28 女店主
「……よくあるんですか? さっきの」
女店主の疑いがやたら強かったことから、なんとなく思った。
「ん……ああ。ここんところしょっちゅうなんだ。奴らアタシが一人の時をねらって来やがる」
そうなんだ……。普段は何人かでお店やってるのかな。
「オニーサン、これよかったら貰っておくれ。疑ってしまったお詫び」
そう言って女店主は果物をいくつか袋に入れだした。
「い、いや……いいですよ」
「そんなこと言わずに……」
そうは言っても……。
ここで果物を受け取るのも、なんかちょっと……。オレは少し拾うのを手伝っただけだ。多少疑われたとは言え、物を受け取るほどのことはしていない。悪ガキにもたくさん取られちゃってたし、なんか悪い。
「いえ、本当にいいです。お気にせず」
「そ、そうかい……」
少ししょんぼりとして、果物の袋を置く彼女。
あ、……はっきり断り過ぎて失礼だったかな。ありがたく受け取るべきだっただろうか……。
「お気持ちだけ頂いておきます。それでは」
オレはぺこっと頭を下げて立ち去ることにする。
「……用があると言ってたね。急ぎなのかい?」
「いえ、そういうわけではないんですが」
「なんだい? よかったら聞かせておくれよ」
「えっと……。仕事と借家を探してまして」
「仕事と借家? ……アンタも移民かい?」
「移民?」
「違うのかい? ん……もしかしてマレビトさん?」
「あ、……それです。なんかそう呼ばれてます」
「そうだったのかい…………どうりで変わった身なりなわけだ。ちょっとオニーサン、こっち入っておいでよ」
「えっ?」
「ほら、横から入れるから。話聞かせとくれよ」
女店主は屋台の内側にこいと言う。
言われるがままに従うオレ。あんまりのんびりしてる余裕はないんだけどな……。
大きな暖簾をくぐり中にはいると、イスを薦められた。
おねーさんは店を構えてるので立ったままだが、ここでオレも立ちっぱなしというのも落ち着かない。言われたとおり座る。
「うん……今思えば盗っ人のガキどもとも全然タイプも違うね。アタシもどーかしてたわ。そうかマレビトさんだったか……」
ちらりとオレを見て、なるほどと言った感じでつぶやく彼女。
そして、「いつこっちに来たんだい?」──と尋ねてきた。
こっちと言うのは『この世界』に、という意味だろう。
「二日前の夜です」
「二日前!? そりゃ大変だねぇ……。今、住む場所やお金はどうしてるんだい?」
「えっと……いろいろと人に助けていただいて、あと3日ぐらいなら旅館でどうにかって感じです」
「そうかい…………」
なにやら考え出す女店主。
あ、まさか雇ってくれたり、住む場所のことを考えてくれてるのかな?
「うーん、オニーサン悪い人じゃなさそうだから、住む場所をどうにかしてあげたいけど……あいにくアタシは移民でさ。お世話になってる口なのよね。しかも、そこも今はちょっとばたばたしてて余裕もないし……仕事の方も、人を雇えるほどの収入もないからねぇ……」
「……そうですか」
抱いた期待はあっさりだめとなった。
「力になりたいんだけど……」
困った感じの彼女。でも善意がうれしかった。
「いえ、お気持ちだけで。ありがとうございます」
自然、笑って答える。
「アンタ…………。ん? アンタ、それもしかして退魔刀じゃないの?」
女店主がオレの後ろ腰に差している刀を見て言った。
「えっと、たぶんそうです」
「たぶん? オニーサン、知ってて持ってるんじゃないのかい?」
「……知ってて?」
「知らないのかい。どうやってその退魔刀を手に入れたんだい?」
オレは神社でこの刀を手に入れた経緯を、簡単に説明した。
「なるほどね。だから退魔刀を持っていながらも、一般職を探してたってわけか……」
「どういうことですか?」
意味がわからなかった。
「オニーサン、退魔師をやればいいよ」
「え、退魔師を……?」
「そう。退魔師はわかる?」
「一応少しは……骸骨を30体狩ればなれるって聞きましたけど……」
「なんだ。知ってるじゃない。そうよ。骸骨を一日30体狩れれば退魔師になれて、『退魔師宿舎』が利用できる。オニーサンにぴったりじゃない」
ぴったり…………。
「いや、でも僕、戦えないので……」
「そうなの? 武芸経験とかは?」
「ありません」
「そっか……じゃあちょっとハードル高いかなー……」
「はい。……ですが、同じ時にこの世界に来た仲間から誘われてます。仲間は結構戦えるみたいなので……」
「そうなんだ。それで迷ってるわけね。そっかー。うん。アタシが相談に乗ろうか? その道にはちょっと詳しいわよ」
「えっ、いえ別に……」
「遠慮することないわよ」
「そういうわけでは……」
「いいから言ってみなさいっ」
……相談することとなった。




