27 疑い
「どうしよっかな……」
町を歩きながら考える。
ムーコと一緒に、危険を冒して骸骨狩りをするかどうか……。
──『フブキおにーさん、無理しなくていいからね。あたし、頑張って仕事見つけるから』
宿を出る前に、ナタリがそう言ってきた。
彼女なりに思うところがあったのだろう……。
確かになにか良い仕事や、住む場所が見つかればそれで良い。
だけどなかなか見つからない。
みんな生きるのに必死で、何の技術もないオレみたいな子供が仕事につくのは難しいのかも知れない。
すでに昼過ぎになり、
「空いてない。満員だよ」
「仕事に就いてないなら貸せないな。どのみち満室だけど……」
「料理つくれる? じゃ、駄目だ」
「経験ないなら無理だよ。うちじゃ、それが最低雇用条件だ」
「……退魔師やったら?」
というような言葉を何度もいただいた。
残りのお金を考えるに、あと3日……。今夜、明日、明後日までの宿代はあるが、その次からはない。
つまり、今日から明後日までの間にどうにかしなければ、その翌日は危険だろうとなんだろうと、骸骨を30体狩って宿舎を借りるしかなくなる。
「どうしよう……」
どうすれば仕事が見つかるのだろうか……。
露店の賑わいを見ながら考える。
…………あ、もしかして自分も何か商売すればいいんじゃないか!?
そうだっ。
これだけみんな商売してるんだ。
雇ってもらうことばかり考えていたが、ようはお金を稼げればいいのだ。間違っていた。
日本の一般常識に洗脳されてたと言えるかも知れない。
よし……そうと決まれば、ムーコ達と合流して相談してみるか。
「あっ、こら! なにすんのよ!」
ちょうどすぐ目の前の屋台から怒声。
そこに陳列している大きな籠が倒れ、大量の丸っこい果物らしきものが道に転がる。
ある果物は通行人に蹴飛ばされてさらに転がり、ある果物は誰かがさっと拾って立ち去る。
……ん? よく見るとさっと拾って走り去る者が多い。しかも皆、子供達だ。……こいつら。
店主らしき女性がそれらを見て怒鳴り散らすと、蜘蛛の子のようにちれぢれにばらけ逃げていく。おおっ……早い。
さらに驚いたのは、女店主がそっちに気をとられている隙に、店の他の果物をさっと手にして走り去る子供達。
……すごいな。
ていうか結構盗られちゃってる。なんか女店主がかわいそうに思えてきた。
果物はオレの足もとにも二つ三つ転がってきてたので、拾って女店主に渡す。
「え……?」
彼女が驚いた反応をした。
行きがかり上、残りも拾うのを手伝った。
◇
これで全部かな……。
最後の果物を籠に入れる。
そんなオレを女店主がじっと見てくる。
「…………」
なんか観察されてる?
なんだよ……? 礼を言えとはいわないけれど、なんか言ってよ。……気まずい。
「……災難でしたね」
気まずさからオレから一言話す。
そして軽く会釈して立ち去る。
本来オレは口ベタで、話すのが苦手なのだ。
状況的にしゃべらなくちゃいけない時はがんばるけれど、そうでもない社交的な場では何を話していいかわからなくなる。
「待て……」
後ろから女店主に呼び止められた。
振り返ると、また彼女の観察するような目。
彼女は美人だけど…………美人だからこそか、じっと睨まれると怖い。
な、なんだよ……。
「アンタもグルか?」
ぐる……?
「善人面して……あわよくば礼に果物を貰いたかった? ……厭らしいねぇ」
一瞬言っている意味がわからなかったが──理解した。
彼女は、オレが果物を奪った子供たちと仲間なのではないかと疑っているのだ。なるほど……。そういう発想はなかった。
しかし完璧にぬれぎぬなので、ちゃんと否定しておく。
「違いますけど……」
「ふうん……」
なおも疑ってくる女店主。
見下す感じで見てくる。
「じゃあ……お礼にいくつか果物をあげましょうか?」
試すように嘲り笑う彼女。
少しイラっと来た。
なんだよ。拾ったのにこの仕打ち……。
「いりません。……用があるのでもう行きますね?」
オレは背を向けて立ち去る。
「……待って!」
尚も呼び止めてくる女店主。
「……なにか?」
「本当にグルじゃないの?」
…………はぁ。ため息が出る。
「違いますよ。それじゃ」
オレはそれだけ答えて立ち去る。
するとさらに声をかけてくる女店主。
オレはもう相手にしないことにした。
足を止めずに無視する。正直めんどくさかった。
「まって! ごめん! アタシが悪かった! おねがいだから待っておくれよっ!」
なんなんだ……。仕方ないので待つ。
「……ちょっとこっちへ来ておくれ」
…………女店主は店を離れられないらしい。
お願いとばかりに手を合わせる彼女。
仕方ないので店の前まで戻ることにする。仕方ないばっかだなオレ。弱ぇ。
「悪かった。こんな時勢だから疑っちまった……。すまない」
店前に戻ると、彼女が謝ってきて頭を下げる。
当初のいやな感じは一切なく、本気で申し訳なく思っているのが解る。
「……いいですよ。疑いが晴れてくれれば僕はそれで」
仕方ないので軽く笑って伝える。
「────っ。オニーサンみたいな人を疑うなんて、アタシは本当に自分が情けないよ。……ごめんなさい」
女店主はなぜか少し哀しげに言って、また深々と頭をさげた。
そのまま動かない。こんな本気で謝られるのも困る。
「あの……もう気にしてませんから」
そう答えると女店主は「ありがとう……っ」と、頭をあげてくれた。




