22 あぶれ者
コンコン。
朝、控えめなノックの音で目が覚める。
戸を開けるとナタリだった。ムーコはいない。
「あ、き、昨夜はごめんなさい。その……途中で寝ちゃって」
いきなりそんな事を謝ってきた。なんか顔が赤い。寝落ちというのが恥ずかしかったのだろう。
「気にしないで。それよりご飯食べにいこう」
朝食は、一階にある食堂でとることになっていた。
「うん! ……あっ」
「どうした?」
「その……今度はフブキおにーさんの事も教えてくれる? 家族の事とかいろいろ……」
「ああ、もちろんいいよ。でもオレのは別に面白くとも何ともないと思うけど」
「ううん。おにーさんの話聞きたい」
「そう? それならまた夜にでも」
「うん。また夜にね」
元気よく答えるナタリ。
「そういやムーコは?」
「先にご飯行ってるって」
◇
「お越しになりませんね……」
「うん……」
朝ご飯を食べて、換金所へ来た。
昨日ダンディーさんと約束したとおり、町を案内してもらう為だ。
だが、ダンディーさんが来ない。
換金所は閉まっており、かれこれ1時間ほど店の前で待っているが、一向に来る気配はない。
途中、通行人のおばさんに尋ねたが、換金所はだいたい毎朝六時頃には開いていると言う。ちなみに今は八時。大通りの為か、ねじ巻き式の大時計があって確認出来た。
「朝って約束しかしてなかったけど、遅かったのかな?」
「どうでしょう……」
この世界の朝はもっと早いのかと思ってムーコに聞くが、まぁ分かりようがない。
「ダンディーさん、『国の守りが足りない』って呼ばれてたわよね。門番の人に聞いてみない?」
「そだね」
「そうしましょう」
ナタリの提案に、オレとムーコは賛成した。
ただ、それで入れ違いになってもあれなので、誰かはここに残った方がいいとなり、オレがこの場で待つことになった。
待つのに飽きてた彼女たちは、さっさと門の方へ行く。
オレも待ち飽きていたが、こーゆーのはまぁ仕方ないよね。
少し別行動になるが治安の面も大丈夫だろう。町の雰囲気も昨夜とは違って人の行き交いが多く、見た目も普通の人達ばかりだ。変な路地にでも入らない限り問題はなさそうである。
ていうかあっちはムーコがいるから大丈夫だな。オレの方があれだ。うん……情けない。
しばし待つと、二人が戻ってきた。
なぜかその足取りが重い。
「どうだった?」
「それが……今は誰が何処にいるかとか、細かい事はわからないんだって」
オレが尋ねると、ナタリが面白くなさそうに言った。
「え、わからない?」
「うん、それで今は『城の修復作業』で忙しいから、知りたければまた後日来てくれって……」
城の……修復?
「昨夜、ちょっと大きな襲撃があって、入り口の門の上にあるお城が半壊したそうです。実際、ずいぶんと壊されていました」
オレが疑問に思うとムーコが教えてくれた。
「そうなんだ…………襲撃ってあの骸骨とかかな……?」
「分かりませんが……おそらくは」
「そっか……そんな事が…………」
どうしたものか……。ダンディーさんは大丈夫なのかな。仮にも約束したのに来ないのだ。何かあったのかも知れない。
でも、何処にいるのかわからないんじゃ、仕方ない……か。
「門番さんの言うとおり、また明日訪ねよう。今日は自分たちで町を見て回って、出来れば仕事や安い借家を見つけよう」
「そうですね……自分たちの問題ですし」
「うん」
ムーコが頭を掻いて同意し、ナタリもしっかり頷いた。
それから三人で町を見て回り、『仕事』と『借家』を探す事となった。
◇
「悪いけど満室よ」
「空いてないわ」
「うーん、マレビトでも部屋を貸すのは構わないけど、全室埋まってるから……」
「忙しいが素人はいらん」
「え? 住み込み? 住まわせる場所なんてもうないよ」
……半日歩いて探したが、何処も断られた。
『借家』も『仕事』も当たったところは全滅だ。
だいたいが『人は足りてるから』と『満室よ』だった。
いったいこの国はどうなってるんだ?
日本じゃ仕事も部屋も、選り好みさえしなきゃ有り余ってるみたいだったのに……。
一応、何度か『元の世界に帰る方法』も尋ねてみたが、答えは大体いつも同じだった。
──『マレビトは元の世界に戻れないよ』
オレは町を独り、とぼとぼと歩く。
ムーコやナタリとは別行動をとっていた。仕事も宿も手分けして探した方が良いと、町を軽く見て回った後は別れたのだ。
「……ていうか人が多い」
げんなりして、ついボヤく。
朝はまだそうでもなかったが昼前にはどんどん人が溢れ、今はお祭りかよってくらいどの道にも人が往来している。しかも道の左右には屋台など出店がひしめき合って、「新鮮な川魚が入ったよ!」「安くしとくよー!」などと大声も行き交っている。
こんな大量の屋台、夜は全然なかったのに……。夜と昼とでは全く違うんだな……。
あまりの人の多さに辟易して、路地裏で休もうと脇道に入る。
そしたらそこに、人間の死体が転がっていた。




