29 相談
「なるほど、お仲間さんは骸骨30体は狩れそうだけど、面山賊はきびしい。だから、どうしようか迷ってるのね」
「……はい」
おおよその説明をしたら、女店主はすぐに理解をしめしてくれた。
「良くあるのよねーそれ」
「そうなんですか?」
「うん。骸骨と面山賊の力の差が結構あるからね。同時に、骸骨なら狩れるけど、面山賊は無理ってね。新人退魔師の最初の壁ね」
「そんなんだ……」
「2択よ。リスクを承知で退魔師をやりながら腕を磨くか、一般職で生きるか……。そのどちらかね。住む場所さえあれば、一般職をしながら腕を磨くって方向もあるけど、一般職だって簡単じゃないからね。財産やよほど商売の才がある者ならともかく、ふつうは生きていくのがやっとよ。二足の草鞋は現実的じゃないわ」
「そうですか……」
2択……。
それも、職が見つからなければ結局は退魔師か。
「ちなみにおねーさん的には、どちらがオススメですか?」
参考までに尋ねてみる。
すると彼女の表情が険しいものになった。
「……むずかしいわね」
彼女がオレの身体を見て言う。
「そうですか……」
まぁ、さして鍛えてない小さな身体だ。むずかしいのだろう……。
「あ、そうじゃなくて…………うん。オススメは退魔師よ。こんなご時世だし、最近は何かと優遇されてるみたいだからね。アタシはそう思う。特に、オニーサンみたいにツテも財産もないマレビトなら尚更ね。たぶんこの国に住んでいるほとんどの人がそう答えると思うわ。……ただ……そうね…………」
彼女が考え込む。これまで饒舌だった彼女らしくなく、なにかを言いよどんでいる感じだ。
「……どうかしたんですか?」
「うん……」
うん、て……。なぜか急に彼女は上の空だ。
「……やっぱり、知っておいた方がいいわね」
しばらく黙ってた彼女が顔を上げて言った。
知っておいた方がいい?
「アタシ、最近まで退魔師やってたのよ」
「えっ! そうなんですか!?」
「うん……。果物拾ってくれたお礼と、疑ったお侘びね。見せてあげる」
そう言って彼女は身につけていたエプロンをとり、こちらに身体を向け……おもむろにズボンを膝まで下ろした。
当然、下半身は下着だけになる。
「な、なにを…………」
びっくりしてオレは目をそらす。
「いいから。ここを見ときな」
「で、でも……」
「いいから」
なんなんだと、ちらっと見たら──目を奪われた。
「……っ!」
彼女の足の付け根に、傷跡。
それもかなり大きい。
明らかに、相当ひどい怪我だったことが伺える。
「退魔師薦めておいてなんだけど、危険な仕事だからね。本当だったら武芸経験のない者に薦めるべきじゃないのかも知れない。でも、こんな時勢だしそれもね……。だからせめて同じ失敗はしないように、参考にしとくれよ」
彼女が優しく言った。
「……これは、どうしたのか、聞いてもいいですか?」
「面山賊よ」
「……っ!」
「いつもならどうにか出来る相手だったんだけどね、その時ばかりはいくつか不運が重なってさ。ま、今振り返ると色々無茶もしてきたもんだから、命があるだけアタシは幸せなのかも知れないな」
「……歩くのは?」
「一応ね。走ることは、出来ない。だから引退した」
「そうですか……」
「おかげで上手く隠すことも出来ず、悪ガキ共に目付けられて、店番も満足に出来やしない」
困った感じで笑うおねーさん。
「……疑って悪かったね。ちょっと病んでたかも知れない」
おねーさん……。
「いえ……」
「それはそうと……いつまで見てる気?」
「えっ……あっ! すみません」
オレは顔を逸らす。
びっくりして見過ぎてた。
たぶん顔が赤くなってる。恥ずかしい。
「ウブだね」
女店主はズボンをあげながら笑った。
……いや、だったらさっさと履けば良かったじゃないか。




