25 ムーコの提案
「フブキくん、私と一緒に骸骨を狩りに行きませんか?」
ムーコが朝食を食べながら聞いてきた。
「えっと……骸骨を?」
オレは彼女の唐突な話に聞き返す。
「はい。実は骸骨を一日30体狩れれば、『退魔師宿舎』というのを使わせて貰えるそうなんです」
「退魔師……宿舎?」
「そうです。家賃は一般的な相場の十分の一くらいだそうです。今朝、お風呂が一緒になった人たちが教えてくださいました」
そうなんだ。
相場が十分の一ってのはいいな……。──ってそうじゃなくて、
「退魔師宿舎ってことはつまり、その……『退魔師になる』って事? ビャクさんのように?」
「そうなります。一日30体狩れれば、退魔師になれるそうです」
一日30体……。
あの刀を思いっきり振るってくる骸骨を30体も…………。
「これから行きませんか?」
「これから!?」
「そうです」
……ほ、本気か?
「ナ、ナタリも行くのか?」
「いえ、ナタリちゃんにはお留守番してて貰います。『三人用の宿舎』は、3人中2人が退魔師なら借りられるとの事なので……」
「そうなんだ……」
それならその方がいいよな。ナタリまで危険な目にあうことはない……。
ちらっと見ると、ナタリが一瞬何かを言いだげに口を開いたが、俯いて黙る。
「ですから、フブキくん次第です」
「! …………」
「フブキくんが私と一緒に骸骨狩りに行ってくださるのでしたら、私は全力をもって骸骨30体を狩ってみせます」
おお……。
「そして、もちろんフブキくんの事は、武芸者として私がお守り致します」
ムーコ……。
「ですが……」
そこでムーコは目を伏せた。
で、ですが……、なんだ?
「『面山賊』というあのお面の怪物と遭遇したら、フブキくんの安全はお約束できません」
面山賊……あのスーツの人を殺し、ビャクさんと戦ってた奴。
「ムーコは、面山賊は倒せないってこと?」
「はい……。難しいと思います」
難しい?
「それはつまり、面山賊にはムーコもやられるかも知れないってこと?」
「はい。おそらく……。あ、もちろんフブキくんが逃げる間だけでも、時間は稼ぐつもりですが」
「いや、それはムーコ逃げてよ」
「そうはいきません。武芸者としてお守り致します」
首を横に振って言うムーコ。相変わらずかっこいい奴だ。
でもムーコはわかってないな……。
そんな状況で、男が女の子置いて逃げられるわけがないのだ。
「ですからフブキくん次第です。もちろんぜんぜん無理にとは言いません。危険がつきまとうことですし……」
オレ次第か……。
どうする?
たぶんムーコなら、骸骨30体を倒すことはやりとげそうだ。
2Mトリオを一蹴したムーコだ。たぶんやれるだろう。
けれど、問題は面山賊。
あれに遭遇したらやばい。選択は逃げの一手。
そうなれば、今さっきムーコが言ったような状況になる。
「ん? 骸骨を狩りに行くとしたら場所は? 決まってるの?」
「はい。一応、骸骨が彷徨いている森を教えて貰いました」
「そこは、面山賊はでるの? 遭遇する確率とかは……」
「基本的に出ないそうです。というより、この国の周辺は骸骨しかいないそうです。ですが、私たちが来たヒスイ神社も元々は面山賊がでるところではなかったそうなので、絶対とは言えない──と」
「そうなのか……」
まぁ、こういうとき確率で動くのは違うな。最悪の状況を想定して動くべきだ。
たとえば、もし、面山賊と遭遇したとしたら。
そしてそれが、一体でなく複数体だとしたら──。
囲まれて、逃げることも出来ないかも知れない。
………………きついな。
オレはともかく、きっとムーコはオレを逃がそうと戦うだろう。
だとしたらただじゃ済まない。……危険すぎる。
でも、骸骨30体狩れば宿舎。
ナタリも入れる。
とりあえず住む場所さえクリア出来れば、しっかりしてそうなナタリのことだ……良い仕事を見つけて安全に働けるだろう。
………………。
「そういえば、そもそも骸骨って……黄泉返りって、倒しちゃってもいいのかな?」
ふと、疑問がわいた。
「えっ……」
ムーコがきょとんとした。
意味が分からないと言った様子だ。
「えーっとさ、退魔師って仕事さ、黄泉返りっていう……なんだっけ、悪霊が実体化した存在ってのを倒す仕事みたいだけどさ……本当に倒しちゃって良いのかなって思って」
「良いも何も……襲ってくるのですから仕方がないのでは……?」
「そう……だけどさ……。ただ襲ってくるから倒すってのはちょっと……。そりゃ神社の時のようにいきなり襲われたら仕方ないけど、これから仕事としてやるのなら、他に解決策があるのかも知れないし……もうちょっと詳しく知りたいな──と」
「…………」
オレの言葉に、ムーコは困惑した表情を浮かべている。
……説明が足りないか。
「えっと、そもそも『悪霊が実体化』って、どういうモノなのかはいまいち解らないないし……よく解らないモノを容赦なく退治するのも気が引けるというか……」
「あ、なるほど……。言われてみれば、確かにそうですね」
伝わったようだ。ううむ……と、ムーコが考えだす。
「それは心配いらないよぅ」
背後からの声に振り向くと、そこにおばあちゃんがいた。




