43 屋敷
「なんじゃそれは。骸骨刀ではないか。こんなところまで持ってくるでない。ケガレるぞぃ」
縁側沿いで前を歩くおばあさんが言った。
穢れる……?
「かわりにこれをやる。ほれ、そいつは庭に捨ておけ」
おばあさんが座敷にあがり、床の間に置いてある刀を一本とり、オレに手渡した。上等そうな鞘に入った刀だ。少し抜くと刃がない。これもビャクさんが言っていた退魔刀というやつだろうか。言われたとおり、骸骨の刀は庭にぽいっと放る。
「そっちのおなごには、この『退魔細刀』じゃ。ワシが若い頃使っておったもんじゃ。軽いからおなごでも使える。ほれっ」
おばあさんに退魔細刀とやらを渡され、抱えるように持つナタリ。
「なんじゃおぬし。その刀の持ち方は。……もしかして戦えんのかっ!? 武芸経験は何年じゃ!?」
「え……あ、ありませんっ」
「まことかっ。……じゃあ、そっちの小僧はっ!?」
「あ、オレもありませんっ」
「なんと……っ! くっそ、損こいた。せっかくワシの護衛をさせようとしとったのに!」
「す、すみません」
護衛なんてとても出来ない。そういうことならば、受け取った刀は返した方が良いだろうか……。
オレがその旨を伝えると、
「いらん。一度やると言ったものを受け取れるかっ」
こちらにそう怒鳴って、部屋を出ていこうとするおばあちゃん。
「おばあちゃんっ」
ナタリが叫ぶ。
おばあちゃんの前方から骸骨が現れた。
大きく刀を振りかぶっておばあちゃんに斬りかかる。
だが、おばあちゃんはさっとそれをかわし、骸骨の刀を一瞬で奪い逆に斬り伏せる。
骸骨が、ぐしゃあっと崩れ落ちる。
すげぇ。なんだこの婆さん。
「しもた。骸骨刀なんぞに触れてもうた。ケガレちまうっ」
ぽいっと骸骨の刀を捨て、汚いものを触ってしまったように、手をふるふるするおばあちゃん。
「フブ兄!」
反対側から骸骨が障子を開けて襲ってきた。
「うわっ」
なんとか骸骨の刀を避けた。
──が、転んだ。
「っ!」
背後は壁。やばい。
逃げ場所がないっ。
「あんたらなにやってんだい!」
あっという間にナタリの刀をふんだくり、瞬時に抜刀。骸骨を一刀両断するおばあちゃん。
それで骸骨は動かなくなった。
だが、ほかにも障子の向こうに骸骨が見えた。
開け放たれている大広間。
その向こう側に五、六体はいる。
こちらには気づいていないのか、今のところは向かってはこない。
「くっそ、骸骨ども。勝手に人様の家に入ってきおってからに……。どこか門を閉め忘れたか……くっ、これだからでかい家は……。まぁ、どのみち籠城してもじり貧じゃろな。しゃあないわい。おぬしらは先に逃げい。ここはワシがくい止める」
おばあちゃんが、障子向こうの骸骨を見据えて小さく言う。
「表玄関の通りを右へまっすぐ行けば、中央区を守る壁にぶち当たる。そこを左に折れればすぐ門じゃ。中央区の『結界』は作用しとるはずじゃから、ひとまずそこまで行けば安心じゃ。行けい」
「で、でも……」
「これもなにかの縁じゃ。通りまでは助けてやる。玄関はあっち。行けい」
──『ギシャァァアアア!』
叫び声が頭に響いた。
骸骨だ。骸骨が縁側から来た。
障子向こうの、注意していた奴とは別の骸骨。
デカい。2M近くある。
刀も大きく、鎧も他の奴よりちょっと上等な感じ。
なんだこいつは!? 怖くて身体が動かないっ。
「なにぼさっとしとるんじゃ! 邪魔だよ! さっさとお行きっ!」
おばあちゃんが、オレ達とデカい骸骨の間に入り、刀を構える。
「す、すみません! でもおばあさんはっ?」
「あたしゃ問題ないよっ。百戦錬磨のチョン婆とはあたしのことさ」
百戦錬磨のチョン婆!? 知らんけど。すごい人なのか!? いや、実際すごいけど!
「ほら、さっさとお行きっ! アンタはその子をしっかり守ってやるんだよっ!」
「は、はいっ!」
おばあちゃんに言われ頷くオレ。
──ぐしゃあぁぁぁん!
いきなりデカい骸骨が何者かに粉砕された。
「む、だれじゃ!!」
おばあちゃんが怒鳴る。
骸骨が崩れ落ちた向こう──そこにムーコがいた。
全身あちこち黒くすすけており、転んだのか膝から少し血が出ている。
「あ、こちらでしたか」
ムーコがこちらを見て、安堵の表情を浮かべる。
「ムーコ、大丈夫か!?」
「ムーコ姉っ」
「はい。大丈夫です」
にこりと笑うムーコ。
「なんじゃお主らのなかまか」
「すみません、おばあちゃんのお家ですか? 勝手に上がらせて貰いました」
「かまわん。緊急事態じゃしの」
ぺこりと頭をさげるムーコに、ふんっと許しをやるおばあちゃん。
「さぁ! さっさと行きな!」
「では、私もここで」
障子の向こうの骸骨を意識して、薙刀を構えるムーコ。
「いらん! あんたも一緒についてってあげな! どうもこやつらだけじゃ安心ならん!」
「わ、わかりました」
ムーコはおばあさんの立ち振る舞いに武芸者特有の何かを感じたのか、彼女の心配はせずにすぐに了解した。




