24 二日目の夜
夕方、ムーコ達と待ち合わせ場所としていた『ご飯処・よしの』(昨日、夕食を食べた店)へ行った。
しばし店の前で立ってると、通りの向こうからムーコとナタリが来るのが見えた。見た感じ表情は明るくない。二人とも断られまくったのだろうか。
……ていうか顔色が悪くないか?
「どうしたの?」
「その……路地で人の死体と……それを片づけてる方に会いまして」
二人に尋ねるとムーコが答えた。
「ムーコ達も……見たんだ」
「フブキくんもですか?」
「うん……夜中に骸骨に襲われたって言ってた」
「私たちもです……2体見ました」
「え、2体も!?」
「はい……」
小柄の男も日常茶飯事と言っていたが、そんなあちこちにもなのか……。
「あの死体を片づけてた人達、『住む場所がないと一晩だって無事に過ごせない』って言ってた……」
ナタリがぽつりと言い、ムーコも
「夜中に骸骨がうろつくなんて、換金所の方は言われなかったですよね……」
と、オレに確認するように言った。
「そうだね……言い忘れたのかもね。住んでる当事者にとっては当たり前すぎた事かも知れないし……」
オレがそう答えると「そっか……」とナタリがつぶやき、それきり三人ともしばし黙り込んでしまう。
「あ、仕事とか借家はどうだった?」
オレが気持ちを変えるべく二人に聞く。
「ううん。ダメ。どこも断られた」
あっさりナタリが首を振って答える。
うっ、やっぱりか……。
「ムーコも?」
「はい。どこも駄目でした」
そうか……。
「てっきりムーコは国の『門番』とか、武芸を活かした仕事が見つかると思ったけど……」
「それが、一目見て『ひよっこはいらん。道場へ行け』って言われました……屈辱です」
薙刀を持って身体を震わすムーコ。
「そうなんだ……なんか不親切な対応だね。昨日この国に来たときの門番さんに聞いたの?」
「いえ、そのお方はいませんでした」
「そうなんだ……」
彼がいたら『伝言を伝えてくれたマレビト』って事で、そんな邪険にされなかったかも知れないのだが……。まぁでも、一応プロの傭兵だろう彼らに断られたって事は、ムーコの武芸は仕事としては通用しないって事なのかも……。いや、でも2Mトリオを一蹴したし、ムーコすごいと思うんだけどな。なんで駄目なんだろう。武芸のぶの字も知らないオレには分からない。
「……フブキくんはどうでした?」
今度はムーコが聞いてきた。
「オレもダメだった。あたった所どこも断られたよ」
「そうですか……あっ、城門を修復するお仕事はお聞きになりました? 此処に来るとき、まだ忙しそうにしていましたが……」
「『忙しいが素人はいらん』って言われた」
「そうですか……」
「とりあえず日も暮れてきたし、今日はもう夕食をとって早めに宿に入ろか。それで今後の事を考えよう」
「うん」
「そうですね」
オレが提案すると二人とも賛成したので、そういう事となった。
◇
一日中歩き回った疲れもあってか、夕食はそのまま『ご飯処・よしの』で済まし、昨夜と同じ『紅葉宿』に泊まった。
宿は三人、意見一致ですぐに決まった。
やはり昨日、女将が二部屋を食事代のみで提供してくれた事が大きい。
昨夜と同じようにそれぞれ風呂に入り、それから部屋で話し合いとなった。
ちなみに部屋は、二階にある三人部屋だ。
ムーコが、「やっぱり一緒の部屋にしませんか」と提案したので、それに従った。
夜中に外にいたら、町の中でも黄泉返りに襲われる。事情が大きく変わったのだ。
ナタリも了承済みのようだったので、もうオレとしても異論はない。
金銭的にも別々で泊まるより1万ポウも安いので、助かるところだ。
だが話し合いの方は、2~3時間話しても何も借家や仕事を得る良いアイデアは出ず、明日も今日と同じように、とにかく沢山あたって探すという結論になった。
歯を磨き、押入から布団を出して並べる。
四畳半なのであまり意味はないが、オレの布団だけ少し彼女たちから離した。
「どうしてフブキくんだけお布団を離すんですか?」
えっ?
どうしてってそんなの……。
「あ、もしかしてフブキくん、寝相が悪いとか?」
口に手を当て、ふふふと笑うムーコ。なにこいつバカなの?
見ればナタリもムーコの言葉に『えっ』てなってる。
まあいいや。
「いや、ムーコが寝相悪そうだからな、蹴られたらたまらんから距離とってんだよ」
「なっ。私は寝相悪くありませんよっ」
「どーだか。あ、火消すよ? おやすみ」
ムーコを適当にあしらって行灯の火を吹き消す。
「あ、はい。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
……疲れたし、さっさと寝るに限る。
「あっ……見てくださいっ」
まだ布団に入ってなかったムーコが、窓辺で外を指し示す。
なんだよ……。
起きあがって見に行くと、眼下に大量の骸骨が歩いていた。
一、二、三……四、五、六、七………………おそらく目の前の通りだけでも、三十体以上の骸骨が蠢いている。なんだこいつら……。
「ひっ」
ナタリがびくつく。
昨日は気づかなかったが、夜中、外はこんなことになるのか……。
しばらく見てると、どうやら骸骨は建物には入れないらしく、どこともなくただひたすら彷徨い歩いているのが分かった。
「……だいじょうぶ。中には入ってこない」
オレが青ざめているナタリに言った。
「うん……」
彼女が頷いた瞬間、何処か遠くで悲鳴のようなものが聞こえた気がした。
「今……」
ナタリが何か言いかけたが、首を振ってやめる。
「もう寝よう。大丈夫。早いとこ借家を見つければいいんだ」
「うん……」
「そうですね、もう寝ましょう」
そうして、この世界に来ての二日目が終わった。




