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5 退魔刀




 さらっと、とんでもない事を言うビャクさん。

 戦えない者は生きていけないって…………。


 でも、()うとおりの(・・・・・)『別の世界』かも知れない。オレのいた世界では妖怪や、幽霊の存在は語られても、実際にあんなお面の奴や骸骨がいこつのような怪物はいない。……いないはずだ。


「っと」


 ビャクさんがまた何かを見つけ拾った。

 白い皿のように見える。今度はそれらを重ね、懐から出した紐で縛りだす。


「……戻る方法はないのですか? 元の世界に戻る方法は……」


 また着物女が尋ねる。


「ねぇな」


 ビャクさんはあっさり首をふった。

 え……ない?


「俺の知る限り、来っぱなしの一方通行だ。最初はみんな帰る方法を探すが、やがて諦めこの世界で生きることを考える」

「えっと、じゃあ、戻れる可能性とか……手がかりも何もないんですか?」


 オレも尋ねる。


「ねぇな。あれば、俺が聞きたい」


 そう言って軽く笑うビャクさん。

 マジかよ……戻れないってそんな…………。

 こんな化け物がいる世界になんて、いられるかよ。

 どうすればいいんだ?


 ていうかビャクさんも、その言い方……。まさか、彼も鳥居から来た人なのか?

 そもそもビャクさんって何者なんだ?

 化け物から助けてくれたけど、彼の言っていることの全てを、鵜呑みにしても良いのだろうか……。


「質問は終わりだ。詳しく知りたければ村で聞きな」


 村で……か。


「あ、すみません。最後にもう一つ──ビャクさんは、何をしてる人なんですか?」


 オレの質問でビャクさんから笑みが失せた。

 まっすぐオレを見てくる。

 ……怖い。尋ねちゃヤバい事だったのだろうか……。


 だがこれはしっかり聞いておきたい質問だ。

 返答の内容に関わらず、この質問でのビャクさんの反応自体が、彼の言ってることをどれだけ信じられるかの大きな判断材料になる。助けてもらっておいてなんだが、本当に信用していいのか判断したかった。


 だから……オレも目をそらせない。

 そして──僅かな沈黙の後、ビャクさんが口を開いた。


「……俺か。俺は『退魔師たいまし』だ。普段は黄泉よみがえりを狩っている。……これでいいか?」


 タイマシ? ……黄泉よみがえりを狩ってるって、職業としては猟師みたいなものだろうか。熊などが人里に出たときに駆除する、みたいな。


「わかりました。ありがとうございます」


 オレは礼を言って考える。

 彼は……つまらない嘘をつく人間じゃないな……。

 少なくとも、悪意は少しも感じられない。

 だとすると、あとは彼の言うとおり村へ行くしかないな……。


 村の人にも、元の世界へ戻る方法を聞いてみよう。ビャクさんの話しぶりでは、オレ達のように別の世界から迷い込んでくる人が少なからずいるみたいだ。だったら何か手がかりがあるかも知れない。

 それにあまりモタモタして、また化け物が来てもやばい。


「村に行くしかないみたいですね」


 ちらっと着物女を見ると、彼女がそう言った。

 それにオレは頷く。うん──村で元の世界に戻る方法を聞こう。


「よし。時間がねぇ。どれでもいい──武器をとりな」


 ビャクさんはあごで床を示して言った。


「どれでもいい……って」


 いいのか?

 あ……そういえば着物女に、かたなと傘を持ってもらってるんだった。

 オレが彼女の方を見ると、


「ああ、そいつはやめとけ。元々、骸骨がいこつのもんだ。……床に転がっているのもそうだな。足下の倒れてる奴らのを持っていけ。『退魔刀たいまとう』だ」

「退魔……刀?」

「切れ味はないが、その分()れねぇ。それに黄泉よみがえり相手には()()


 そうなんだ……。

 近くで倒れている人が手にしている『退魔刀』とやらを見ると、がない(・・・)。木刀の用に丸くなっている。金属製の木刀って感じだ。木刀よりはだいぶ薄いが、確かにこれでは刃物としての切れ味はないな。良く効く……という理由はわからないが、彼が言うのならそうなのだろう。


「では、こちらはここに置いておきますね」

「あ、うん。ありがとう」


 着物女の言葉にオレが礼を言うと、彼女は部屋の隅に骸骨がいこつの刀(オレがスーツの人から借りたもの)を丁寧に置いた。


 さて、どれでもいいって言われても……な。

 急いだ方がいいのだが、多くの刀は未だ亡くなっている人が握りしめている。しかも血だらけだ。

 それを取るのか……。


「なんだよ、行儀がいいな。遠慮する必要ねぇぞ。死人には必要ねぇものだ」


 ビャクさんが笑って言う。

 それでもオレがちょっと躊躇ためらってしまうと、「仕方ねぇな」とビャクさんが彼の足もとに倒れている人から刀をむしり取り、さやに入れてオレに放り投げてくれた。血がべっとり付いているやつだった。


「ほらよ、そいつでいいな。そんでそっちのお前は──」


 ビャクさんが着物女を見ると、彼女は既に武器を手にしていた。

 薙刀なぎなただ。

 オレの持つ退魔刀たいまとうと同じく、刃がついてないもののようだ。

 それも退魔刀・・・なのだろうか。


「私はこれをお借りします」


 彼女がそう答えると、

「──そうか」

 と、ビャクさんはにやりと笑った。


 そして次に


「お前は? 歩けねぇか?」


 ビャクさんが白金プラチナ少女に聞く。

 彼女はオレの背から降りて以降、ずっと床に座り込んでいた。


「……歩ける」


 びくっと震えてからと答える。


「なら、コレを持ってな」


 ビャクさんは彼女に短刀を一本渡した。


「よし。武器はこれでいいな。そんじゃ村へ行ってもらう上で、一つ頼みたい事がある」



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