3 悼む
「だから逃げるなって言ったのによぉ……」
銀髪男が屈んで、スーツ男の死を確認した。
その表情が険しい。
このスーツの人を助けに来たのだろうか。
手足に武具を纏い、明らかに戦い馴れた男。
上は腰までのゆるい着物姿で、下は膝下までのハーフパンツ。日本の作務衣に近いだろうか。
「──で、お前等が最後の奴らか。運が良かったな」
彼が立ち上がり、俺たち三人を見てにやりと笑う。怖ぇ。目つきがやばい。ていうか最後の奴ら? 運がいい? どういう意味だ。
「いきなり言われてもわかんねーと思うが、お前等にはこれからすぐ村へ向かって貰う」
「……村へ?」
オレは疑問を口にする。
「ああ、その前に……社ん中に武器がある。ついてきな」
そう言って、銀髪の男は身を翻す。
「あ、あのっ、ちょっと待って下さい。私、鳥居をくぐったらいきなりこんなところへ来てしまって……ここは何処なのでしょうか?」
着物女が尋ねた。
「質問には答えてやる。だが、社ん中でだ。ここじゃ守りにくい」
そう答えて、神社の方へ歩いていく銀髪の男。
「いえ……その、鳥居をくぐって戻ろうかと……」
「なら、試してみな」
着物女のつぶやきに、立ち止まる銀髪の男。
「オレもそっちの子もくぐったんだけど、戻れなかったよ」
一応、オレも着物女に教える。
「……あなた方も、鳥居をくぐって此処へ来たのですか?」
「うん、不思議だけど……。オレが最初で、次にそっちの子、そしてすぐキミが来たんだよ」
「そうだったのですか」
「うん。でも試してみるといいよ。もしかしたら、キミは戻れるかもしれないし」
「……そうですね」
彼女はそう答えて「えいっ」と鳥居をくぐる。
──が、やはり駄目だった。
「戻れねぇと解ったらついて来な。のんびりしてたらまたお面の奴が来るぜ」
銀髪の男が再び歩き出す。
「わ、わかりました」
着物女がそう応え、
「……行くしかないみたいですね」
とこっちを見る。
オレはそれに頷いて応える。
──変なところに来てしまった。
地元の神社に戻れないし、状況も全くわからない。
でも、あの銀髪の男は何か知っている様子だ。ならば、いろいろ聞きたい。お面の奴も怖いし、ひとまずついて行くしかない。
「あ、骸骨が……っ!」
着物女が叫んだ。
見ると、倒した骸骨達から黒い煙が出ていた。
な、なんだこれ……っ。まだ動くのか!?
オレは咄嗟に身構える。
「……問題ねぇ。じきに消える」
離れたところで銀髪の男が言った。
様子を見ていると、彼の言うとおりすぐに消えた。
ただ煙だけでなく、骸骨の全身までもが、霞むように消えた。
残っているのは、骸骨が纏っていたボロボロの鎧と刀のみ。
……なんなんだ、いったい。
いや、とにかく神社へ向かおう。わからない事だらけだ。
──っと、白金少女が、腰を抜かしているんだった。彼女も連れて行かなければ……。
「ごめん。一応、この刀持ってて貰っていいかな? あとこの傘も」
オレは傘を拾い、刀と一緒に着物女におねがいする。
「はいっ」
着物女は快く持ってくれた。
そしてオレは白金少女のそばに行く。
びくっと身を堅くする少女。なんかひどく脅えている。こちらを見ようとすらしない。
……まぁ、無理もないか、目の前で人が殺されたんだ。オレだって怖い。
「あのさ……一緒に神社までいこ? ここにいても危なそうだし」
オレは白金少女の前にしゃがんで、なるべく優しく言う。
震えている彼女が、ゆっくりとこちらに向き────その瞳がまっすぐオレを見る。
「……大丈夫?」
オレはゆっくり尋ねる。
…………こくり。と、彼女は頷いてくれた。
「立てる?」
オレは手を差し出す。
しかし、ふるふると首を振る少女。
すっかり参ってしまってるようだ。
…………仕方ない。
「じゃあ乗って」
オレは白金少女を背負う為、片膝をついて背を向ける。
彼女が躊躇う。
「急ごう。たぶんあの人から離れない方がいい」
「でも…………脚に力が入らない」
彼女が弱々しく言った。
確かに……見た感じ全身脱力状態って感じだ。腰が抜けると全然力が入らなくなるのか。これは一人じゃ難しいかも。
「ごめん。手伝ってもらっていい?」
オレは着物女に頼む。
「あ、はいっ。もちろんです」
彼女はすぐ側に来て手を貸してくれた。
それでなんとか白金少女を背負うことが出来た。
少しおしっこで背中が濡れるが、それどころじゃない。
すぐに着物女と共に、銀髪男の後を追う。
「……此処じゃ、他人を気遣ってる余裕はないぜ?」
ちょっと先で待っててくれた銀髪男が、追いついたオレに言う。
背中で、僅かに白金少女の身体が強張ったのが解った。
「……オレはフブキっていいます、お兄さんは?」
「ビャクだ」
ビャク? 変わった名前だな……。
「よくわかりませんが、助かりました」
オレは、化け物達から助けてくれた礼を言う。
「気にするな。ついでだ」