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16 宿



「美味しかったね」

「うん……」

「初めて食べた味でした」


 料理は和食系で、初めてみる料理が多く楽しめた。

 彼女たちもお腹いっぱいになって幸せ顔だ。


 特にナタリは、換金所で元の世界に帰れないと聞いてからまた元気がなかったが、少し落ち着いたようだ。

 おいしいご飯は偉大だな。


 そして『ご飯処・よしの』を出て、宿へ向かう。

 すぐにおっさんの言っていた『紅葉宿もみじやど』や『丸太旅館まるたりょかん』は見つかった。お隣同士である。

 なんか店構えから、入ってからやっぱやめますとは言いにくそう。


「どっちにする?」


 オレは彼女たちに聞く。


「私はこちらが良いと思います」

「あたしも」


 二人ともすぐに『紅葉宿もみじやど』を指した。

 見た目はそう変わらないんだけどな……名前の差だろうか。


「じゃあそっちにしよう」


 中に入るとすぐに女将さんが来た。


「ようこそ紅葉宿もみじやどへ。ウチへどうぞ~」


 女将さんが挨拶し、受付へ案内される。


「お客はんツいてはるわ。いつもならこの時間満室なんやけど、今日は急に空きがいくつも出ましてな~」


 マジかっ。満室を考えてなかった。

 先に宿をとっておくべきだったかも知れん……。

 まぁ、でも結果オーライだ。


「お部屋はお一つでよろしかったどすか?」


 女将さんが聞いてきた。


「あ、できれば二つお願いしたいんですが……僕が一つと、ムーコとナタリは一緒でいいよね?」


 彼女たちは個別で頼むよりも、二人部屋の方が安いはずだ。


「はい」

「一緒で」


 二人が頷く。


「かしこまりました。朝食付きで、お一人様が1万3000ポウ。お二人様はそれぞれ1万500ポウになってます」


 うっ。高っ。換金所のおっさんは手頃と言ったが食事料金に対して宿代が高い。そんな高級旅館ってわけでもなさそうなのに……。

 顔には出さないが内心うろたえた。


「三人一部屋でしたら、おいくらですか?」


 ムーコが尋ねた。


「そちらでしたら、2万4000ポウになってます」


 2万4000ポウ。一人当たり8000ポウか……。二部屋とるよりオレは……えーっと…………5000ポウ安くなる。ムーコとナタリにとってもさらに安くなる感じだ……。


 お金は換金所で受け取った時にすぐ三人で分けたので、一人当たり5万ポウ。

 さらに晩ご飯食べたから、現在は所持金は約4万9000ポウだ。

 オレ一人で泊まったら、たぶん食費合わせて3日くらいで尽きる。


 たった3日か……。宿がこんなに高いとは思わなかった。泊まってもいいものだろうか。換金所のおっさんが、色々と力になってくれるとは言っていたが……。


 いや、ともかくお金だけを考えたら三人一部屋がいいが、それはダメだ。

 きっと男のオレがいるとムーコやナタリはゆっくり休めない。

 こんな世界に来て、とても怖い目にあったんだ。せめてぐっすり眠るべきだ。


「どう致しましょ。三人部屋も空きはありますが」


 女将が俺達を伺うように言った。


「二部屋とろう」

「ですが……」


 オレがムーコに言うと、彼女が躊躇った。

 節約したい気持ちは同じなのだろう。

 こんな何も知らない世界で、唯一と言っていい財産だ。当然だろう。

 けど……。


「二部屋でも、まだ3日くらいは泊まれる」

「そうですけど……これからどうなるのか判りませんし、三人一緒なら5日は泊まれますよ?」


 それはそうかも知れないが……。

 ちらっとナタリを見るとうつむいて困ってる。うん……男女同室良くない。

 オレだって女の子に一緒にいるのを気にされる状況下で、平気でいられるほど神経図太く出来てはいないのだ。


「あの……お客はん」

「あっ、すみません」


 オレが迷っていると、女将さんが声をかけてきた。


「いえ……つかぬ事をお伺ええたしますが、お客はんってどちらから来られたんどすか?」


 女将が少し怪訝そうな顔でそう聞いてくる。


「えっと……」


 この情報ってやたらおおっぴらに言っても良いのだろうか。


「鳥居をくぐったらこの世界へ来たの」


 オレが戸惑うとまたナタリが言った。


「あ、やっぱり。ちびっと服装が変わってらしたし……。じゃあ『ヒスイ神社』の事を知らせてくれたマレビトはんって、あんさん達やったのなぁ」

「ええ……まぁ」


 噂になっているのか。


「失礼ですけど、この国のお金は手に入れられました?」

「あ、はい。換金所で……。神社の事をこの国の門番さんに伝えるお駄賃としてお面をいただいたので」

「では、換金所の人は何や言うてました?」

「はい。この宿のことも含め、色々と教えて頂きました。……明日も町を案内して下さると」

「そう。そら良かった」


 オレが説明を聞くと、女将は安心した感じで笑った。


「では、うちも今晩だけ……そうね、朝食代の500ポウだけ頂いて、お部屋代はなしで二部屋こしらえさせて貰いますわ」

「えっ……いいんですか?」


 ほとんど無料ではないか。さすがにそれは……。


「ええのええの。どうせ今日はもう『空き』になってしまうし。困ったときはお互い様」

「……ありがとうございます」


 礼を言って、ふと気づいた。

 もしかして満室だったのに宿のキャンセルが出たのって、この騒ぎのせいじゃないのか? 門の所に集まった武装した人たちの幾人かは、ここに宿泊する予定だったのかもしれない。だとすると……。


「お客はんが持ってきてくれた情報、大事な事やから気にせんと」


 オレがそれに気づき申し訳なく思っていると、それを察したのか女将は笑っていった。



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