4 ビャク
神社の中で、たくさんの人が死んでいた。
ざっと見て二、三十人。
あちこちに血が飛び散り、刀や鎧などが転がっている。
「こ、これは……?」
オレは白金少女を背から降ろし、ビャクさんに窺うように聞く。
「俺も全部見てたわけじゃねぇが、ほとんど『面山賊』の仕業だろうな」
「めん……山賊?」
「あの逃げたお面野郎の事だ」
あのお面の奴が……!
スーツの人だけじゃなく、こんなにも人を殺してたのか……。
「こんなところで遭遇する奴じゃないんだがな、こいつらは運がなかった」
ビャクさんが亡くなっている人たちを見下ろして言った。
「一体……なんなんですか? あの『骸骨』とか、その『面山賊』ってのは……」
「黄泉返りだ」
よみがえり……?
「……俺も詳しくは知らねぇが、死霊が永い時を経て実体化した存在だとよ。ここじゃそれを『黄泉返り』と呼ぶ」
死霊が実体化……よみがえり……。そんなのが? ……でも、確かにあいつの全身灰色の身体は、血の気がなく生きてるって感じがしなかった。骸骨に関してはいうまでもない。
「いいかお前等……死にたくなけりゃ、良く聞け」
ビャクさんがオレたち三人をジロリと見回す。
「骸骨が来た時も言ったが、あいつら黄泉返りは、人を見つけたら殺しに来る」
「殺しに……」
「そうだ。んで、そんな奴らがここらにはウジャウジャいる。森中をさまよってやがるんだ」
えっ……まじで?
あんな化け物がウジャウジャいんの!?
「つっても、ここら辺は骸骨ぐらいしか出ねーから、そこまで危険じゃなかったんだが……」
ビャクさんが亡くなった人達を眺める。
「面山賊……アイツは『黄泉返り』の中でもそこそこ強い癖に、やたらと徒党を組むメンドくせー奴でよ。ちょっとピンチになるとすぐに仲間を集めてきやがるんだ」
「仲間を……?」
「ああ、さっき逃げた奴も、おそらく仲間を引き連れて戻ってくる。最低5、6体は連れてくるはずだ」
5、6体も!
「まぁ、俺一人なら問題ねぇが、それでも一度に2、3体しか相手にゃ出来ねぇ……。つまり、今アイツが仲間連れて戻ってきたら、お前等三人は確実に殺されるって状況だ」
「──!」
確かに……。あんな化け物が何体も仲間をつれて来たら、やばい……。
「だからお前等は、少しでも早く安全な村へ行った方がいい。そこまでは理解ったな?」
「は、はい」
村が安全だと言うのなら、そうだろう。
「よし。お前は理解が早くて助かるぜ」
にやりと笑うビャクさん。
「あ、あの……あちらに私たちと似たような方々が」
着物女が、倒れている人達を指してオレに言ってきた。
倒れている人達は皆、ビャクさんと同じような武具を身につけている。だが着物女がさらに指し示す方を見ると、オレや彼女たちのように武装をしていない普通の服装の人達も、七人ほど倒れていた。
ビャクさんや、他の亡くなっている人達とは明らかに異なる衣装。
「もしかして……あの人達も鳥居から……」
「……ああ、言ったろ。お前等は運が良かったってよ。あと少し来るのが早かったら、お前等もああなってたって事だ」
オレが口にした疑問に、そうビャクさんが答えた。
そんな……。あと少し早かっただけで?
たったそれだけの違いで?
なんなんだ。なんでこんな事に……。
お面野郎と向き合った時の恐怖が甦ってくる。
「わかったな? いつまた奴が来るかわからねぇ以上、なるべく早く此処から出た方がいい。女……お前も聞きたいことがあるなら早くしろ。少しだけなら答えてやる」
ビャクさんは着物女にそう言い、倒れている人たちの中に分け入っていく。
そして何かを白いものを拾い、懐に入れた。何を拾ったんだろう。
「で、では……あの鳥居は一体、なんなのでしょうか?」
着物女がビャクさんに尋ねる。
そうだ、あの鳥居だ。あの鳥居のせいで、こんな場所に……っ。
「さあな……。稀にあるんだよ。『別の世界』とつながっちまう事がよ。そして、お前等のように迷い込んでくる」
「……別の世界?」
「ああ……受け入れにくいだろうが、お前等の居た世界と此処は、別の世界だ」
呆気にとられて呟く着物女に、なんでもないように答えるビャクさん。
別の世界って……。
いや、受け入れにくいことはない。
現に鳥居をくぐって見知らぬ場所に来た。
その際、時間にも天候にも大きな変化があった。だから明らかに異常な事が起きたのは解る。
そして、それを体験した以上、目の前の現実を疑うつもりはない。ないけど──
「別の世界って、この場合どういう意味ですか? 単に住んでいる地域が違うって意味のことですか? それとも、天国とか地獄とか、そういうレベルで別の世界って事ですか?」
オレもビャクさんに尋ねる。
言うまでもないが、前者と後者では帰還の望みが全く違ってくる。
はっきり確認したかった。
「その例えで言うなら、天国と地獄だろうな。距離が離れているって意味じゃあない」
……マジか。
「少なくともお前のいた世界と此処じゃ、ずいぶんと様子が違うんじゃねぇのか? 戦闘経験もねぇみてぇだしな」
「戦闘経験……」
「ああ、此処じゃ戦えない者は生きていけねぇからよ」




