53 骸骨槍
南区の換金所に着いた。
足が痛くて、前の倍。20分もかかってしまった。
オレはすぐに『黒い骨』2本と、『強かった槍持ち骸骨の黒い骨』1本と、そいつの持ってた『綺麗な槍』をカウンターに置く。
「あら、珍しい。『骸骨槍』じゃないの」
換金所のおねーさんが、『綺麗な槍』を見て言った。
骸骨槍と言うのか……。
「はい。みていただけますか?」
「もちろんよ」
おねーさんが鑑定器具を取り出す。
綺麗な槍……『骸骨槍』は珍しいのか……。 期待できるかも知れない。
ふむふむと鑑定していくおねーさん。
「あら、これだけちょっと強いわね。その肩、こいつにやられたの? だいじょうぶ?」
おねーさんが『強かった槍持ち骸骨の黒い骨』を鑑定しながら言った。
「はい。ちょっと油断してしまって……でも大丈夫です」
肩の血はもう止まっている。
「無茶しちゃだめよ? 武芸経験ないんでしょ?」
「はい。すみません」
素直に返事する。痛い思いもしたし、おねーさんの言うとおりだと十分に理解している。けど、今回は仕方なかったのだ……。
それよりも鑑定金額が気になる。
場合によっては消毒薬とか買える。
「はい。鑑定できたわ。合計600ポウよ」
………………え?
600……?
「骸骨だけでの値段ですか?」
「いいえ。全部の合計よ」
そう言っておねーさんは硬貨をオレに手渡す。
全部の……。
全部で600ポウ?
予想していた金額は、低めで見積もっても1800ポウはした。
百歩譲って『黒い骨』が3本だけで600ポウならわかる。
だが、『骸骨槍』を併せた合計が……600ポウ?
「あ、あの……すみませんが参考までに内約を教えていただけますか?」
「ええ。『黒い骨』がそれぞれ150ポウ、150ポウ、250ポウよ」
250!? あんなに強かった槍持ち骸骨が、250……。
死にかけたのに……。
「そしてこの骸骨槍が50ポウよ」
「50ポウ……」
これだけ綺麗な『槍』が、たった50ポウ……?
なんでだ?
「残念だけどぱっとみ綺麗な品でも、瘴気も濃いからね。それを除去するのにも手間がかかるし、細かい傷もついてるから値がつかないのよ。……もう少し値がつくと思った?」
「はい……正直」
「そっか。来たばかりのマレビトさんだったから、その辺もしっかり説明しておいた方がよかったわね。期待させちゃったみたいで、ごめんね」
「い、いえ……急いでいるのを配慮していただいたわけですので……すみません」
「そう言って貰えると助かるわ」
おねーさんはそう言ってほっとした表情を見せる。
でも……600ポウ。
ロープ買った時のおつりを併せて、620ポウ。
これじゃ『発熱うどん(700ポウ)』が買えない……。
しまった……。もうちょっと狩って来るんだった…………。
620ポウ。他に何か見繕って買っていくか?
……いや、駄目だ。
おじさんが、ふつうの食べ物だとイマイチだと言っていた。
『発熱うどん』が効果的なのだ。『発熱うどん』でなければ……。
せめて、それを一つは買っていきたい。
ムーコとナタリが二人で分ける事になるが、それなら温まれる。
だが、お金が足りない。また狩りに行くにしても、時間が厳しい。
あと80ポウ……。あと80ポウだけでも……っ!
「──!」
ふと、腰の退魔刀が目に入った。
そうだ。これを売ればお金になるんじゃないか!?
中央区へ逃げる途中、おばあちゃんにもらったものだ。
しかもでかい屋敷の部屋に、格好良く飾ってあったやつ!
頂き物を売ってしまうのは気が引けるが、この際仕方ない!
「あ、あのっ。退魔刀って、ここで買い取って貰うことって出来ますか?」
オレはすぐに聞く。
「退魔刀? 一応出来るけど……それ?」
「は、はい」
オレは退魔刀をカウンターに置く。
おねーさんが退魔刀を抜いて、刀身を見る。
「ああ……これは駄目よ」
「駄目?」
「ええ。だってこれ、国の支給品ですもの。値はつけられないわ」
「……支給品?」
「そうよ。ほらここに『ジド国』と銘が刻まれているわ」
おねーさんが示したところを見ると、確かにジド国とあった。
「武芸関係者やその近辺の人たちに無料で支給される物よ。国はいま、退魔師をやりたい人にすぐ始められるよう、こういうのも支給してるのよ」
そう……なんだ。
「だからこれは値がつけられない。ごめんなさいね」
「いえ……」
そういう事なら仕方ない。
おねーさんから退魔刀を返して貰う。
ていうかおばあちゃんがくれた刀、支給品だったのかよ。
オレに護衛させようと間違って渡した時『損こいた!』って言ってたのに……。
テント買うときに売った退魔刀が、そこそこ値がついたから期待したのだが……あれは支給品じゃなかったってことか……。
くそっ。
どちらにしても買い取ってもらえない。
ならばまた、骸骨狩りに行くしかない……。
せめてあと1体狩って『発熱うどん』一杯分は買えるようにならなければ……。
くそっ。判断を間違えた。
時間はもう8時をすぎる。テントを出てから3時間ほどだろうか。
二人が心配だけど、もう一度ダッシュで行くしかないっ。
迷っている暇もない!!
「ではまたっ」
オレは身を翻して出口へ向かう。
「ちょっと待って」
おねーさんがカウンターから出てきた。
なんだ?
「足、血が出てる」
「あ……」
おねーさんが、オレの足首の怪我を見る。
実は左肩の怪我よりもひどかった。昨日買ったばかりの草鞋が、半分血に染まってしまっている。
「これじゃ、満足に歩けないでしょう? ちょっと待って」
……手当してくれるのか?
でも、のんびりしている時間はない。
「すぐだから」
そう言って、おねーさんはカウンターから白い湿布のようなものを持ってきた。『治癒符』だ。ナタリの怪我に医者が貼ってくれたものと同じ。それをおねーさんがオレの足に貼ってくれる。
しゅわっと、一瞬痛む。
「肩は大丈夫ね。消毒だけしとこうか」
「すみません……」
おねーさんが緑色の消毒液らしきものをつけて、上からガーゼ的なものを貼ってくれた。
これは換金所の人の仕事ではないだろうに……。ほぼ初対面なのに、申し訳ない。
「本当にすみません。ありがとうございます」
「いいのよ。あと、よかったらこれを持っていって」
おねーさんが、腰につけたポーチから小さな布袋を差し出す。
なんだ?
受け取ると、ちゃりっと音がした。
はっとして、なかを覗くと、硬貨がどっしりと入ってる。
おそらく4000ポウ以上は……。
「これは……」
おねーさんを見る。
「お金は貸しちゃいけない『決まり』だけど、あげちゃいけないって『決まり』はないのよ。私のお昼代だけど、減量のために抜くことにしたからそれあげるわ」
「……おねーさん」
「お仲間さんに、『発熱うどん』を買っていきたいんでしょう? 早く持って行ってあげなさい」
そう優しく微笑むおねーさん。
やばい……。
この人、めちゃくちゃいい人だ!
ありがたくてありがたくて、つい涙が出そうになる……っ。
「──っ。ありがとうございます」
恩に着ます!
オレは深く頭を下げて礼を言う。
「お礼なんていいわ。急ぐんでしょ?」
「はいっ」
優しく微笑むおねーさんに、オレはもう一度頭を深くさげ、すぐに換金所を出た。




