31 6日目
この世界に来てから6日目。
『いざとなったら骸骨狩り』のいざとなってしまった。
「どうしよう……」
昼飯の向かい席で、スープに口をつけるナタリが弱々しく言った。
あれから2日半、借家と仕事を探しに探しまくったが、なに一つ見つけられなかったのだ。
「残りいくらある?」
オレもご飯を口に運びながら、ナタリに確認する。
「あたしは9400ポウ。フブ兄は?」
「オレは9600ポウ。合わせて……1万9000ポウか」
たぶんムーコの残金もオレ達と同じくらいだろう。つまり三人合わせてもせいぜい2万8000ポウ程度。
今夜の宿代はなんとかなるが、明日の宿代がない。
つまりこのままじゃ、明日は『退魔師宿舎の利用権』を得るために、骸骨を30体狩らなくてはいけなくなる。
そしてそれを成功させるためにも、今日これからムーコと骸骨狩りの練習をすることに…………。
まずった……。
完璧に、まずった……。
見通しが甘かったのだ。実を言うと、仕事くらいなんとかなると思っていた。
内心かなり期待していた換金所のダンディーさんにも、未だ行方知れずで会えてない。どうしたものかと頭を悩ませる。
ちなみにムーコはまだここに来ていない。
『ご飯処・よしの』を待ち合わせにして、昼までばらばらで『借家&仕事探し』をしていたのだが、彼女だけちょっと遅れてるようだ。
「どうすっかな……」
オレも本日3度目のどうすっかな、だ。
このままじゃ、骸骨狩りか、夜に居場所がなくて骸骨に追われるか、のどちらかとなる。
もう夜中に、何度も人の悲鳴を聞いた。
骸骨に襲われる人の悲鳴だ。
おかげで今朝などは、自分が骸骨に喰われる夢で目が覚めてしまった程だ。
「ごめんねフブ兄。あたし、仕事頑張って見つけるって言ったのに……」
ナタリが申し訳なさそうに言ってきた。
「あ、いや、それはオレも見つけられなかったし……しょうがねーよ。ていうか、こんなにも仕事を見つけるのが難しいと思わなかったしな」
「うん…………でもこのままじゃ骸骨狩りに……」
「……まぁ、そうだな」
ナタリは、オレとムーコにだけ危険を冒させてしまうことに、申し訳なさや躊躇いなどがあるんだろう。
しかし、ナタリまで一緒に行くことはできない。
骸骨狩りにあたって主な戦力はムーコだけで、オレは間違いなくお荷物だ。少しくらいは役立てるかも知れないが、おそらくそれ以上にムーコのお荷物となる。つまり、これ以上の負担をムーコにかけさせるわけにはいかないのだ。
幸いにも退魔師宿舎の三人部屋は、3人中2人が退魔師であれば良いとのこと。つまり、オレがリスクを冒せばいいだけの話。後はムーコがなんとかしてくれる。……女の子のムーコに頼るのは少し……というかかなり情けないが、この際、仕方ない。ムーコの腕前は相当だ。素人のオレは出しゃばらず、迷惑をかけないことに徹しようと思う。
思う……けど……、やっぱ怖い。
骸骨だけなら、逃げまどえばなんとかなると思う。アレはそんなに速くない。自信はある。
けれど、お面の奴……。面山賊は足も速そうだ。
遭遇したら逃げられないかも知れない。
たとえ戦っても、オレじゃすぐに殺されてしまうだろう。
つまり遭遇した時点で、アウト。
死。
神社で……目の前で殺されてしまったあの人のように────。
………………。
あの時の恐怖が蘇ってくる……。
いや、そんなことよりも、そんな状況になったらムーコはオレを逃がすために戦うのだろう。それが問題だ…………。
「……ま、気にすんな。なんとかなるよ」
オレは笑って答える。
きっとやりようはいくらでもある。
面山賊に遭遇しないように。しても大丈夫なように工夫すればいい。
……それにもしかしたら、ムーコが何か良い話を持ってくるかも知れないしな……。
うん。オレが深刻になればなるほど、ナタリも気が沈む。暗くなっても仕方ない。
「それより、せっかくのおいしい料理だ。味わって食べようぜ。ナタリはこれが好きなんだろ。少し食べるか?」
オレは自分のお膳にある『茶碗蒸し』を示す。『草食い鳥』という草ばかりを食べる鳥の卵で作った茶碗蒸しだそうで、なぜか日本の茶碗蒸しの2倍はまろやかでコクがある。
「……全部食べたい」
「……半分にしとけ」
欲張るナタリにオレはそう答えて、彼女のお膳に茶碗蒸しを乗っけてやる。
「代わりにこれあげる。フブ兄はこれが好きだよね」
ナタリが『小魚の煮付け』が入ってる小鉢をこっちによこした。
「いや、どっちかっていえば魚はあんまり好きじゃないけど……」
「そお?」
「ていうかこれ、おまえの口に合わなかっただけじゃね? なんか少しかじってあんだけど……」
「ふふっ。茶碗蒸しおいしい」
「聞けよ」
「ぜんぶ食べていい?」
「駄目に決まってんだろ。て……もう半分以上なくね? おいっ」
「そんなことないよ。ぱくっ」
「ぱくっ、じゃねーよ。今ので確実に7割はなくなってるだろそれ!」
「ふふふ」
オレの文句をまったく気にすることなく、茶碗蒸しを食べ続けるナタリ。
……ったく。
なんていうか、ナタリとは少し仲良くなった。
宿で夜寝る前に、オレの生い立ちや、この世界に来た時のことなどを話したりしたからだろうか……。まぁ、基本的に気のいい奴ではある。
……食い意地は悪いけど。
そして、ムーコとは、と言えば──
「あ、ムーコ姉来たよ。おーい」
ナタリが手を振って、店の入り口から入ってきたムーコを呼ぶ。
するとムーコがその場で叫んだ。
「ナタリちゃん、フブキくん、すぐに来てください!」
「どうしたのムーコ姉?」
「なに?」
「急ぎますから、説明は後ですっ。早く来てください!」
普段のんびりしてるムーコにしては、ずいぶん慌てた様子だ。
オレとナタリは、急いでテーブル上のものを口に詰め込めるだけ詰めて、席を立つ。だいぶ残りがもったいないが仕方ない。
お代を払ってすぐ店を出る。
「どうし──」
「こちらです。ついてきて下さいっ」
尋ねる間もなくムーコが駆けていく。
なんなんだ!?




