時とは、状況が変わってきている。
「もちろんです」
躊躇せずムーコは言った。
「先日は不覚をとってしまいましたが、次こそはお役に立って見せます」
きりっとやる気を見せるムーコ。
ムーコ……。
「いや、十分助けて貰ってるよ。というかたくさん助けて貰っているのに、さらにムーコに相談というか、頼みたいことがあるんだけど」
「あ、はい。なんでしょうか?」
「ムーコって刀も使える? もし使えるなら少し扱い方を教えてほしいんだけど」
一人で骸骨狩りをしていた時に、考えていた事がある。
ただ武器を持っただけの骸骨ならどうにか倒せるが、初日の『槍持ち』のような、強い骸骨を倒すのが難しい。ワナを使えばなんとかなるが、この世界で生きていく以上、まともに戦って勝てないと駄目なのだ。だから、武芸者のムーコに教われないかと考えていた。
「もちろん使えますが……それは武芸を、という意味ですか?」
あ、いや、そんな本格的にではなく………………、
いや────。
「うん。武芸を、という事でお願いできたらと思う。オレぜんぜん武芸経験のない素人だけど」
半端はダメだ。『生兵法、怪我の元』っていうし、万が一面山賊と戦うことになったら、本気でやらなきゃ到底戦えない。……本気でやっても無理かも知れないのだ。
「わ……私でいいんですか?」
「うん。ムーコ強いし」
ムーコは2Mゴロツキをあっという間に倒した。彼女の武芸の腕前は相当なものだと思う。骸骨だって、実際瘴気で体調を崩す前までは、おそらく全部蹴散らしてきてる。ムーコにお願いしたい。他に当てがないというのもあるが、あったとしてもムーコにお願いするだろう。彼女は、人として尊敬出来る。
「私が……」
ムーコがなにやら考える。
嫌だったろうか……。
「だ、だめかな? 無理だったらいいんだけど」
「い、いえ。無理ではありません。ただ、私は人に武芸を教える立場になった事がなかったので……。ですが、そうですね……わかりましたっ。私の全力を持ってお教えさせていただきますっ」
これまたキリッとやる気を見せて、胸元で両手をぐっと握るムーコ。
快く引き受けてくれた。
「ありがとうムーコ」




