15 カネ
ここでナタリが、オレ達の一番知りたいことを尋ねた。
オレとムーコはちょっと緊張する。
「元の世界か……」
対して、一転苦い表情になるおっさん。
「ビャクの旦那には聞かなかったのかい?」
「ううん。聞いたわ。『戻る方法はない』って。……でも本当にそうなの?」
「うむ……。残念だがその通りだ。『マレビトが元の世界に戻る方法はない』……それが通説だ。俺自身、これまでも何十人とマレビトと出会ってきたが、誰1人帰れた者を知らない」
「そんな……」
うなだれるナタリ。オレもまいる。
マジかよ……。
門番さんに続き、このおっさんまで……。
「……じゃあ、なんであんな鳥居をそのままにしてるんですか?」
オレは少し不満まじりに尋ねる。
あの鳥居がなければ、こんな事にはならなかった。
「鳥居? ああ……なにも別の世界と繋がるのは、鳥居に限った事じゃないんだ。原因はわからないが、井戸、道、霧……至る所からマレビトは来る」
「えっ……そんな色んな場所からも?」
「ああ、中には風呂の中から出てきた者もいる」
そうなんだ……。鳥居だけから来るわけじゃなかったのか……。
「じゃあ……他のマレビトさんを訪ねて聞いても、あんまり意味はないですかね」
「そうだなぁ……。みんな体験談を話し合うだけで、結局解らずじまいだな。超常現象の類だ、どうしようもあるまい」
超常現象……。確かにそんなのじゃどうしようもない……。
「何人もマレビトを見てきたから解る。辛いだろうが、早いトコこの世界で生きていくことを考えた方がいい。それなら力になれる」
おっさんが、落ち込んでいるナタリを気にして優しく言う。
この世界で生きていくことを……か。
「………………………………」
オレを含め、3人とも黙ってしまう。
どうすればいいのかわからない。
頭が回らない。
とつぜん、そんなことを言われても……。
「気持ちはわかる」
おっさんの声。
「俺も、あんたらと同じ立場だったら、「はい、そうですか」……とは、いかねぇもんな。気持ちの整理ってもんが、人には必要だからな」
おっさんは、うんうんと頷きながら話す。
「今後どうしていくか、ゆっくり考えるといい。だが、そのためにもやっておかなきゃならん事があってな」
おっさんが、カウンターの上の『お面セット』に手をかける。
「この国も余裕があるってわけじゃないからな……基本的に誰も助けちゃくれねぇ。自分達の衣食住は、自分達で賄っていかないと生きていけねぇんだ。つまり──『金』が大事って事だ」
金が……。
そうだ……ビャクさんにお面がお金になるって言われて、換金所に来たんだった。
「一つ覚えておくといい。このお面……これは『呪物』と言ってな、黄泉返りを倒した後に残る、奴らの本体のようなモノだ」
「本体……」
「そうだ。そしてこの呪物を換金所に持って行くと、討伐報酬として国から『報酬金』が支払われる。……まぁ、退魔師はそうやって生計を立てているってわけなんだが」
「……ああ、だからビャクさんは、お面を『駄賃代わりに』って渡してくれたんですね」
「そういうことだな。そして、ここでこの呪物を換金して、あんた達に金を渡す。それが『換金所』の役目であり、俺の仕事ってわけだ」
なるほど……。
「ってなわけで、まず、この『呪物』を査定させてもらうぜ?」
「は、はい」
おっさんがお面セットの紐を解いて、三つ並べる。
面にはみんな大きく『賊』という文字が書かれていた。
あれ? そう言えば、オレ達の前に現れた奴には『頭』って文字が書かれてたと思うが……何か違うのだろうか?
「『賊』が三枚か」
おっさんはそう呟き、カウンター下からなにやら宝石鑑定で使うようなレンズを出して、それでお面を見る。
「うむ……合計、15万ポウだな」
「15万……ポウ?」
「ん、ああ、金だ。ポウは通貨単位」
ふうん……変わった通貨単位だな。
不思議に思っているとおっさんが、金貨を出す。長方形型の金貨だ。
「これが15万ポウだ。受け取りな」
数えると金貨は全部で十五枚ある。つまり金貨一枚が一万ポウか。ちょうど三人で割れるので、そのまま五枚ずつムーコとナタリに分けていく。
「これは、どのくらいの価値があるんですか?」
分けながら、オレはおっさんに尋ねる。
「そうだな……。飯一食がおよそ500から1000ポウだ」
500から1000ポウ……。あれ? およそ日本円と同じくらいかも。
だとしたら分かりやすくていいな。
ていうか……じゃあ15万ポウって、十五万円相当!?
……いいのか? こんなにも貰ってしまって。
「ヒスイ神社の件は重要な情報だが、情報伝達の駄賃としちゃ高額だ。ビャクの旦那が、マレビトであるあんた達に必要になると踏んで、融通してくれたんだろう。感謝して受け取っておきな」
金額の価値を知り戸惑っているオレに、おっさんは優しく言った。
……ビャクさん。
「そうですね。有り難く受け取って置きます」
そして、いつかこの恩を返そう。
バン!
突然、扉が開き武装した男が入ってきた。
「ダンディー! 思ったより人が足りない。すぐ来てくれないか!?」
「わかった! すぐ行く!」
おっさんがそう答えると、すぐに男は去っていった。
人が足りない? なんだ?
「悪いが、神社の件でこの国の守りが足りなくなったようだ。オレも出張らにゃならん。すまんがまた明日……そうだな、朝のうちに来てくれるか? よければ町を案内しよう。俺はガキの頃からここに住んでるから、色々力になれると思う」
おっさんが、慌ただしくお面や鑑定道具などをしまいながら言った。
ありがたい。ここの事を何も知らないオレ達だ。迷わず了解である。
「わ、わかりました」
「ありがとうございます」
すぐオレが返答し、ムーコが礼を言った。ナタリも頭を下げる。
そしてすぐおっさんは武具を身につけ、オレ達と一緒に換金所を出た。
「宿はこの裏の通りにいくつかある。『紅葉宿』や『丸太旅館』が手頃でお勧めだ。それだけあれば、数日は泊まれるだろう。あんまり安い宿は鍵もないからやめておいた方がいい。あ、あと、今晩は国の出入り口に近づくのはやめた方がいい。危険だ」
おっさんは、そう言い残して門の方角へ走っていった。
危険……て、あの骸骨とかが襲ってくるのだろうか……?
「これからどうします?」
ムーコが頭を掻いて聞いてきた。
「……とりあえず、ご飯にしようか。出入り口は危ないらしいから、何処か中のほうで」
「そうですね」
「……うん」
ムーコとナタリが了承した。
とりあえず宿の確認の為にも──と、一本裏の通りに行ったら、そこにもいくつか飲食店があった。
美味しそうな匂いも漂ってくる。
そのうちの一つ、『ご飯処・よしの』と看板が出ているお店が目についた。
雰囲気も悪くなさそうで、そこそこ人も入っているようだ。
「ここにする?」
彼女たちもその店を見ていたので、提案してみる。
というか、知らない夜の町を歩くのがもう嫌だった。
「そうですね」
「……うん」
二人ともすぐ了承してくれたので、そこで晩ご飯を取ることになった。




