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37 ムーコの下着



「いや、なければいいよ。一応聞いてみただけ」


 な、なにいってだこいつ……。


「しかし、私だけ何も売らないというわけには……」

「そういうのは気にしないでいいよ」

「でも、『助け合う仲間』……なのに」


 助け合う仲間……?

 あっ、この世界に来た当日、宿で握手した時のアレか……。

 おぉ……ムーコはそれを気にしてるのか。


「……助け合う仲間だからこそ、仲間が下着一枚になったらダメだろ? ていうか売るならどっちかといえば下着じゃね? 着物売っちゃうと、下着一枚でうろつく事になるぞ?」

「あ、そういえばそうですね……」


 ムーコは下唇に指を当てて納得する。


「では、下着を売ります」

「いや、だからいいよ。そこまでしなくても」

「でも、もしかしたら高く売れるかも知れませんよ?」

「高く売れたとしてもそういうのはいいよっ」


 何でこいつはそんなに売りたがるんだ……。薙刀は嫌がるくせに。それに下着なしだといろいろ困るんじゃないのか? 着物だけだと…………って、何でオレがそんな心配しなくちゃならないんだ。んー。あれ? でもそういえばブラって高い縫製技術が必要で、実は作るのは難しいってなんかで聞いたことがあるな。もしかして文化の違うこの世界では高く売れるのかも?


 あっ、でもブラってサイズとかあるよな。ムーコ、胸大きいから使える人が少なくてあんまり売れないんじゃ……。いや、そもそもムーコの下着ってブラなのか? こいつもオレとは違う世界から来てるみたいだし、下着の文化も違うかも知れないし…………って、何考えてんだ。


 長々とよけいな事を考えてしまった。

 首を振って変な思考を振り払うと、ナタリがオレをじっと見てた。


「な、なに?」

「別に……」

「そ、そう……」

「うん。ムーコねえの胸を見てるフブにいを見てただけ」


 ぐっ……。

 見てたっけ? ほとんど考え事してただけなのに……。

 ムーコを見ると、一瞬目が合う。

 そして、ぽりぽりと頭を掻きだすムーコ。ほんのりと頬が赤い。


 くっ……はずい。

 なんでオレがこんな恥ずかしがらなきゃならないんだ。ムーコが男のオレの前で下着を売るとか言うからだ。ふつう少しはそういうの遠慮するだろ。ムーコはちょっと変だ。


「ほかに何か売るものあるかな……」


 オレは気持ちを切り替えるべく考える。

 あと1000ポウ。あとそれだけでいいんだ。

 何かないか。何か……。


 オレはポケットのツナ缶を手に取る。……金にならないよなぁ。さすがに1000ポウになるとは思えない。

 でも一応、見て貰うか……。


 ムーコが前にいざという時に食べたいと言っていたので、一応許しを貰ってから査定して貰う。しかし、保存食で中身が見えないし、量も少な目なのでせいぜい100ポウデスとの事だったのでやめた。あと100ポウでテントが買えるならともかく、そうでないならツナ缶に興味津々だったムーコに食べさせてやりたい。


 ふと、ナタリの首のネックレスが目に付いた。先端は服の内に入れてるのでどんな装飾品がついているのかわからないが、売れるのではないか?


「ナタリそれはなに?」

「これ?」


 オレが尋ねると、ナタリは胸元からネックレスの先端部をだした。

 まん丸い銀細工のアクセサリー。太陽のようなシンボルが彫られている。

 ぱっと見で、髪飾りと同等かそれ以上の値がつくように思える。


「ふむ。良い品デスね。一目で10万ポウ以上はあると判断するデス。鑑定するデスか?」


 テント売りが目敏く品を評価する。

 おぉ10万以上。それを売れば、テントが買えるどころか当分の食事代も保つ。すごいなナタリ。こいつ実はお金持ち生まれか?


「いや、これは……」


 しかし、ここへ来て初めてナタリが返答に戸惑う。

 ……大切な物なのだろうか?

 ナタリに聞くが反応がない。彼女はネックレスをぎゅっと握りしめ、売ろうかどうか真剣に考えている。その表情に、悲壮なものを感じた。

 ……返答がなくても一目瞭然だ。


「ごめん。売らなくていいよ」

「えっ」


 オレが言うと、ナタリが顔をあげた。


「大切なものなら売らなくていい」

「でも……売らないともう他にお金になるものが……」

「お金なら、きっとどうにでもなるよ。でも大切な品は、手放したら二度と戻らないかも知れない。そういうのは売ったらダメだ」


 オレはそう言って、ムーコにも同意を求める。


「そうですね。あと1000ポウです。いざとなったら私の下着を売ればいいですから」


 ムーコはすぐいい返事をしてくれる。やっぱこいつ良い奴だよな。……ちょっと内容が変だけど。


「うん……わかった」


 それでナタリは首飾りを胸元へしまった。

 彼女の表情が安堵に変わる。

 うん、これでいい……。お金ならあと少しだ。


 ムーコじゃないけど、オレの服を全部売れば1000ポウに届くかも知れない。そして少しでもお金が余り、それで安い代わりの服を手に入れられれば……。うん。まずはオレの服がいくらか見て貰って、次にどこかでやすい服が売られてないか調べて買う。そうすれば──


「テント売りのねーちゃん。そのテントいくらだい?」


 いきなり知らない男が来た。なんだか小汚いおっさんだ。


「30万ポウデスよ」

「30万か……ありだな」


 えっ………………まさかこの人買う気?

 せっかく値が届きそうなのにここで買われたらやばい。

 物を売って宿に泊まれる金は手に入ったが、それではまたじり貧。仕事のないオレ達にとってテントは必須なんだ。


 オレとナタリはともに焦る。


「ふむふむ……いいテントだ。どうすっかなー」


 小汚いおっさんが迷ってる。

 ま、マジかよ……。


「なーんてなっ」


 えっ?


「はっはっは。兄ちゃんたちがあまりに必死なもんで、ちょっとからかっただけだ。買えるといいなテント。じゃあな~」


 小汚いおっさんは陽気にそう言って、口笛を吹いて去っていった。

 ……なんだあいつ。


「冷やかしデスね。気にしないデス」


 テント売りにそう言われ、ほっとするオレとナタリ。

 びっくりした。これが最後の一つなんだ。

 おっさんに買われたらおしまいだった。


「あ、あったあった。テント売りのねーちゃん。そのテントを売ってくれ」


 いきなり知らない男がテント売りに言った。

 腰に刀を下げている、武装した男だ。


「30万ポウデスよ」

「はいよ30万ポウだ」


 男がテント売りに金を払い、あっさりテントを購入した。

 その間、わずか数秒。


 最後のテントが買われてしまった。



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