42 逃走
「ムーコ、ナタリ!」
「あっ、フブキくんっ」
オレが戻ると、二人は既にテントを畳んでいた。
「フブ兄! なんか骸骨がいっぱいくるって!」
「ああ、オレも聞いた! 逃げよう!」
畳んだテントをオレが背負う。
「中央区という場所へ逃げた方が良いそうです。『国の結界が区ごとで別個に機能している』からと……」
ムーコが薙刀を抱えて、冷静にそう言った。
「あっちの方に、大きな壁で囲われている所が中央区だって! 行けばわかるって!」
ナタリが慌ててそう補足する。
なるほど。壁で囲われている中央区まで行けば、とりあえずは助かるってことか……。
「そうか。じゃあ、取り敢えずみんなについていけばいいよなっ?」
「そうですね」
「うん!」
オレ達はテント街のみんなが逃げる方へ、一緒に駆け出す。
だが、みんな早い。大部分の人たちはもう先に逃げており、オレ達は後発組になってしまった。人混みの大混乱のなかを逃げるよりは、安全だったかも知れないが……。
「来たぞっ! 骸骨どもだ!」
後方から怒声。
振り返ると、テント街に骸骨達がなだれ込んできている。
その数……10、20……30以上!
どんどん増える!!
何人もの武装した人たちが戦っているのが見えるが、数がぜんぜん違う。
あくまで、逃げるために戦っているって感じだ。
前方からも悲鳴が聞こえた。
オレ達が前の人達について行っているその先──右手側の路地からも骸骨が出てきた。ぱっと見だけで20体はいる。
多い。とても通り抜けできないっ。
「こっちだ」
迷っている暇はない。
二人を引き連れて、手前で右側の路地に入る。
くそっ。今日は走ってばかりだ。すでにきつい。
後ろから他の人たちも走って来てる。
出来れば土地勘のある人たちに先導してもらいたいが、彼らのそのすぐ後ろに骸骨達も追って来ている。そんな余裕もない。
ムーコとナタリがちゃんと来ているのを確認しつつ、何本もの道を、骸骨を見かけるたびに折れ曲がり走る。
何度目かの道を曲がったら、後ろにはムーコとナタリしかいなかった。
しまった……!
目指していた方角だけは見失わないようにしていたつもりだが──、間違えたか!?
「フブ兄! そこに隠れてるっ!」
ナタリが叫んだ。
物陰から飛び出し、いきなり刀を振るってくる骸骨!
「────っ!!」
髪が少し斬られた。
「フブキくんっ!」
ムーコが薙刀で骸骨に斬りかかるっ!
響きわたる金属音。
危なかった……。ナタリが教えてくれなかったら、咄嗟に下がらなければ──首を跳ばされていたかも知れない。
いやな汗がぶわっとあふれてくる。
心臓の鼓動が高鳴る。
ぐしゃめきっ!
ムーコが骸骨を叩き壊した。
「フブキくん、これを!」
彼女は倒した骸骨の刀を拾って、オレに渡す。
「私が殿を努めます。もしもの時はそれで……っ」
「わかった! すまん!」
そしてオレ達はまた走る。
──が、前の通りから骸骨が2体! 後ろからも何体か追ってきてる!
「私が退けます! 通り抜けてくださいっ」
ムーコが先に駆け、骸骨を2体とも相手する。
すごい。ムーコは初めて骸骨を見たときびびっていたが、刀が通じる相手と解れば、こんなにも戦えるのか。
オレとナタリは、ムーコがつくったスペースを通り抜ける。
そしてT字路を右に──は、少し離れたところに骸骨。左に曲がる。そして塀に囲われた通りを道なりに走る。一本道だ。それが右、左、右と折れて……嫌な予感がした。
次の左に折れている道に入って、それを知る。
──行き止まり。
「うそっ」
ナタリが焦る。
引き返そうとしたら、道の向こうから骸骨が2体来ているのが見えた。
「やばいっ骸骨が来てる」
「どうしよう」
道の周りは高い塀だ。とてもよじ登れない。
だが、塀に扉がついている。小さな扉だ。
お屋敷の勝手口というやつか!?
すかさず扉を引く。
「──ダメだ。閉じられている。開かないっ!」
「そんな……っ」
がしゃがしゃと、骸骨の鎧の音が近づいてくる。
もうすぐ、そこの角を曲がってここへ来る。
やばい。
近くに何かないかと探す。
一つだけ、握りこぶし大ほどの石が落ちている。それを拾う。
「ナタリっ。骸骨は2体だ。オレがどうにか通り抜けられるようにするから、ムーコのとこまで行くんだっ!」
「で、でもっフブ兄」
ナタリが心配そうに見てくる。
「任せろ。チャンバラは得意だ。この世界に来たばかりの日、神社でもやったろ」
オレは精一杯つよがりを言う。
だがナタリの心配そうな顔は変わらない。
「あ、でも、ムーコいたら助けに来て。それまでがんばるから」
「わ、わかったわ」
オレがそう言うと、了解してくれた。
骸骨が来た。
2体。──いや3体っ!
いや…………4体だ!!
刀持ってる骸骨が2体と、何も持ってないのが2体。
合計4体!
うそだろ!?
いつの間に増えた!? どっから増えた!? 重なっててわからなかっただけで、最初からそうだったのか!?
「ふ、フブ兄!?」
予定が違うとばかりに見てくるナタリ。
くっそ。どっせい!
オレは全力で石を投げる。
一番手前の骸骨の頭蓋骨が割れた!
いや……それだけじゃない。その後ろの骸骨の頭も割れた。
骸骨2体が倒れる。
這いつくばってぎしぎし動いているが、頭がないからか立ち上がれないでいる。
「……予定通り2体だ」
「うっそ。フブ兄すごいっ!」
まぐれだ。二度と出来るか。
他に使えそうな石もないし、あとはオレが刀でやるしかない。
骸骨が向かってくる。
「い、いくぞっ。なるべく引きつけるっ」
「う、うん!」
「こっちゃ入れ!」
えっ!?
背後から誰かの声が聞こえた。
先ほど開かなかった勝手口が開いて、そこからおばあさんが手招いている。
「ナタリっ」
「うんっ!」
オレ達は即、方針変更。ナタリが勝手口へ向かう。
オレも。と思ったけど骸骨が近い。来る!!
振り下ろされる刀にこっちも刀をあわせ──蹴っ飛ばす。
神社でもやったやつだ。上手くいった。
それでオレもすぐ勝手口に飛び込む。
入るとすぐにナタリが戸を閉じてくれた。
「けがはないか」
おばあさんが言った。
「ありません。大丈夫です」
「うむ。裏口を見に行って良かった。こっちゃあがれ」
おばあさんは屋敷のなかへ入っていく。
大きな屋敷だ。
オレとナタリは顔を見合わせて頷き、ついて行くことにした。




