23 仕事と借家
「……っ!」
血は乾いているが、そんなに古くない。
まるでなにか、獣にでも食い散らかされたような損傷具合。酷い。なんだこれは…………。
あまりの有様にオレは目を背ける。
「ちょっとお兄さん」
背後からの声に驚いた。
振り返ると、黒色の作務衣のようなものを纏った男が三人。
ぱっと見で皆、五十歳以上のおじさん達だとわかる。
「そこをどいてくれるかい? そいつを片づけなきゃいけなくてね」
先頭の一番小柄な男に言われ、オレはすぐ道の端にどく。
すぐに三人がその遺体のもとへ行き、なにやら布袋を取り出し、片づけ出す。
「あの……その人は……?」
「ん? ああ、損傷具合から見て、骸骨だね。歯形がある。奴らは食えもしねぇのに食おうとするから一発でわかる」
おそるおそる尋ねると、一番小柄な男が振り向いて答えてくれた。
ていうか骸骨が? どういうことだ?
「ん? 兄ちゃんマレビトかい? 余所の村から来たって感じじゃないし……何処から来たの?」
驚いているオレに違和感を感じたんだろう。小柄な彼だけが遺体を片づける作業を止めて尋ねてきた。
「は、はい……『ヒスイ神社』という所から」
オレは、彼の赤黒く変色した手袋にびびりながら返事する。
「ああ、あそこからかい。なるほどなるほど。マレビトさんなら知らないかもだけど、最近ここらじゃこれは日常茶飯事でね。近隣の小さな村が、みーんな黄泉返りに落とされちゃって余所者がたくさん来たからね。家に入れないあぶれ者も出てくるんだよ」
「家に入れない……あぶれ者?」
「そうそう。村を落とされ住み家を失った者は、だいたい血縁を頼って親戚の家に入れてもらったり、住み込みで働いたりして住む場所を得るんだけどね。これだけ人が多いと、それが出来ないあぶれ者ってのもたくさん出てくるんだよ。そして、結末は酷いものさ」
そう言って男は、死体の方を見る。
骸骨に襲われて……死ぬってこと?
マジで!?
「町の中にも……骸骨が入ってくるんですか?」
「ん? ああ、もちろんだよ。『ジドの国』には、べつに塀も柵も何もないからね。夜の11時過ぎには沢山うろついている。間違っても出歩かないようにね」
マジかよ……。
国の中にいれば安全だと、勝手に思いこんでいた。
ていうか聞いてないぞ。
昨日、ダンディーさんと話してたときには教えてもらわなかった。こんなとても重要な事なのに……。うっかり言い忘れてしまったのだろうか?
それにしても……。
「こんな事になると分かってるのなら、誰か家に入れてあげないんですか?」
オレはちらっと遺体の方を見て、彼に尋ねる。
「入れてるよ。入れてるが家にだってスペースの限界があるからね。今この国じゃ、本来5人で住む家に平均30~40人が住んでる。すでにパンク状態さ。それにこういう目にあうのは、だいたい深酒が過ぎて道で寝てしまう自己管理の出来ない者か、周りに迷惑をかけ助け合って生きてくことの出来ないならず者だ。兄ちゃんだってそういう奴を家に入れたくはないだろう? 家に入れるなら誰だって『協力して生きていける相手』を選ぶ」
なるほど……。彼の説明は分かりやすかった。
この国は今、そんな感じになっているのか……。
「兄ちゃんはちゃんと『住む場所』があるかい? がんばりなよ」
そう言い残して彼らは路地裏から出て行く。
気づくと遺体が跡形もなく消えていた。彼らが手にしているのは妙な布袋だけ。買い物袋(小)くらいの大きさで、とても遺体がすべて入ってるようには見えない。どうやって処理したんだろう……。
「あのっ、教えてくれてありがとうございます」
疑問はともかく、去っていく彼らにオレは頭を下げる。とても重要な情報を教えてもらった。
小柄なおじさんは一瞬きょとんとした後、
「幸運を祈ってるよ。もしどうしようもなくなったら『寺院』においで。一人くらいなら、なんとかしてあげられるかもしれない」
と、苦笑気味にだが笑って去っていった。
その言葉が……厚意が有り難く、オレはもう一度頭を下げた。
遺体を片づけるのを仕事にしている人たち……か。寺院って、お寺のことだよな? 坊さんには見えなかったがその関係者だろうか。少し変わったおじさんで言葉遣いもそれらしくなかったが、親切な人だった。
それにしても、住む場所がないと夜中に骸骨に襲われるなんて…………。
完全に想定外だ。
しかも一家に30~40人て……。どうりで借家がとれないわけだ。
通りに人が溢れているこの有様にも、納得がいった。




